奇人VS変人(1)
向こう側のソファーには、サングラスにマスクに白手袋の、マッチ棒のように細長い男が座っていた。こっち側のソファーには、工芸品のような巻髪の、エジプト壁画すれすれの濃いメイクをした、巨乳美女が座っていた。奇人VS変人とはまさにこのことだと、私こと守永雅は思った。
遡ること、三十分前――。
私の勤務先である法律事務所に、その男は突然現れた。
男は一見して、『変な人』だった。背が高く、ガリガリに痩せている。おそらく二十七歳の私と、年齢的にそう大きく離れていない。大ぶりのサングラスをかけてマスクをしているので、顔はよく分からなかった。カウンターを叩いた手には、白い薄手の手袋をはめている。ヨレヨレのベージュのサマージャケットに、一枚五円のスーパーのレジ袋(大)を下げていた。
どうやら持ち物は、全てその中に入っているようだった。見た目ホームレスなのだが、何故か良い匂いがする。
弁護士一人、事務員一人の弱小事務所だ。あいにく弁護士が不在だったので、事務員の私が対応することになった。弁護士が到着するまでの間に、相談のさわりを聞いておくのも私の仕事だ。
大学は経済学部、趣味はトレッキングに歴史という私には、法律的素養がない。とはいえ、この事務所で働き出してから五年もたつので、だいたいのポイントを聞き取っておくくらいはできるようになっていた。できるようにはなっていたのだが、Yes,I can.なのだが……。
「こちらに管野恭香という女弁護士がいると聞いたのだが」
「はあ、まあ」
「仕事を依頼したいんだ。さっさと会わせてくれないか」
迅速な対応が出来ていない私にしびれを切らした男は、神経質にカウンターを指先で叩きながら、早口でまくし立てた。まったくこの事務所と来たら、変な人ばかり来る。というか、変な人しか来ない。しかも、弁護士のいないときを見計らったかのように。
幸いなことに、暴力を振るう系の精神錯乱者ではなさそうだったので(変人経験値が高いので、そういった人種を見分けるスキルがついていた)、管野先生が来るまでの間、応接スペースで待ってもらうことにした。応接スペースといっても狭い事務所なので、パーテーションで区切っただけの空間なのだが。




