第123話「ギャル霊能者」
インベクル留置所の一室。
用意されたイスに腰かけ、ユアたちは改めて、元ネガロンスのネーガと話をし始めた。
「呪いは、迷わせの森で掛けられたのですか?」
ティミレッジがネーガへ尋ねた。
彼女は半年ほど前に迷わせの森で行方不明となっていた。その間、ネガロンスになっていたので森で何かあったのは確実だった。
ネーガは苦笑いしつつも、明るいトーンで話してくれた。
「もう大変だったんだから~! あたしがいつものように、迷わせの森に行ってたの。ほら、あの奥に神様祀ってるとこあるじゃん? インベクルで言う神殿だったり、チャロナグで言う祠みたいな場所! そこでお参りしてたら、急に大量の霊が助けを求めて来たんだ。その時にあいつがやって来てさ」
「あいつ?」
オプダットが聞くと、ネーガは「ヴィヘイトル」と一言だけ言った。
「ヴィヘイトルだと?!」ディンフルが驚愕の声を上げた。
「そう。何でも、“世界を手にするにはお前の力が必要だ”とか言って、あたしに呪いみたいなのを掛けたわけ。そしたら、意識が無くなってさ……」
「それで、ネガロンスになったってわけか」
フィトラグスが推測して先を言った。
「ホントに大変だったよ~。無意識に悪いことはしてるわ、昨日目を覚ましたら町民たちから泣いて喜ばれるわで」
「じゃあ、もうヴィヘイトルのとこには戻らないんだな?」
オプダットが核心を突いた質問をした。
ネーガは、ヴィヘイトルを「あいつ」呼ばわりした。そして呪いも解けた今、彼に加担する理由などなかった。
彼女が言う前に、後ろからレジメルスが説明した。
「向こうも受け入れないと思う。だって彼女、人間だもん」
「人間!?」
五人がそろって声を上げた。
ディンフルがよく見ると、ネーガの瞳孔は人間と同じ丸い形をしていた。
「人間まで利用するとは……」
「たぶん、あたしが強力な霊能者だからだよ」
「霊能者なんですか?」ティミレッジが尋ねた。
「そっ! 霊を操ったり、お話し出来る二十三歳の霊能者っ! 普通の人は見えないし話せない霊のことなら任せてっ!」
さりげなく年齢まで教えるネーガ。ティミレッジは再び驚きの声を上げた。
「に、二十三?! 僕と一緒じゃないですか!」
「え、ティミーも二十三なの?! タメじゃ~ん!」
同級生だとわかり、ネーガは嬉しそうに笑った。
だが、ティミレッジは顔が青ざめていた。何故ならば……。
(僕、同い年の人に「ババア」なんて言ってしまったのか……)
以前、闇墜ちしてダークティミーでいた時に、彼はネガロンスを「ババア」と罵っていた。
相手が敵とはいえ、ひどいことを言ったと後悔しているため、忘れたくても忘れられなかったのだ。
「あ、あの時はごめんなさいっ!」思い出したことで恥ずかしくなったティミレッジは、慌ててネーガへ謝った。
「何がぁ?」一方で彼女は忘れてしまったのか思い出せないのか、目を丸くして相手を見つめた。
しかし、「ま、いっか」とすぐに切り替え、話を戻した。ネーガにとっては、ババア呼びよりもヴィヘイトルの悪事の方が気になっていた。
彼女は霊能者の能力を買われたようだ。
そう考えた五人は改めてヴィヘイトルに対し、心がざわつくのであった。彼は手段のためなら、自身が嫌いな人間まで操って部下にするのだ。
「ネガロンスでいる間、意識は心の奥にあったかな。自分がネクロマンサーになって、王子たちを傷つけてる様子わかってたし、“夢を見てる”って思ってたんだ。町で目を覚ました時に半年も経っているわ、王子らの名前を聞くわで“現実だったんだな”って思い知ったの。それにしてもヴィヘイトル、ヤバくない?! 部下を普通に殺そうとしたんだよ!」
ネーガが話し終えると、レジメルスとアジュシーラが加わった。
「それで話し合ってたんだ。本気でヴィヘイトル様から足を洗おうって」
「えっ?」ユアが驚きの声を出した。
「ヴィヘイトル様はオイラたちが気に入らなくなったから、殺そうとした。だったら、戻っても直接殺されるだけだよね? それにオイラたち、エグ……クルエグムとも仲悪くなったし……」
アジュシーラが気まずそうな表情を浮かべながら、クルエグムの名前を言い直した。
やはり思い出すだけでも不快になるようで、彼へ拒絶反応が出ていたのだ。
クルエグムの名前を出したことで話題が切り替わり、レジメルスがフィトラグスへ疑問をぶつけた。
「彼も、僕らみたいに捕まるんだよね?」
「もちろん。もう死刑も確定している」
その場にいる全員の表情が凍り付いた。
「確定? 何で?!」先ほど、彼を拒絶したアジュシーラも驚きながら尋ねた。
「父上から聞いたんだ。クルエグムが悪事を働くのは今回が初めてじゃないことを。二人は悪いことをしたのは初めてだろう? だから、死刑は免れたんだ」
逮捕された二人の判決はまだ出ていないが、懲役で済みそうだった。
レジメルスは姉の事情で、アジュシーラは年齢が考慮されたためだ。
「クルエグムは過去に傷害、窃盗を繰り返して、色んな地域の人間を困らせて来たから、指名手配までされたんだ。数年前からやっていたそうだしヴィヘイトルにも加担していたから、“もう更生も難しい”とのことで父上も同情の余地が無いそうなんだ」
「そんな……」
フィトラグスからの説明を聞き、レジメルス、アジュシーラ、ネーガの表情が曇った。
「奴とは会いたくないのではなかったか?」ディンフルがアジュシーラへ尋ねた。
「い、今は。でも、“死刑が確実”なんて言われたら、可哀想だなって……」
「めちゃくちゃだけど良いとこもあるんだよ。実際、あいつに救われたしね」
アジュシーラが答えた後で、レジメルスが呟いた。
一行は彼を見つめた。
「救われた? あのクルエグムに?」
オプダットは異様なものを見るような目で尋ねた。
ポジティブ思考の彼でも、クルエグムが誰かを救った話は信じられなかったのだ。
「レジーだけじゃない。オイラも救われたよ」
「てか、あの子が一番悲惨じゃない? あたしら一味の中で」
アジュシーラに続いて、ネーガも同情した。
クルエグムが三人衆の仲間を助けたこと、ヴィヘイトル一味の中で悲惨ということ、ユアは彼のすべてが気になり始めた。
「どんな過去があったんだ?」
「僕の過去の話はしたよね? たぶん、それ以上かも……」
オプダットが聞くと、レジメルスが自身の過去と比較しながら答えた。
「シーラ君、せっかくだから話してあげたら? エグ君の過去も盗み見てるんでしょ?」
ネーガから「盗み見る」と言われ、アジュシーラは「ま、まぁ……」と渋々ながら認めた。
「この人たちなら聞いてくれるよ。お人好ししかいないんだから。僕のことをヴィヘイトル様にチクった時みたいに、話してあげな」
次にレジメルスが皮肉をこめて催促した。
アジュシーラは「わかったよ!」と嫌々ながら、クルエグムの過去を話し始めるのであった。




