101話 IFの世界2
僕らは同じクラスだった。タヌキとは腐れ縁だが、雪菜さんとは家族ぐるみの付き合いだし好きな人だから嬉しかった。雪菜さんには「好き」と言ってはいるがイマイチ伝わっていない気がするんだよな。はぁ……ぐいぐい行き過ぎたのか。
まぁ同じクラスになったんだし、少しは距離を開けても問題はないか。雪菜さんが「友達を増やさないと」って言っていたらしいからな。僕が近くに居たら出来るものも出来ないだろうからな。僕も男友達を作るとするか。
「サキくん……助けて」
「どうかした?」
「ぁアレ」
僕は助けを求めてきた雪菜さんが指さした方向を見るとタヌキがあの男__佐藤裕太に絡まれていた。放置していても良かったんだが、流石に国民的女優様な訳だし恩を売っておくってのもアリか。あまり気が進まないがな。
「はぁ? アンタみたいな三流はお呼びじゃない!!」
「俺様の女になれるんだぞ?」
「さっきから言っているけど、なるわけないじゃん。さてはバカでしょ」
「クソアマがぁ!!」
「はい、そこまでね。暴力はダメだよ」
「っ!?」
「ユキ…………とサキト」
僕はおまけだとでも思っているのかな? タヌキさんは。僕は佐藤が蹴ろうとしているところに割り込んで右脚を思いっきり掴んでいる。確かコイツはサッカーのエースだった筈だから止めないと危な過ぎる。加減をしている訳でもなさそうだったしね。
佐藤は掴まれている右脚を必死に動かそうとしているけど、ビクともしない。それと痛みでなのかは分からないが顔色が悪くなっているな。タヌキはいつも通りって訳ではなくてブチギレしているな。雪菜さんはトラウマになっているのか小刻みに震えているな。そばにタヌキがいるから安心はできるが。
「よそ見してんじゃねぇ!!」
「よっと、なんでそこで殴ろうとするかなぁ」
「テメェには見覚えあるぞ。藤咲咲人だな」
「覚えていたとは驚きだよ」
「そんでそこにいるのは桜木じゃねぇか。また可愛がってやろうかぁ?」
「ひっ」
「「よし死刑」」
「へ? ウっぐよ」
僕は左で佐藤の顔を思いっきり殴り、タヌキは男の急所を蹴り上げた。二人がほぼ同時だったからなのかは分からないが変な声を上げて倒れ込んだ。僕は佐藤の奴を放っておいてタヌキの奴は容赦ない蹴りに感心していた。
何の迷いもなくやるとは思っていなかったわ。おっと感心している場合じゃなかったな。雪菜さんの所に行かないと。すぐ近くに居るが心配だしな。っておい、何をどさくさ紛れて抱きしめていやがるんだよ。同性だからって調子に乗りやがって。
「雪菜さん、大丈夫?」
「サキくッ」
「・・・タヌキ、雪菜さんを頼む」
「任せておきなさい」
「ぁあ……サキくん今のは__」
「大丈夫。分かっているから」
僕が心配で雪菜さんに近づき肩に手を置こうとしたらビクッとしていた。しかも表情には”恐怖“があった。トラウマがフラッシュバックしたのだろう。だから仕方ないし、僕は特に傷ついてなんていないから何も心配ない。
軽く男性恐怖症もあるかもしれないからご両親に話しておかないといけないな。さて、気絶しているコイツをどこかに運ばないといけないんだが、どこに運ぶべきかな? ゴミ捨て場にでも運べば回収してくれ……るわけないか。
「そこの騎士様、お話よろしいでしょうか?」
「よろしくないですね。コレをゴミ捨て場に持って行かないといけないので」
「保健室ではなくてですか」
「って言うかどちら様で?」
「私は守友夜夢と申します。貴方に負けた女ですね」
「あっそ。保健室にコイツを連れて行かないと」
守友家のご令嬢が僕に話なんてロクなことではないのは絶対なのでここは去るのが正解だ。タヌキと雪菜さんはたぶん大丈夫な筈。僕がいつ彼女を負かしたのかは分からないが何か因縁でも付けられては困るからなぁ。あと興味は全くない。
僕が首席合格したってことは誰も知らない筈だし、代表者の挨拶ではあのご令嬢がすることになっているから負かしたなんて結果は存在しないだろう。守友家は厳しいという噂を聞いたことがあるからアレくらいの簡単なテストだったら満点な筈だしな。
「そのお方の身柄を拘束してください」
「なっ! コイツらどこから」
「サキくん!!!」
「サキト…………ざまぁ」
「タヌちゃん!?」
「・・・ふふ抵抗してくださって構いませんよ?」
「あとで何もしないでしょうね」
「しません。守友の名に賭けて」
ざっと見て七人か。すごく面倒だし絶対に強いじゃんかこの人たち。色々と終わった後はタヌキの大事にとってある秘蔵のお菓子を食ってやるからな。今の状況で嬉しそうにしているのはお前くらいだよ。どれだけ僕のことが嫌いなんだよ。
「嫌いよ。アレから演技にも付き合ってくれないのに」
「心を読んでんじゃねぇよ!!」
「はぁあ!! 飽きたらたらすぐ女を捨てるんですか?」
「捨ててないだろ」
「私はどうせ都合のいい女ですよ」
「た、タヌちゃん」
二度と助けてなんてやるものか。そもそも保育園時代の話だろうが。演劇会があって主役にお前と選ばれたから二人で練習していただけの話なのに、それをなんで……周りに変な疑いをかけるように言いやがった!!
拗ねたような雰囲気を出しているがあの女の演技力は簡単に見破れるわけではないが、僕には分かるぞ。幼馴染にそんな演技が通用するとでも思っているのか。・・・これアレか、周りを騙すためにわざとやったんだわ。
僕への悪質な嫌がらせの為だけに自分が努力してきた演技力を使いやがった。相手が無名ならこんなことにはならなかっただろうが国民的女優様だから聞いていた奴らの殺気が……すごい。あの女のことは絶対に好きになれるか。
◇◇◇
[原たぬき視点]
「タヌちゃん、どうして?」
「ただの嫌がらせ。ユキは大丈夫?」
「私は落ち着いたけど……」
ユキはサキトのことを心配そうな顔をしながら見つめている。優しいのは知っているけど、その優しさはアイツには向けてほしくなかったな。サキトはムカつくが天才だ。しかも超が付くほどの天才で私が必死になって身に着けたモノを一発でこなす。
それだけならまだ良かったんだけど、洗練されていくのをすぐ近くで見ると心が折れてしまう。ほら、この場でも守友夜夢と名乗った女の護衛とやり合っているけど、攻めに転じ始めている。最初は護りだったのに。護衛にはやる気をもっと出してほしかったな。
私の愛しい人をコテンパンに出来るくらいにはね。だって、どうせ私に振り向くことはないのに彼への___愛が溢れて、止まらないのだから。こんなズルい方法じゃないと私は彼の中に入れない。
◇◇◇
[守友夜夢視点]
お父様に面白い方がいるとお聞きしたのですが、これは面白いのではなくて”恐ろしい”ですね。まぁ三人の関係性は少し面白いかもしれませんが。一人は心配そうな表情で、もう一人は雌の顔で見ていますね。はぁ怖いです。
「ぐっ……お嬢さま」
「仕方ありませんね。皆様、おやめなさ__え?」
「「「「お嬢様」」」」
「外したかな」
私が止めるように言おうとした瞬間に何かが横を通り過ぎました。何かは確認したいですが怖くて後ろを振り向けません。
「守友家のご令嬢、次は外しませんからね?」
耳元で囁かれた言葉に私は少し恐怖で耐えれませんでした。いやですね。少しとは言えこの歳で漏らしてしまうのは。バケモノには関わらないほうがいいですわね。




