第122話「留置所のまぶし過ぎる光」
前回までのあらすじ
ディンフルの兄・ヴィヘイトルが率いる一味を倒すために、ユアたちはレベル上げのための鍛錬を怠らず、力を強化するジュエルも集めて来た。
その甲斐あって、五人いた一味は三人が抜け、今はクルエグムとヴィヘイトルのみとなった。
ユアたちは覚悟を決め、彼らがいる北の古城を目指すのであった。
フィーヴェに新しいエリアが生まれた翌日。
ユアたちは準備を万端にして、ヴィヘイトルがいる古城へ向かうことにした。
インベクルを出る前に、レジメルスとアジュシーラにも挨拶するため、留置所へ向かった。
その道中で、ユアがティミレッジとオプダットへ尋ねた。
「そういえば、二人は家族に挨拶しなくていいの?」
ディンフルはミラーレへ行った時サーヴラスへ、フィトラグスは城を出る前、父・ダトリンドと母・クイームドへ報告して来た。
ユア自身も、友人や知り合いたちに挨拶を済ませたため、彼らのことが気になったのだ。
「昨日、リアリティアで合流する前、少しだけディンフルさんに時間をもらって、行って来たよ」
「俺も。父ちゃんと母ちゃんには心配されたが“泥舟に乗ったつもりで任せとけ”って言っといたぜ! もっと心配されたが」
「当たり前だ。泥舟ではなく“大船”だからな!」
ティミレッジとオプダットが報告し、最後にディンフルが言い間違いを訂正した。
ディンフルのみフィーヴェでは挨拶する家族がいなかった。これから、その家族と戦うのだから。
「お前は大丈夫か?」
今度はディンフルがユアへ尋ねた。
昨日、ユアは故郷のリアリティアで友人たちへ挨拶をして来た。
最後に会った幼なじみのアヨからは「元々、友達と思っていなかった」と言われた上、ユアの居場所をネットで拡散していたことも告白された。
一晩経ったがあまりにも精神ダメージが大きかったため、「まだ引きずっているのでは?」と心配しているのだ。
もちろん、ディンフルだけではない。フィトラグス、ティミレッジ、オプダットもアヨのひどさを目の当たりにしたため、ユアが気掛かりだった。
「ありがとう。まだモヤモヤしてるけど、“私の知っているアヨはもういない”って思ったら、逆に楽になって来た。吹っ切れたのかも……?」
「そうか。今だけアヨのことは忘れろ。少しでも別のことを考えていると、ヴィヘイトルにつけこまれる。それほど、今回の戦いは危険だ」
「うん……」
ユアの心境にディンフルは安堵しながらも、しっかりとアドバイスをした。
すでに、彼女を戦士の一人として認めていたからだ。
◇
インベクル留置所。
看守に事情を話し、面会のため部屋へ行く許可をもらった。
五人で向かおうとしたところ、フィトラグスだけ耳打ちをされた。
「看守さん、何て?」部屋へ歩きながらティミレッジが尋ねた。
「すでに二人へ面会客が来ているようだ。でも、行っても問題ないらしい」
「レジメルスたちへ面会? 我々以外にか? 一体、誰が……?」
ディンフルが二人と面識のある者たちを振り返ったが、どうしてもクルエグムとヴィヘイトルしか思い当たらない。
もし彼らだとしても、普通に面会の許可を取るはずがなかった。
一行は二人がいる部屋にノックして入って行った。
「来たぞ」
ディンフルが一声掛けると、部屋の中にはレジメルス、アジュシーラ、そして呪縛から戻ったネガロンスがいた。
彼女は髪型だけはそのままに、暗黒のような黒髪から白に近いグレー色の髪色に変わっていた。
青紫色だった髪飾りは空や海を思わせる青色になり、膝上丈の着物のような青い衣装を着ていた。
さらに邪悪だった紫系のメイクが愛らしいピンク色になり、身長が十センチほど縮んでいた。
「あ、あなた?!」
五人は彼女の存在に驚き、ユアが声を上げた。
呪縛が解けたネガロンスは愛想よく微笑んだ。
「やっほ、ユアっち! みんなも来てくれたんだぁ!」
五人は耳を疑った。
今の軽い口調は、呪縛から解放されたネガロンスの口から発せられていた。
「“ユアっち”……?」
「“来てくれたんだぁ”……?」
フィトラグスとティミレッジが相手の言葉を復唱しながら唖然としていると、彼女は立ち上がって出迎えた。
「王子にティミーに、武闘家も元気~?! みんな、元気そうで何よりだよ~!」
ユアも昨日、アクセプト寮でギャル言葉を聞いたばかりなのでデジャブを感じていた。
ところが、他の四人はギャルに慣れていない。これまでの生活環境を考えれば会うこと自体、無かったかもしれない。
フィーヴェにもギャルがいることがユアには驚きだった。
「ネガロンスか? 何だ、そのふざけた言葉遣いは……?」
ディンフルもギャルは初めてらしく、眉をひそめていた。
しかし、ネガロンスはまったく気にしていなかった。
「ディンディンも元気~?!」彼女はディンフルへ向かって両手を振ってみせた。
「何だ、“ディンディン”とは?! 言い方を改めろ!」
ディンフルが怒鳴っても、ネガロンスは「こっわ~!」と笑い飛ばした。
やはり、応えていないようだ。
「どうなっているのだ……? 新しい呪いか?」
「リアリティアにもこういう人いるから、呪いじゃないよ。これが、ネガロンスの本性なんだよ……」
ユアが解説する横で、うなるディンフルたち。
そしてよく見ると、部屋にいたレジメルスとアジュシーラは今にも死にそうな顔をしていた。
「二人とも、大丈夫?!」
顔色の悪さに気が付いたティミレッジが、慌てて杖を構えながら駆け寄った。
「し、白魔法はいいよ。たぶん効かないと思うから……」
「それよりも、このおばさん何とかしてくれないかな……?」
「“おばさん”じゃなくて、“ネガロンスさん”」
おそらく、ギャルになったネガロンスに元気を吸い取られたのだろう。レジメルスとアジュシーラはやつれた感じがした。
そして、こんな時でもレジメルスはネガロンスへの呼び方を訂正するのであった。
「いいよ、レジー君! シーラ君から見たら、おばさんだしぃ~! あと、もう“ネガロンス”って名前じゃないからね」
「あ、そうだった」
二人のやり取りを見たユアたちが目を丸くした。
それに気づいたネガロンスが、こちらへ向いて自己紹介をした。
「じゃあ改めましてっ! あたしはネーガ。今回は、呪いから助けてくれてありがとね~!」
「ネーガさん……?」ティミレッジが名前を復唱した。
「そっ! これがホントの名前。だから、普通に“ネーガ”でもいいし、“ネガっち”でも好きに呼んでくれたらいいからね~!」
「そちらじゃあるまいし……」
明るく言うネガロンス改めネーガに対し、ディンフルは苦言を呈した。
早くもギャルへ苦手意識が芽生えていたのだ。
「よろしくな、ネガっち!」
彼女に明るく接する声がした。
早速、オプダットが親し気に呼んだのだ。
「武闘家、話わかるじゃ~ん!」
「俺、オプダット! ”オープン”って呼んでくれたらいいからな!」
「じゃあオープン、よろしく~!」
陽気同士の二人は早くも息が合った。
それを見たユアたちは「”類は友を呼ぶ”って、こういうことだな……」と呆れながら納得するのであった。




