第6話 爆走 〜学園都市をめざして〜
ひだりちゃんが示した光点は、ワールドマップ上に表示された五つの大陸のうち、真ん中の大陸の右上を指していた。
「中央大陸の北東部というと……学園都市があるあたりかな」
「そうけぷね。ごさが大きいのはかんべんしてほしいけぷ」
「うん、分かってる。ありがとうな」
「けぷーー☆」
嬉しそうに飛び跳ねるひだりちゃん。
学園都市カンタルナ。
中央大陸北東部にある巨大な湖、カルタナ湖に浮かぶ大規模な人工島で、この世界における魔法と魔術研究のメッカとなっている。
その中心となるカンタルナ魔法魔術学園は、世界各国から優秀な学生を受け入れて教育と研究を行っており、国際協定によって高度で広範囲な自治権を認められていた。
ーーという設定だったはずだ。
「情報収集をするなら、うってつけの町だな」
前述のように国際都市であるカンタルナには、世界中の情報が集まってきているはずだ。
一緒に巻き込まれた二人の人探しをするにも、こっちの世界に来ることになった空間の裂け目について調べるにも、きっと最適の町と言えるに違いない。
「どうせ他にあてもないんだ。学園都市を目指してみるか……。ひだりちゃん」
「何けぷ?」
「学園都市は、大体どっちの方向になるかな?」
「たぶん、あっちの方けぷ!」
ひだりちゃんは、はるか遠くに見える山とその麓に広がる森を、腕っぽいでっぱりで指し示す。
「よし。じゃあ、行くか!!」
「おー! けぷ☆」
俺は愛剣を構え、詠唱を始める。
唱えるのは、もちろん詠唱騎士最強と言われる、あの強化魔術。
「『風の精霊シルフよ。その力を顕現し、我が身、我が剣とともに踊れーー』」
詠唱とともに周囲に緑の光の粉が舞い始める。
俺はそのまま詠唱に合わせ、剣を振るう。
「『舞うさまは、野を翔ける春風のように軽やかに。夏に吹き上げる海風のように力強く。穂をゆらす秋風のように涼やかに。真冬の吹雪のように容赦なく縦横無尽に。ーー凛として舞え! 精霊の舞踏』!!」
発動と同時に緑光の粒子は俺を包みこみ、やがて薄れていった。
風属性の詠唱魔術『精霊の舞踏』。
移動速度上昇。攻撃速度上昇。回避率上昇。物理攻撃力上昇。さらに二次詠唱により、空中での立体機動を含め様々な技に繋げることができる。
俺が『ノーツ・オンライン』の中で創り出した、詠唱騎士最強の強化魔術だ。
AGIなどの基本ステータスから派生する、攻撃速度などの二次ステータスを確認したら、+30%もの大幅補正がかかっていた。
ーーちょっと効きすぎじゃね?
「……ひょっとして、これのおかげか?」
胸に下げたペンダント「世界の想い」を握りしめる。
詠唱補正+20%。
転移前にエイミーから借りたペンダント。そこに嵌め込まれた緑の宝石は、透明感のある綺麗な緑色の光をたたえている。
彼女の提案に乗る形で幻の必殺技『次元斬』を使い、挙げ句こっちの世界に来てしまった。
文句の一つも言いたいところだが、このペンダントを見ていると、まるで彼女がそのお詫びに俺を護ってくれてるような、そんな気がした。
ーーさて。
進撃の時間だ。
「進路上の敵は全部斬っていくから、どんどんアイテムとして収納してくれるか?」
「分かったけぷ!!」
こうして俺たちは、学園都市があると思われる方向に向け、爆走を始めたのだった。
風が背中を押す。
体が軽い。
だけどまあ、ちょっとやり過ぎかもしれない。
「ぉおおおおおおおお!!」
だだっ広い草原を、まっすぐに爆走する。
一度地面を蹴れば風に乗り、5m近く先に着地。
今、俺はまさに風になっていた。
さらに……
「はっ! ーーーーよっ! ーーーーていっ!」
進路上のモンスターを、一撃のもとに屠ってゆく。
ジャイアントホッパー。
大ねずみ。
ワイルドドッグ。
一角兎。
ひだりちゃんが視界前方に表示したアイテム欄には、数秒おきに新しい魔物の死体が追加されてゆく。
ついでにレベルも二つほど上がっていた。
はるか遠くに見えていた森は瞬く間に近づき、十分もしないうちにすぐ近くまでやって来る。
「ストーーップ!!」
左から張り出した森の横まで来た俺は、急ブレーキをかけたのだった。
「あれって、村か?」
俺の独り言に、肩に乗ったひだりちゃんが答える。
「村に見えるけぷね」
それはどう見ても集落だった。
森から少し離れたところに農地が広がり、十軒以上の家が建っている。
非舗装ながら道も通っているようだ。
俺が転移してきた場所からは森の張り出しに隠れて見えなかったが、ここまで来るとはっきり分かる。
まあまあの規模の村だ。
だが……
ーーカンカンカンカンカン!!
村の中心に立つ火の見やぐらのような建物から響く、激しい鐘の音。
わーー、わーー、わーーーー!!!!
おまけに怒号まで聞こえてきた。
家々から人々が出てきて、右往左往しているのが分かる。
「……どうやらお取り込み中らしいな」
何事かと目を凝らしていた時、それは起こった。
ーーゾロリ。
最初は、森が動いたように見えた。
が、すぐにその認識を改める。
よく見るとそれは、生物の大群だった。
巨大な人型の生き物の群れが、一斉に森から出て村に向かって歩き始める。
それを見た俺は、状況をしっかりと理解した。
「豚頭の襲撃か!!」




