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『DEAD LOGIC ― 最後の正解者 ―』  作者: hael
season 1 『12人の被験者』
1/3

第一話  信じるという病



正しい答えを選んだ者から、死んでいく


ーー 第一話  信じるという病 ーーー


目を覚ますと、知らない天井があった。


白い。


不自然なほど白い。


天井の隅には監視カメラが一つ。


窓はない。


時計もない。


そして、俺の右手首には、見覚えのない黒い腕輪が装着されていた。


「……どこだ、ここ」


起き上がろうとした瞬間、頭に鈍い痛みが走った。


最後の記憶は、昨日の午後八時。


自宅の部屋でパソコンを操作していた。


そのあと、何があった?


思い出せない。


部屋の中央には、十二脚の椅子が円形に並んでいた。


俺以外にも、人がいる。


制服姿の女子高校生。


スーツを着た二十代くらいの男。


腕を組んで壁にもたれる大柄な男。


泣きながら腕輪を外そうとしている少年。


そして、椅子に座ったまま、こちらを観察している少女。


合計十二人。


全員、年齢も服装も違う。


共通点は一つ。


全員が、自分の右手首を気にしていた。


「おい! 誰か説明しろよ!」


大柄な男が叫んだ。


「ふざけんな! ここから出せ!」


男は部屋の扉を蹴った。


びくともしない。


そのとき、天井のスピーカーから声が流れた。


『参加者の皆様。お目覚めのようですね』


機械音声だった。


『これより、ゲームを開始します』


誰も動かなかった。


『本ゲームの参加者は十二名。終了条件は、最後の三名になることです』


「は?」


スーツの男が声を上げた。


『ゲーム中、皆様には複数の課題に挑戦していただきます。各課題には、必ず攻略法が存在します』


『ただし、すべての情報が正しいとは限りません』


そこで音声が途切れた。


一秒。


二秒。


『ルールを説明します』


壁に埋め込まれたモニターが点灯した。


画面には、十二人の名前が表示されていた。


その下に、一文。


第一ゲーム:多数決


制限時間、十分。


投票対象、一名。


最多得票者は脱落する。


ただし、投票開始から終了までの間に、参加者のうち一人が「特別権限」を使用した場合、結果は変更される。


特別権限の内容は、使用者以外には公開されない。


そして、最後にこう表示された。


「なお、参加者の中に一名、運営側の人間がいます」


沈黙。


誰も口を開かなかった。


最初に反応したのは、制服姿の女子だった。


「……つまり、この中に裏切り者がいるってこと?」


「いや、待て」


スーツの男が即座に否定した。


「本当にいるとは限らないだろ。俺たちを疑心暗鬼にさせるための嘘かもしれない」


「でも、いるって書いてあるじゃん!」


「画面の情報が正しい保証はない。最初にそう説明されただろ」


「じゃあ、何も信じられないってこと?」


「そういうことだ」


スーツの男は、十二人を見回した。


「とりあえず、全員の名前と職業を確認しよう。情報を整理するんだ」


合理的な判断だった。


少なくとも、俺にはそう思えた。


「賛成」


俺は口を開いた。


「ただし、一つ条件がある」


全員の視線が集まる。


「自己紹介は自由。ただし、証明できない情報は、事実じゃなくて仮説として扱う」


大柄な男が鼻で笑った。


「ガキが何言ってんだ」


「じゃあ、あなたからどうぞ」


「は?」


「自分の名前と職業を教えてください」


「……佐藤。会社員だ」


「それを証明できますか?」


「お前、喧嘩売ってんのか?」


「いいえ。ただ、今の時点であなたが会社員だという情報は、あなたの発言以外に根拠がない。それだけです」


男の顔が険しくなった。


俺は視線を外した。


最初の十秒で、一人を敵に回した。


失敗かもしれない。


だが、必要な確認だった。


ここにいる十二人のうち、何人が本当のことを言っている?


そもそも、自分の名前すら正しいのだろうか。


俺は自分の腕輪を見た。


そこには、小さな文字が刻まれていた。


PLAYER 07


名前ではない。


番号だ。


全員の腕輪を確認すると、番号は01から12まで連番になっていた。


その瞬間、椅子に座っていた少女が立ち上がった。


「私、気づいたことがある」


声は落ち着いていた。


年齢は俺と同じくらい。


黒髪のショートヘア。


表情にほとんど変化がない。


「何ですか?」


スーツの男が尋ねた。


少女はモニターを指さした。


「このゲーム、最初からおかしい」


「どこが?」


「投票対象は一名。最多得票者が脱落。でも、同票だった場合のルールが書かれていない」


誰かが息を呑んだ。


確かに、そうだ。


十二人なら、六対六もあり得る。


「それと、特別権限」


少女は続けた。


「結果を変更できるとしか書いていない。誰が使えるのか、何回使えるのか、変更できる結果の範囲もわからない」


「……確かに」


俺は少女を見た。


鋭い。


少なくとも、ルールの穴を見つける能力はある。


だが。


「一つ、見落としている」


少女がこちらを向いた。


「何?」


「投票対象は一名、と書いてある。でも、全員が必ず投票するとは書かれていない」


「それが何?」


「棄権できるなら、票を分散させる必要がない。全員が棄権すれば、最多得票者そのものが存在しなくなる可能性がある」


「……なるほど」


少女は少しだけ目を細めた。


「あなた、名前は?」


「七番」


「そうじゃなくて、名前」


「今は、七番でいい」


「変な人」


彼女はそう言って、再び椅子に座った。


残り時間、七分三十二秒。


俺は考えた。


このゲームの目的は、単に十二人を三人まで減らすことではない。


もしそうなら、なぜ運営側の人間が一人いると、わざわざ知らせた?


疑心暗鬼にさせるため?


それとも、本当に見つけさせたいのか?


考えれば考えるほど、選択肢が増えていく。


そして、選択肢が増えるほど、判断は難しくなる。


「なあ」


突然、少年が声を上げた。


泣いていた少年だ。


「俺、さっきからずっと考えてたんだけど……」


少年は震える指で、モニターを指さした。


「このゲーム、誰か一人を投票で脱落させなきゃいけないんだよな?」


「ルール上は、そう読めるな」


スーツの男が答えた。


「だったらさ……」


少年は顔を上げた。


「運営側の人間に投票すればいいんじゃないの?」


全員が黙った。


少年は続けた。


「そいつがいなくなれば、ゲームを止められるかもしれない。少なくとも、普通の人間を選ぶより合理的だろ?」


「待ってください」


俺は言った。


「まだ、運営側の人間が誰なのかもわかっていない」


「だから、全員で話し合って見つけるんだよ!」


「どうやって?」


「それは……」


少年は口を閉じた。


俺はモニターを見つめた。


運営側の人間。


十二人の中に一人。


もし本当にいるのなら、その人間には、この状況で他の参加者と違う行動を取る理由がある。


だが、逆も成立する。


運営側の人間を見つけようとする者こそが、運営側の人間かもしれない。


俺は、あることに気づいた。


最初に疑心暗鬼を生み出したのは、運営だ。


だが、今この瞬間、疑いを広げているのは誰だ?


俺たち自身だ。


そして、誰かを疑うことには、一つだけ大きな利点がある。


自分が疑われずに済むことだ。


残り時間、五分十一秒。


「……投票先を決めた」


俺がそう言うと、全員がこちらを向いた。


「誰だ?」


大柄な男が尋ねる。


俺は答えなかった。


代わりに、少女を見た。


「一つ、質問してもいい?」


「何?」


「君はさっき、同票の場合のルールが書かれていないと言った」


「そうだけど」


「なぜ、同票になる可能性を最初に考えた?」


少女は黙った。


「普通なら、まず誰に投票するかを考える。けれど君は、投票結果が成立しない場合を先に考えた」


「それの何がおかしいの?」


「おかしくない。ただ、気になっただけだ」


少女は俺を見つめた。


そして、笑った。


「あなた、私を疑ってるの?」


「まだ、何も決めていない」


「そう」


少女は腕輪に触れた。


その瞬間。


彼女の腕輪が、短く鳴った。


ピッ。


モニターに、新しい文字が表示された。


『特別権限が使用されました』


全員が凍りついた。


誰が使った?


何を変更した?


答えが表示されるまで、数秒かかった。


そして、画面に浮かび上がった文字を見た瞬間、俺は自分の推理が根本から間違っていたことを悟った。


『第一ゲームの投票対象を変更します』


『変更前:参加者十二名のうち一名』


『変更後:参加者十二名のうち二名』


残り時間、四分五十八秒。


少女が静かに言った。


「ごめんね」


その声には、申し訳なさなど少しも感じられなかった。


「私、最初から知っていたの」


彼女は俺を見た。


「このゲームでは、一人を選ぶ必要なんてなかった」


「……どういう意味だ?」


「最初のルール、よく読んでみて」


俺はモニターを見た。


投票対象、一名。


最多得票者は脱落する。


確かに、そう書かれていた。


だが、今は違う。


二名を選ばなければならない。


そして、俺は気づいた。


この変更によって、最も得をする人間が誰なのか。


同時に、最も危険な立場に置かれた人間が誰なのか。


少女は、俺の表情を見ていた。


まるで、俺が何を考えているのか、すべてわかっているかのように。


「ねえ、七番」


彼女は尋ねた。


「あなたは、誰を信じる?」


俺は答えなかった。


なぜなら。


この部屋に、信じるべき人間など一人もいないことに、ようやく気づいたからだ。


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