102話 IFの世界3
あの後、無事に入学式が終わり二人を家まで送ったが僕はそのまま家に帰らずに別の家まで来ていた。相変わらず引きこもっている先輩を外に引っ張り出す為に来ていた。そもそもこの役目は僕ではなくてタヌキがやるべきだとは思うのだが、13時から仕事らしいから仕方ないな。
雪菜さんは家でお祝いの準備を手伝うって話だったから無理。はぁ、僕は演劇部には関係ない筈なのに指導とかもしていたから仕方ないんだが……今日くらいはしっかりとやってほしいよな。2年前に同じ中学を卒業した先輩でタヌキが演劇部に勧誘して部長までなった人なんだが。
「黒井先輩、いつまで引きこもっているんですかぁ」
「藤咲くん……私は今日は出ないぞ。彼に目を付けられたのだから」
「またあの國って人のことですか」
「そうだ。だから私は引き籠るしかないんだよ」
とりあえず家に入れてもらえたのだが、部屋の鍵を閉めているから無理だな。引きずり出す方法はいくらでもあるがそんなことしたら、面倒なことになるからしない。そもそも國って人がどんな奴なのかは知らないが怖がる意味なんてないだろうに。
「私は……彼にきゅ求婚されたんだぞ!!」
「球根ですか」
「ん? 何か字が違ったような」
そっちの求婚か。いやぁ先輩に求婚なんて男色なのか、その人。もしくはこの先輩が男だと知らないまま一目惚れでもしたんだろうな。まぁ何がともあれ引きこもりはソレが無くても貴方はしますよね? 僕らが出会った時ですら引きこもっていた時なんですから。
僕が何を言っても聞かないだろうからいいけどさ。ここから貴女を連れだしたのはタヌキでしょうに。貴女はタヌキが好きって僕に言っていたのにソレを諦めるのか。はぁ……面倒だけど、部屋を蹴破るかね?
「先輩、部屋を蹴破りますよ」
「やれるものならや__部屋!? 待ってそれは待って」
「なら出てきてくださいよ。タヌキに怒られるんですから」
「分かったよ……君は相変わらずタヌキさんと同じで強引だ」
「幼馴染ですから似ている部分もあるでしょうね。いやですが」
「それだけじゃない気がするけどね」
部屋から出てきた先輩はこれからデートにでも行くんじゃないかと思えるくらいに気合が入っている服装だった。この先輩は本当に女性と間違えそうになるような仕草を簡単にしてくるな。まぁ僕は何も靡かないから意味ないんだけど。
「さてと君と私でデートに行こう」
「お断りします。ほら、さっさと行きますよ」
「ま、待ってくれ。せめて心の準備が」
「待ちません。そうだ、タヌキは2年前よりも綺麗になっていますからね」
「えっ? 君は誰かに対して綺麗だなんて」
何か戯言が聞こえたような気がするけど気のせいだろうな。僕は先輩を睨みつけるがそれをスルーして大人しく引きずられるポーズをとる。はぁ……この先輩に対してどうしてタヌキは「原石だから協力しなさい」と言って期待しているのだろうか。
先輩を引きずりながらそんなことを考えるがアイツの”演技”に対しての熱はなんとも言えないな。こんな変人も原石として見えるってのは素晴らしいと思うよ。それに協力している僕が言うのもなんだけど、物好きな奴だ。
「そういえばさ、うちの演劇部って大丈夫なの?」
「確かにタヌキに近づくために入部した奴もいましたけど、今は真剣にやってますよ」
「やっぱりタヌキさんのカリスマは凄いね」
確かにアイツは演技の世界に人を引き込むのは上手いが、人に指導したりは出来ない。感覚派で教えるほどの言語化を出来ない。それを改善させたのは他ならぬ黒井鏡花、貴女なんだよ。まぁ本人に言っても否定するだけだろうから言わないけどな。
先輩を送り届けたら帰るか。僕は別に演技に興味があるわけでも練習に付き合う訳でもないし、指導するわけでもないから邪魔だろう。タヌキに言ってから帰れば後から文句を言われたりはしないと思う。なんで先輩を引きずりながら向かっているのだろう。
部室に着いたら急にタヌキに文句を言われた。何故?
「遅い。時間を掛けすぎじゃない?」
「先輩に言ってくれよ」
「まぁいいか。見ていくでしょ?」
「いや帰る。邪魔だろうしな」
「藤咲先輩帰るんですか?」
「「「えぇ~~」」」
「ふふっ居たら?」
はぁ、後輩たちに駄々をこねられて結局残ってしまったけど、さっぱり分からん。何故こんなにもみんなは真剣になれるのかが僕には分からない。本気になることなんて何もなかったし今もソレは変わらないか。楽しそうだな。
「どう? みんな良くなったいるでしょ」
「まぁな。先生方の指導がいいんだろうな」
「サキト本当にやってみない? ほら、アンタならすぐに出来るしさ」
「遠慮しておくよ。僕は部が__「邪魔するぜぇ」__警察を呼んでおけ」
「全員下がって一か所に固まる!! サキト」
「分かってる」
急に乱入してきた部外者によって楽しんでいたのに、よくもやってくれたな? 僕は入って来た部外者共をボコる為に動こうと準備運動するがすぐにやめた。10人近くいたからではなくて見覚えしかない顔が出てきたからだ。
佐藤裕太……入学して再会した奴に中学校で会うとは思っていなかったわ。おそらくはどこかで情報を掴んでこの人数を集めてきたんだろうなぁ。面倒なことする奴だとは思うが、入学したてなのに大人しくしておいてくれよ。全くもう。
「おいおい、ここはいいなぁ!!」
「美男美女揃いで、まぁだけって訳ではないみたいだけどな」
「原たぬき、もう一度言うぞ。俺様の女になれ」
「お断りだわ。誰がアンタの女になるもんですか」
「残念、ならこの女に慰めてもらわないとな?」
「ユキ……その子に何かしたら許さないわよ」
「なら分か__っ」
やべっ!! 身体が勝手動いてしまった。雪菜さんが眠らされているところを見て冷静でいれなかったわ。まぁ大切な人を護れないよりはマシだけど……大丈夫なのかが心配になるレベルで回ったけど問題ないよね?
佐藤の顔を殴ったのだが勢いがすごくてアニメみたいに回転してぶっ倒れた。雪菜さんの無事が確認できたし、保護もできたからいっか。この男には容赦しなくてもいいだろうしね。・・・訂正、無事じゃなかったみたいだ。
「タヌキ……雪菜さんを頼む」
「ッ殺さないようにしなさい。ユキが悲しむ」
「分かってる。準備室には色々とあるよな?」
「えぇ、そこにたて籠もるけど、無茶はしないこと」
「分かった。黒井先輩、お願いします」
「任せてくれ。警察は呼んである」
頼りになる人たちで良かったよ。僕は部室の準備室に入って行くのを確認した後、佐藤率いる……分からないけど、悪い奴らに顔を向けた。簡単に死ねるとは思わない方がいいな。声に出す気は一切ないセリフだけどね。
さて、佐藤もダウンから復活したみたいだし聞きたいことを聞かないとね。まずは……顔にあった痣について問い詰めないとなぁ。ここはなるべく笑顔でいないと相手が怖がって何も答えてくれないかもしれないしね。
「顔にあった痣はアレは何?」
「ん? 俺様が折角抱いてやろうと誘ったのに断った地味女が悪いんだよ」
「つまりお前が殴ったと?」
「あぁその後に抱いても良かったんだが……二r_ベボッ!?」
「「「さ、佐藤ぉ!!」」」
「次はお前らだ」
僕は佐藤を蹴り飛ばした後、周りにいた取り巻き達をボコる。再起不能になるように徹底的に……何も出来ないように残酷に仕留めていく。佐藤の奴を蹴り飛ばしたのはいいけどやりすぎたかな? 部室のドアを突き破って廊下まで飛んでいったしなぁ。
◇◇◇
[佐藤裕太視点]
あのクソ男め、ふざけんな!! 絶対に許さねぇからな? 昔もアイツに邪魔されて痛い目に遭わされて今回も同じになるなんて、俺は絶対に許せねぇ。俺は先ほど蹴られた腹を抑えながら演劇部と書かれている教室に入る。
「は?」
「およぉ? 自力で戻って来れるってことはもう少しだけ力を込めても問題なかったかな?」
「ひっ、バケモノ。こっちにくるなぁ!!」
「えぇ~僕はバケモノじゃないよ」
教室に入ると、俺が連れてきたガタイのよい男共がたった一人にねじ伏せられていた。ありえないと声に出したかったが、トラウマが蘇り腰を抜かしてしまった。手を出したらダメだと嫌と言うほど昔に教え込まれたのに……何故俺は手を出した?
一目見たときに分からなかったから? いや、それはない。俺は、桜木とコイツを見つけた瞬間に分かっていた。なのに俺は手を出したかと言うと、今なら俺が上だと思っていたからだ。コイツには負けないって勘違いしたんだ。
原タヌキを使ってコイツに勝てば、桜木が俺に向くと思ったんだ。そんなことはないと分かっていたから……暴力で従わせようとした。それがコイツの逆鱗に触れるとも知らずに……俺はバカだ。
「後悔しても遅いよ。じゃあね、また会えるとは思えないけど」
「待っ__」
俺が気を失う前に見た景色は顔を掴んでいる笑顔の藤咲だけだった。しかもその笑顔は獲物を狩る時の肉食獣みたいだった。
◇◇◇
[原たぬき視点]
準備室の隣から聞こえる悲鳴と物音で怯える部員たちを私は必死に落ち着かせながら、ユキの頬に出来ている痣を冷やす。おそらくは殴られて気絶したんだろう。私がユキを迎えに行かなかったせいでこんな目にあったんだ。
「原先輩、藤咲先輩は大丈夫なんですか?」
「問題ない。アイツは強いから……心配するとしたら相手ね」
『だずげでぇ!!』
「ひっ、外で何が起きているんですかぁあ」
「あのバカ、やり過ぎているんじゃないでしょうね」
絶対にやり過ぎている。それを止めれる人がここで気を失っているんだからアイツは止まらないだろう。私にはどうすることも出来ないから、人殺しをしないようにユキの名前を出してアイツに釘を刺すことだけだ。
救急車も呼んでおかないとね。ニュースにもなるだろうし、マネージャーに連絡を入れて報道陣やネットに色々と伝えないと。はぁ……今回は仕方ないけど、もっと穏便に済ませれたでしょうに。本当にユキに対しては甘々ね。
「・・・」
「黒井先輩、どうしました?」
「いや……彼を信用しているなと思って」
「付き合いが長いですし……ユキの次に凄い人って分かっていますから」
「好きなんだよね? 自分の演技を見てほしくて__「先輩」__」
「それ以上はダメですよ」
そんな悲しそうな顔をしながら言わないでほしい。先輩の気持ちに応えることが出来ないって分かっているような瞳で私を視ないでほしい。私を観ているみたいだから。




