勇者一行の奇妙なる進軍
今日は。終焉の焔です。
今回は久しく登場してなかった弥生と歌織のお話です。
第39インスレイターであるユミル防衛の戦功を讃えられた勇者一行はその勢いのまま第53インスレイター『トール』を奪還する為、進軍していた。
第53インスレイター『トール』。
首都であるオーディンを30キロメートル以上北上したところにあるダークネストリア山脈を囲む様にして造られたインスレイターである。
両手を伸ばす様に首都オーディンから南北に勢力を伸ばしていた人類が次に目標を定めたのがそこであった。
トールには人類にとって貴重な資源である鉄鉱石を産出する鉱山や、トールが造られる前からそこで暮らしていた先住民族が残した叡智の結晶とも言える魔導コンピューターネットワークの中枢がある。
それを手に入れば魔導コンピューター制御の必要な科学的研究施設を再び稼働することができるのだ。
ーーだが、人類が利用できるのなら魔族も利用できる。
そして、魔族もそれを欲していた。
その証拠にトールは一度、第21次インスレイター奪還戦で解放されたのだが、第41次インスレイター防衛戦で人類が敗退。トールは奪還に成功してから再び魔王の手に堕ちた唯一のインスレイターでもある。
意気揚々と士気最高潮で進軍する兵士とナルシ勇者に反して二人の少女の表情には影が差していた。
「ねえ、弥生。あれって本当に将だったのかな?」
「…が…う……」
俯いたままの弥生の声は聞き取れない程にかすれていた。
「ちがう!」
弥生は勢いよく顔を上げてそう大きな声で叫んだ。
その瞳には涙が浮かんでおり、表面張力で耐えきれなくなった涙が一粒零れた。
「あんなの将くんじゃない!私の知っている翔くんじゃない!私の好きな将くんじゃない!私の……私の将くんじゃない!!!!」
弥生は歌織に詰め寄らんとばかりに狂気と悲痛の叫びをあげた。
あの心優しい歌織から出されたとは思えなく、歌織ですら竦んでしまう。
ーーいや、心優しいからこそなのかも知れない。だから、あんな将を受け止められなかったのだろう。
将がナルシ勇者とはいえもとクラスメイトを笑いながらいや、嗤いながら殺そうとしていたなんて。
「あんなに優しかった将君があんなことすると思うの!?歌織にはそう思うの!?将君とずっと一緒にいた歌織なら分かるよね!?中学からの私でも分かるのに!思わないでしょ!?私が好きになった唯一の男の人だよ!いつも学校では休み時間に本読んで、勉強していた将君だよ!それでいい点数取っても全く自慢しなかった将君だよ!私がテスト悪かった時に慰めてくれた将君だよ!『緋咲さんはよく頑張ったから』って慰めてくれた将君だよ!私がテストよかった時には褒めてくれた将君だよ!『緋咲さんは流石だね』って言って缶コーヒーを奢ってくれた将君だよ!私が甘いもの苦手ってことちゃんと覚えててくれてブラックを買ってくれた将君だよ!人の事をちゃんと見て考えてる将君だよ!修学旅行の実行委員だって私が書類をばら撒いた時に嫌な顔せずに拾ってくれた将君だよ!私が熱を出した時、毎日お見舞いに来てくれた将君だよ!そして何より、私が世界で一番大好きな将君なんだよ!!!!!」
長い長い将に対する惚気分を含んだ絶叫が収まると弥生はその場で蹲って泣いてしまう。
それでも暫し、茫然としていた歌織だったが我に帰ると身を屈めて優しく抱きしめる。
「ごめんね、弥生。私が間違ってたわ。あんな馬鹿みたいな奴将じゃないよね。きっと将に似た化け物だよ」
未だ声を上げて泣く弥生に歌織は最大限の優しさを込めた慰めをかけた。
今はまだ、彼女は現実を受け止められなくてもいいだろう。ーーまた、相見える時まで。
そう、歌織は心に秘めながら弥生が泣き止むまで抱き締め続けた。
長い台詞ってしんどいですね。
望先生の『異能バトルは日常系の中で』鳩子が切れた時、台詞が3ページに渡っていましたが、それを目指して作ろうにもネタがなかった。あんな凄いの無理だよ……
では。また次回お目にかかれば




