第128話「ノクリスタリー」
闇魔導士ドーネクトとその助手ダーケストから、ノクリスタリーが有毒な石だと説明を受けた一行は、さらなる疑問に襲われた。
「あなたたちは闇魔導士だよね。何で壊しに行くの? 同じ闇属性なのに」
ティミレッジの質問に、ドーネクトが冷静に衝撃の告白をした。
「ノクリスタリーが世界を毒する石なのは知っていた。だから、初めはそれを利用して世界を征服しようと企んでいた」
「とんだ考えだな……」フィトラグスが呆れ返った。
「だが、手元に無くなった今、目的を変えて壊すことにしたんだ」
ドーネクトが続けて話すと、今度はダーケストが説明し始めた。
「あの石は元々、私が拾ったものです。ノクリスタリーと知った時は焦りました。邪悪な者に拾われたら厄介になると思い、壊そうとしました。しかし、どんな力も受け付けませんでした。そんな時にドーネクト様と出会ったのです」
「ノクリスタリーが出会わせてくれたようなものだ。ただ、俺も生で見るのは初めてだったし、ダーケストが言うように、本当にどんな魔法も効かなかった。それで、どうすれば壊せるか共に探ることにしたんだ。“手を貸すから、俺の助手になれ”と言ってな」
「それで助手になったんだな」オプダットが事情を理解した。
「待て。初めは壊そうとしたのか? 先ほど、世界を征服するとか申していなかったか……?」ディンフルが違和感を覚えた。
「ああ。でも、あんまり壊れないものだから諦めて、考えを変えたんだ。“これで世界征服をしよう”と!」
ドーネクトの野望を聞いた一行及びダーケストは、深くため息をついた。
「意志の弱すぎる男じゃ」イポンダートも苛立ちながら言った。
「やかましいっ! 誰だって強すぎる力を手に入れたら、野望を抱くだろうが!」
「最初に拾ったのは私ですが、野望などは生まれませんでした。元々、世界征服にはまったく興味ありませんので」
ダーケストが反論した。
確かにドーネクトの言うことが正しければ、出会う前に世界征服を企んでもいいはずだった。
「ほれ見ろ! いい歳こいて世界征服を目論むのは、お主ぐらいじゃ!」
「何だと、ジジイ?!」イポンダートに指摘され、ドーネクトが腹を立てた。
「あなたもジジイの類でしょう」さらにダーケストからも皮肉を言われた。
「俺は四十代だ! ジジイじゃねぇ! 若造だっ!」
怒鳴り散らすドーネクトを見て、ユアたちは「相変わらずだな……」と呆れるのであった。
「もしや、あなたの毒舌ってノクリスタリーのせい……?」
「関係ありません。単に一緒に過ごしていると、毒を吐きたくなるぐらい劣等感が目について来たからです」
前々から容赦なく毒を吐くことに疑問を持っていたユアが思わず聞いてみた。が、すぐダーケストに否定された。
その解答にドーネクトは相手を睨みつけ、舌打ちするのであった。
「で? あんたらが持ってた石が、何で俺らの知り合いの手に渡ったんだ?」今度はフィトラグスが尋ねた。
「同じものかはわかりかねますが、最近ドーネクト様がビラーレルの教会付近で落としたんです。ちょうど、彼を闇堕ちさせたばかりの時でしたね」
ダーケストは、ティミレッジを指しながら答えた。
「ビラーレルの教会?! あそこに落ちたら、魔導士の誰かが気づくはずだけど……?」ティミレッジは驚きながら言った。
「気づかれなかったということは、早めにあなた方の知り合いに拾われたのでしょう。その知り合いは、相当の悪しき者ではないでしょうか?」
「その通り。ヴィへイトルには善人のカケラすらない」
ダーケストの問いにディンフルが返答すると、今度はドーネクトが興味深く尋ねた。
「ヴィへイトル……? 廃墟に行った時、生意気な三人組が口にしていたが、どういう奴なんだ?」
「私の兄だ」
ディンフルが言うと、ドーネクトとダーケストは息をのんだ。
その事実だけで、二人は背筋が凍ってしまった。
「ま、魔王の……兄……?」
「弟である故わかることだが、並大抵の者ではない。この私が一撃も与えられずに圧倒されたのだ」
闇魔導士二人は今度は言葉を失った。
自身らが敵わないであろう魔王を圧倒した相手にノクリスタリーを拾われた。その絶望感は半端なものではなかった。
「安心せい。わしも行くのじゃ。ヴィへイトルのついでに、ノクリスタリーも何とかしよう」
イポンダートが安心させるように言うと、オプダットが疑問を持った。
「何とかするって、やっぱり壊すのか?」
「そうせねばなるまい。ノクリスタリーは邪気を吸うと、無限に大きくなる。元々、耐久力の強い石じゃ。ヴィヘイトル同様に厄介じゃ」
「ん? と言うことは、闇魔導士らも一緒に行くってこと?」
「そうだな、我々に同行してもらおう。どっちみち人手が欲しかったのでな」ユアが尋ねると、真っ先にディンフルが賛成の意思を示した。
「人手……? お前らに協力せにゃならんのか?」
ノクリスタリーにしか用がないドーネクトは眉間にしわを寄せた。
「行きましょう、ドーネクト様。どちらにせよ、魔王の兄がいます。彼らと協力した方がメリットが多いと思います」
「う~む……」ダーケストに助言され、ドーネクトは考えこんだ。すぐに賛成は出来ないようだ。
「私も二人きりの旅では不安しかありませんので」
「それは、どういう意味だっ?! わかった、行けばいいんだろ! その代わり、我々はちゃんと協力するんだ! お前たちにも、しっかり働いてもらうからな!」
「何で上から目線なんだよ……」ドーネクトの態度にフィトラグスが再び呆れ果てた。
「それと、うちの助手を不快にさせない方がいいぞ! もしさせたら、ノクリスタリーと同じぐらいの毒が飛んで来るからな! 俺だって、日頃どれほどいじめられてることか……」
「それは、ドーネクト様に問題があるからでしょう」
「何だとぉ?!」
ドーネクトが日頃の恨みでダーケストを中傷するが反撃され、結局は自分が怒る羽目になった。
クールに聞き流す助手と煽り耐性ゼロの対決では、どちらが勝つかは目に見えていた。
「いじめと言えば、学生時代にパパをいじめてたそうだね?」
思い出したティミレッジが低音でドーネクトを追い詰め始めた。
いつか、サティミダやアビクリスから聞いたのであろう。
「か、関係ないし昔の話だろ?!」焦ったドーネクトはとぼけて見せるが、一行からも睨まれてしまう。
「いじめっ子ほど、煽り耐性が低い上に“昔のことだから”と言い逃れをするらしいが、まさにその通りだな」
「何ぃ?!」
さらにディンフルにまで指摘された。
さっきからドーネクトは怒ってばかりで、早くも疲れを見せていた。
「もうやめんかい! 古城へ着くまでに仲間割れしておったら、いざという時に団結出来んぞ!」
イポンダートが仲裁に入ったことにより、論争はそこで中断した。
何はともあれ、一行は闇魔導士たちを仲間に加え、古城へ向かうのであった。




