第129話「古城の前」
船に揺られ、闇魔導士らを仲間にしたユアたちは古城がある孤島に到着した。
魔法の船から地面へ降り立つと、皆の体に重さを感じた。長時間、船に乗っていたのでその影響か、船酔いと思われた。
「また船酔いかも……?」
「いや、あいつのせいだ」
ユアが不調を訴えると、ディンフルが前方の空を指さした。
古城は崖の上にあり、さらに一番上には城の幅ほどにまで成長した青紫色のギザギザとした石があった。
「何だ、あのでけぇの……?」
「あれがノクリスタリーだ」
オプダッドへドーネクトが答えると、一同は戦慄した。
「あそこまで大きくなっているとは……」特に最初に拾ったダーケストは、石の成長には目を見張るしかなかった。
「あれを何とかすれば良いのだな? 急ぐぞ!」
皆が圧倒される中、ディンフルのみは平常心を保ち、古城へ向かって駆け始めた。
古城に近くなったその時、一行の前に青紫色の短髪に黒いロングコートを着た男が現れた。
ディンフルの兄・ヴィへイトルだ。
「ヴィへイトル?!」
「待っていたぞ」
相手の顔を見た瞬間、ディンフルが緊張し始めた。
兄と戦ったのは数週間前が最初で最後。しかも、一度もダメージを与えられずにやられてしまった。
「いい加減、邪龍の召喚を止めろ! フィーヴェ中が困っているのだぞ!」
ディンフルが早速声を荒げるが、ヴィへイトルは無視して後ろのユアへ目をやった。
「お前にも会いたかったぞ、ユア」
「わ、私?!」
目に掛けられるとは思わず、素っ頓狂な声を出すユア。
仲間たち四人が彼女を隠すように立ちはだかった。
しかし次の瞬間、ヴィへイトルが手を前に出すと、目に見えない強力な衝撃波が一行を襲った。
ディンフルのみ踏み止まり辛うじて残ったが、ユアを含む仲間たちと闇魔導士二人は後方へ飛ばされてしまった。
「お前たち!」
ディンフルが振り向き仲間たちを心配していると、ヴィへイトルが武器を振り下ろして来た。
すかさず気付き、こちらも大剣を召喚し受け止めるディンフル。よく見ると相手の剣も大剣で、長さが二メートルほどはあった。
ディンフルがヴィへイトルと鍔迫り合いをしている間に、倒れていたユアの体が抱え上げられた。
仲間の誰かが起こしてくれたのだと思った。
「あ、ありがと……」
だが顔を上げて見ると、邪悪に微笑むクルエグムの顔があった。
「あなた?!」
「大丈夫か、ユア?」相手は何かを企んでいるように不敵に笑っていた。
「は、離して!」もがくが、彼は離れないようにしっかりとユアを包み込んだ。
「悪いが、一緒に来てもらうぞ」
「えっ?」
クルエグムは返事を待たずに、ユアを連れて魔法で消え去ってしまった。
「ユア?!」
ようやく体を起こした仲間たちは絶望し、ディンフルも背後の状況を見て叫んだ。
その間にヴィへイトルは大剣に自身の体重を掛けた。重みに耐えきれなくなったディンフルは一旦、相手から距離を取った。
「何故、ユアを連れ去った……? 貴様が命令したのか?!」
「そうだ」
ディンフルはクルエグムの行動が理解出来ずにいた。
すぐにヴィヘイトルへ怒鳴るが、相手は怯むことなく勝ち誇った顔をしていた。
「何のためだ?! あいつはリアリティアから来た。フィーヴェの戦いには何の関係もないのだぞ!」
「だからだ」
ヴィへイトルは冷たく一言だけ答えた後で説明し始めた。
「リアリティアから来たから連れ去った。昨日、フィーヴェに天から光が降りた後、新しい地域が生まれただろう?」
「それが何か?」
「あれで、リアリティアからこちらを操作すれば、フィーヴェに何かしらの影響が出ることがわかった。それなら俺があちらへ行き、お前たちを消すなどしてこの世界を書き換え、フィーヴェを征服しようと思ったのだ」
ヴィへイトルの企みに、その場にいる全員が絶句した。
「そのために、ユアちゃんを?」
「世界を行き来できる力を、そんなことに使うなんて……」
「ユアだけじゃない。奴のことだから、リアリティアも支配するに決まってる。絶対許さねぇ!」
ティミレッジ、オプダットはうなだれ、フィトラグスは敵の野望に立腹した。
「俺に楯突くか? ディンフルがいなければ、三人衆に成す術もなかったくせに」
「今はジュエルがある! 俺らをナメるんじゃねぇ!」
ヴィへイトルが嘲るように言うとオプダットが憤り、必殺技を繰り出した。
「リアン・エスペランサ・スパークル!!」
いつものように地面を殴り、黄色い衝撃波と稲妻を発生させる。地面は衝撃波で割れながらヴィへイトルへ向かっていく。
しかし次の瞬間、衝撃波と稲妻はヴィへイトルだけを避け、二方向へ分かれてしまった。
「なら、俺が!」
次はフィトラグスが剣を構え、ヴィへイトルへ斬り掛かっていった。
「ルークス・ツォルン・バーニング!!」
ところが、ヴィへイトルに剣の刃を手で受け止められた上、繰り出されていた白い光と赤い炎も相手の体だけを避けてしまった。
「そんな……」
あまりの強さにフィトラグスが呆然としていると、ヴィヘイトルは剣ごと彼の体を投げ付けた。
すかさずティミレッジがフィトラグスを抱き止めた。
「お前たちに、俺は倒せん」
剣の刃を握っていたにもかかわらず、ヴィヘイトルの手から出血はしていなかった。
さらに冷たく笑う彼へ、今度はディンフルが大剣を振った。
「シャッテン・グリーフ!!」
黒と紫の衝撃波が発動する。
だが、ヴィヘイトルはそれも手刀だけで打ち消してしまった。
「ディンフルさんの技も効かないなんて……」
唯一、必殺技を使えないティミレッジが慄いた。
オプダットとフィトラグスだけでなく、頼みのディンフルでも敵わない。
一行はすでに引け目を感じるのであった。
「イポンダート! どうすればいい?!」
ディンフルが振り返り、声を掛けた。さすがに藁をもつかむ思いだった。この旅には、老師であるイポンダートもついて来ていた。
だが、先ほどから姿が見えない。
「イポンダート……?」聞いていたダーケストが、その名前を復唱した。
闇魔導士の後ろをさらに見ると、イポンダートは倒れていた。
どうやら、パーティの中で一番遠くまで飛ばされてしまったようだ。
「大丈夫か、じいさん?!」
慌ててオプダットが駆け付け手を伸ばすが、イポンダートはその手を取らなかった。
何故なら……。
「すまん、腰をやってしもうた。悪いが、ここからはお主らだけで行っとくれ……」
「はぁぁぁぁあ?!」
ヴィヘイトルから出た衝撃波で腰を思いっきり打ったらしく、立つことすら困難になってしまっていた。
しかも「安心せい」「ユアのサポートも行う」などと大口を叩いていたのに、もう動けない。
ユアのサポートをする前に彼女もさらわれてしまい、最悪な幕開けとなってしまった。
「一体、何しに来たぁ?!」ディンフルは混乱し、思わずケガ人の老師へ怒鳴りつけた。
「仕方ないじゃろ! わしだって好きでケガしたんじゃないんじゃから! 文句ならヴィヘイトルへ言ってくれ!」
「奴相手に自信があるのではなかったのか?! 先ほどの衝撃波もそちらなら防げたであろう?!」
「それこそ仕方ないじゃろう! 歳なんじゃから!」
「年齢を言い訳にするなぁ!!」
頼りになると思われたのに、あっさりと戦線離脱宣言するイポンダート。ディンフルの怒りが収まらない。
仲間たちも、その様子にため息をつきながら肩を落とすしかないのであった……。




