ユミルへの移住生活ー6 妥協の一手と最善の一手
ようやくユミルヘ辿り着いた将一行ですけど…
各インスレイターには都市を防衛する自警団という形でギルドというものが存在する。
だが、防衛だけで金が生まれる訳ではなく、ギルドは非常時以外は野生の魔物の狩りを生業としている。
その中にはもちろん強力な敵も多く、腕に覚えがあるものでも重傷を負うことがあり、その対策としてギルド内には医療機関を備えることが義務とされている。
ユミルもその例外ではなく、リーフィアがギルド長を務める、『ボルソルン』にも医療魔法の使える魔術師がいる。だが、運の悪いことに件の戦闘で全員がMP切れになってはいるが……。
ボルソルン医務室。
将は横たわるミルシェアの隣で俯きがちに椅子に座っていた。
ずっとその手を離さずに。
「将さん。そんなに気を落とさずともミルシェアさんはすぐよくなりますよ」
リーフィアはミルシェアの額にのせるタオルを絞りながら慰めの言葉をかける。
だが、リーフィアの心から発せられたその言葉は将の心には届かない。
「俺だってそう信じたい!でも……」
将はそこで言葉を濁す。その視線に今も己の中で戦うミルシェアがいたからだ。
当事者でない人間が弱音を吐くのは当事者に失礼だ。
「毒に対する治癒薬は飲ませましたのでもう後はミルシェアさんの力次第です」
「…………」
「先程、戦闘をされていたということで、大分MPが消費されています。それさえなければ今頃……」
将の心に先刻の己に対する計り知れない怒りや憎悪、邪念が巻き起こる。
それは将の弱々しく、脆く、そして純粋な心をのみこみ捻り潰さんとその巨大なる掌を広げる。
だが、そんな中に、一筋の光が煌めき、その掌を阻む。ーーミルシェアのあの眩しい笑顔が。
「方法があるんだろ」
「え?…」
将の変化にリーフィアが言葉を詰まらす。
「だから!方法があるんだろ」
「ひっ!!ごめんなさい!ごめんなさい!あります、あります」
将の突然の怒声にリーフィアは可愛らしく耳をピンと立て身を竦ませる。
「これです」
そういってリーフィアが出してきたのは如何にも怪しげな色をした薬だった。
将はそれを訝しげに眺め回すと口を開いた。
「これは……?」
「これは龍仙の秘薬です。野生のドラコーンの貴重な角を大量に使用する為、非常に高価ですがこれの薬湯に浸かるとどんな病でも治ると言われています」
色が怪しすぎてリーフィアの話は信じ難いが将にはそれに縋るしか方法がない。
「素材を持ってきたとしてどれくらいで作れるんだ?」
将は急かすように話を進める。
「一ヶ月です…」
「一ヶ月もか⁉︎」
今の将では一ヶ月すらも途方もない時間と感じる。
歯痒い思いでリーフィアを見遣るがこればかりはどうしようもないと身を縮める。
「それに…非常に言いにくいのですが……ドラコーンの角は100本必要で…一匹あたり二本ですから50匹。それだけなら良かったのですが……ドラコーンは一応、地方の魔物を率いる中ボス的扱いですので…倒しても毎週火曜日にしか次のが配備されないのです……」
「っていうことは…」
「はい、一ヶ月に最高8本しか手に入らないのです。それで計算すると1年はかかります…」
一ヶ月ですら途方もないと感じる将に次に立ちはだかったのは1年という桁違いならぬ単位違いのものだった。だが、それしか方法はない。
「それさえできれば、ミルシェアは助かるんだな」
「はい、状況が変わらなければ」
「よし、そんじゃあ今週の分サクッと行ってくるわ」
そう突然将が椅子から立ち上がったのでリーフィアがまたビクッとする。
「え⁉︎今からですか?」
「なんか、問題でもあるのか」
「いえ…勇者様ならさほど問題でもないかもしれませんが夜の魔物は強化されていますよ」
「まあ、大丈夫だろ……転移」
蒼白い光に将の姿が掻き消されると、部屋にはリーフィアが虚しく残される。
将の慌ただしさに暫し呆気にとられていたリーフィアだったがすぐに我に帰った。
ミルシェアの額のタオルを取り、新しい物に取り替える。
「ミルシェアさんは幸せですね。勇者様にあんなに愛されて……正直、妬けました」
そう一人、ミルシェアに喋りかけるようにごちった。
ミルシェアは暫くお休みのようです。
その間にこの前ちらりと登場させた魔王さんでも出すとします。




