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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第1章 新たな脅威
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第15話「魔王と元部下」

 ユアたちが無差別襲撃事件の犯人に苦しめられているところに、ディンフルが颯爽と現れた。


「ディンフル!」

「ディンフルさん!」


 フィトラグス、オプダット、ティミレッジが彼の名を呼んだ。


「ディン様ー!」


 最後に叫んだユアは嬉しさのあまり、思わずディンフルに抱き着いた。


「気持ちはわかるが今はやめておけ。それどころでないことは承知の筈」

「すいません……」


 ユアは途端に恥ずかしくなり、彼から離れた。

 ディンフルは仲間たちへの挨拶を程々に、クルエグムらへ向かい合った。


「お前たちも久方ぶりだが、ずいぶんなことをしてくれたな」

「“久方ぶり”って……知り合い?!」


 ユアのみ驚きの声を上げた。

 フィトラグスら三人は先日国王から聞き、事情を知っていた。

 だが、イマスト(ファイブ)の攻略本には「ディンフルの元部下」などの詳細は書かれておらず、ユアだけ今、初めて知ったのだ。


「この人たち、ディンフルさんの元部下なんだよ」ユアへ駆けつけたティミレッジが説明した。


「部下になった覚えなんてねぇよ!」


 立ち上がりながらクルエグムが怒鳴った。

 その顔は受けたダメージによる苦悶と怒りに満ちていた。


「お久しぶりだね、()()()


 同じくレジメルスも苦痛に顔を歪めながら立ち上がった。

 口調は落ち着いているが、「魔王様」の部分を敢えて強調した。


 アジュシーラも立ち上がるが何も言わない代わりに、憎しみと恐怖が入り混じったような目でディンフルを睨みつけていた。


「聞いているぞ。ここ数日、お前たちが暴れ回っていることを」

「上司面で説教でもしに来たのか? あんたに止められようと俺らはやめねぇ! 人間どもを徹底的に苦しめてやる!」


 クルエグムはディンフルに噛みついた。

 上司と部下の関係ではあったが、言うことを聞く気はなさそうだ。


「お前たちの考えはわかっている。それゆえ、期待などしていない」

「は……? わかってるなら考えたことあるの? 僕らがあんたから離れて行った理由」


 レジメルスも反発した。

 先ほどまで目の色一つ変わらなかった彼だが、今の台詞には怒りの感情が込もっていた。


「その節はすまなかった。だが、後悔はしていない」

「何だと?!」


 ディンフルが悔いていないことを伝えると、クルエグムはさらに怒気を強めた。


「後悔してないだと……? 人間が俺らに何したか忘れたのか?! あんただって大事な人、殺されたんだろ?! それなのに瀕死の人間を見逃したり、今だって庇いやがってよ!!」


 ユアたち四人は、ディンフルが魔王になっても誰一人殺していないことを知っていた。

 彼の恋人・ウィムーダは人間から暴行を受けて亡くなった。それでも彼女は人間との共存を強く望んでおり、死ぬ直前まで彼らを信じ続けていた。

 その思いから、ディンフルは彼女のために人間を殺さない代わりに異次元へ飛ばす手を取っていた。

 クルエグムが言った「瀕死の人間を見逃した」と言うのは、ディンフルに残っていた優しさによるものだった。


「何だよ、異次元へ送るって? 魔王になったんだから殺せばいいじゃねぇか! 人間は俺らから家族や友人、故郷も奪って来たんだ! だったら、俺らも奴らの大事なもの奪っていいだろうが!」

「そんなことをしても解決にはならぬ。失う辛さを知っていたからこそ、殺さなかった」

「綺麗事だね。それに嫌気が刺したから僕たち、離れたんだよ。あんたみたいな中途半端な魔王には仕えたくないし」


 クルエグムとレジメルスがそろってディンフルを非難した。


「話しても無駄だな。三人まとめて掛かって来い。私が勝てば、こいつらと人間たちには金輪際、近付くな」


 ディンフルは魔法で大剣を出した。


「面白ぇ!」とクルエグムは剣を構え直し、レジメルスはファイティングポーズを取り、アジュシーラも青紫色の球体を周囲に出したりと、戦闘態勢に入った。



 ユアたちが離れて見守る中、クルエグムが早速斬り掛かった。

 最初は押されたディンフルだがすぐに払いのけると、クルエグムは吹き飛ばされてしまった。


 次にレジメルスが強烈な蹴りを入れた。

 ディンフルは剣を持っていない方の手で受け止めると、同じように蹴りを繰り出した。レジメルスも吹き飛ばされた。


 最後にアジュシーラが周囲に出した青紫色の球体を次々と放って行くが、すべてディンフルの大剣さばきで相殺されてしまった。

 そして球体が無くなると、アジュシーラの目の前まで一気に距離を詰めた。


「子供だからと言って、容赦はせぬ!」


 そう言うと、彼の頬を引っ叩いた。

「容赦はしない」と言うが、クルエグムやレジメルスと比べると軽い攻撃法だった。


「痛いよ~!!」


 だが、子供には強烈な一撃だったようだ。

 アジュシーラは大声で泣き始めた。


 ユアたちは「助かった……」と胸を撫で下ろすと共に、改めてディンフルの強さを思い知るのであった。



「諦めろ。お前たちに私は倒せぬ」

「誰が諦めるかよ……!」


 クルエグムは負けを認めず、痛みに耐えながらも体を起こそうとした。

 倒れた三人の元へフィトラグスたちが近づいた。


「何で無差別に人を襲ったんだ?」オプダットが尋ねた。

「決まってるだろ。人間が嫌いだからだよ。元魔王だって嫌ってたくせに」


 レジメルスは胡坐をかき、倒れた際にズレたマスクを整えながら答えた。


「ディンフルさんは色々あって考え直したんだよ。君たちも考え直せば……」

「冗談じゃねぇ!!」


 ティミレッジが言い掛けると、クルエグムが乱暴に遮った。


「誰が人間に対して考え直すものか!」アジュシーラは文句を言いながらも、まだ目に涙を浮かべていた。

 ディンフルはため息をつくと、まだ立てそうにない三人の前に片膝を立ててしゃがみ込んだ。


「城を出てから行方がわからなくなっていたが、どこで何をしていた?」

「あんたに関係ない」


 レジメルスが無感情で言ったきり、他の二人も答えなかった。


「関係ないことは無い。お前たちはまだ若い」

「年上ぶってんじゃねぇ!! 人間を助けて、俺たちディファートを裏切ったくせに!」

「別に裏切ってなど……」


 反発し続けるクルエグムにディンフルはなす術が無かった。



「あの御方とは大違いだ」


 クルエグムはディンフルから視線を逸らしながら、つぶやいた。

 その意味深な発言をディンフルは聞き逃さなかった。


「あの御方……? 誰のことだ?」


 聞かれたクルエグムはニヤリと笑いながらディンフルを見た。

「待ってました」と言わんばかりの笑みだった。


「“血筋の者”……とでも言っておこうか」


 聞いてもユアたちは首を傾げるばかり。

 だが、今の発言でディンフルのみ胸騒ぎを覚え、眉間にしわを寄せた。



 一行を再び突風が襲った。

 最初のアジュシーラが現れた時よりも強い風だった。


「ここに居たのか」


 風が止むと、青紫色の短髪をオールバックにし、黒いロングコートを着た長身の男性と、長いウェーブ上の黒髪にゴスロリを思わせるダークな色調のメイクに、黒を基調としたフリル付きのジャケットにロングスカートを履いた女性が現れた。

 今聞こえた声は男性のもので、ディファート三人へ声を掛けていた。


 男性が姿を現すと三人衆は急いで体を起こし、彼へ向かって跪いた。


「探したのよ~。みんなそろって出て行くなんて、本当に仲が良いのね」


 一緒に来ていた怪し気な雰囲気のする黒髪の女性が楽しそうに言った。

 彼女を無視してクルエグムは男性へ尋ねた。


「ヴィヘイトル様、何故こちらへ?」


 先ほどまで乱暴に振る舞っていたクルエグムさえ、“ヴィヘイトル”と呼ばれる男性へ敬意を払っていた。



「ヴィヘイトル……?」名前を呼ぶディンフルは血の気が引いた。


「お前もいたのか、ディンフル」


 ヴィヘイトルはクルエグムには答えず、真っすぐにディンフルを見つめた。

 ティミレッジが「あの人も知り合いですか?」と尋ねた。



「……兄だ」



 ディンフルが声を絞り出して答えると、他の四人は固まってしまった。

 ユアでさえ新しく来た二人の情報も攻略本で知っていたが、やはり詳細は初耳だった。


 そしてその兄は今、無差別事件の犯人のディファートから敬われている。

 五人全員、嫌な予感がした。


「ほう。クルエグムたちから聞いてはいたが、また人間に心を許したようだな? ウィムーダを殺され、俺と同じ人間嫌いになったのではないのか?」

「貴様には関係ない……!」

「“人間と仲良くしたい”などと戯言を言っていた彼女、人間どもに殺されたのだろう? あんな奴らに媚びるからだ。バカな女だ」

「ウィムーダを悪く言うな!! 彼女は間違っていない!」


 会話の時点でユアたちはこの兄弟が親密でないと察した。それも、ただの不仲ではない。

 ディンフルが魔王になってからも大切にしていたウィムーダをヴィヘイトルは良く思っておらず、故人であるにもかかわらず冒涜した。


「恋人を殺されたのに人間と一緒にいるのか? 昔から中途半端だな、ディンフル。今回も結局、世界を支配せずに終わったではないか」

「黙れ!! これで良かったのだ!」


 ヴィヘイトルは余裕なのか常に怪しい笑みを浮かべ、逆にディンフルはずっと焦っていた。


 ユアは超龍戦以外で切羽詰まった彼を初めて見た。

 初めて会った五人は明らかに味方の雰囲気ではないので、今から胸が苦しくなるのであった。

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