何故か猫
道長:おはよう、皆。
お水を沢山吸ってね。
今日も綺麗だね。
そう言うと、如雨露で、お水をたっぷりとお花たちにかけていった。
色とりどりのお花たちは、とても、気持ちよさそうに、ゆらゆら揺れている。
今は夏の時期。
お空は雲一つ無いくらい青々としている。
み~ん みん みん・・・。
森から蝉たちの声が響いている。
ちりん ちりん ちりん・・・。
お家から、風鈴の可愛らしい音が響いている。
そして、 た た た た た た た た・・・。
お家から、朝ご飯を支度する音が響いている・・・?
あれ?
道長は、お家の中に耳を傾けた。
音がしない。
どうしたのかなぁ・・・? と、台所をのぞき込んだ。
道長:お~い。
もう、朝ご飯が出来たのかぁ?
し~ん し~ん し~ん・・・。
返事がない・・・。
誰も、いないようだ。
やれやれ・・・ と、散らかった台所を片付け始めた。
しゅっ しゅっ しゅっ・・・。
こと こと こと・・・。
雑穀米の美味しそうに炊けている香りがする。
お味噌汁の心落ち着く匂いもする。
隠元のごま和えの小鉢がある。
そして・・・。
道長:おぉ~。
そう言って、一つ、だし巻き卵をつまんでパクッと食べた。
道長:う~ん・・・。
やっぱり、式部のお料理は、世界一だな
ぁ・・・。
俺って、いいお嫁さんをもらったなぁ・・・ と、感慨にふけっていた。
それにしても、式部は何処に行ったのだろう・・・?
お手洗いかなぁ・・・?
台所を離れるときには、 必ず、ガスは止めてから離れるように と、何度も注意しているのだけれどもなぁ・・・。
困ったちゃんだ・・・。
ガスを止めてから、うろうろし始めた。
道長:おぉ~い・・・。
おぉ~い・・・。
どこにいるんだぁ・・・?
おぉ~い・・・。
何の返事もない・・・。
お隣さんに、回覧板でも、出しに行ったのかなぁ・・・?
玄関に、サンダルが無いか、確認しに行った。
すると・・・。
ごそっ ごそ ごそっ・・・。
何かの音がする。
式部のお部屋からだ。
なぁ~んだ、お部屋にいたのかぁ・・・。
道長:どうしたぁ?
大丈夫かぁ?
火は消してから離れなさい って、言ってる
だろう?
と言って、式部のお部屋の襖を開けた。
し~ん し~ん し~ん・・・。
だぁれも、いない・・・。
あれっ・・・?
確かに、式部のお部屋から、音がしたはずなのに・・・。
きょろきょろ とあたりを見回した。
妻とは言え、あんまり、お部屋の中を見るのは、悪いかなぁ・・・? と、思って、心が暗やんだ。
あ”~・・・。
まったく・・・。
脱ぎっぱなしにして・・・。
どうやら、式部は、服を脱ぎっぱなしにする癖があるんだなぁ・・・ と思い、やれやれ・・・ と、片付け始めた。
ん・・・?
なぁ~んと・・・ 下着まで出てきた。
新婚当時は、それなりに、夜な夜な愛を確かめ合ってきた。
でも、36年も経つと、もはや、そういうことは、言い出しにくくなってきて、モジモジしてしまう。
ある意味、熟年夫婦のお年頃だ。
ぽ ぽ ぽ・・・ と、頬がほてるのを感じた。
は は は 恥ずかしい・・・。
何となく、式部のお香の香りと、ぬ ぬ ぬ 温もりを感じられた・・・。
お お お 俺は、男だぞぉ・・・。
なぁ~んてことだぁ・・・ と、ドギマギしている心を隠したかった。
こんなことで、にまにましてしまう、自分にあきれてしまった。
俺たちは夫婦なんだから、いいんだぁ!!! と、自分に言い聞かせた。
そして、洗濯籠に、脱ぎ捨ててあった、服などを入れた。
道長:それにしても・・・。
そう言うと、頭をかしげた。
お隣さんに回覧板を置きに行ったにしては、遅いなぁ・・・ と思った。
また、おしゃべりでもして、花を咲かせているのかなぁ・・・・と、苦笑した。
どれ、迎えに行ってみるか・・・?
玄関の方へ歩いて行って、下駄に履き替えた。
夏は、やっぱり、下駄に限る。
からから と下駄を鳴らして、玄関の外に出た。
からっとした、爽やかな風が、 ひゅ~ っと、側を、通っていった。
比較的、涼しいかもしれない・・・。
梅雨がまだ終わっていないから、今日にでも雨になるかなぁ・・・?
さっき、お花たちにたっぷりとお水をあげてしまったことを、後悔した。
ごめんなぁ・・・ と、もごもご話しながら、お隣さんのお家まで、5分ほど歩いて行った。
道長のお家は、緑豊かな田舎町の外れにあった。
道長と式部は、職場恋愛で、そのまま結婚までゴールインした。
いまでは、もう、すっかり、おしどり夫婦になっている。
子供は女の子の 彰子と堅子の二人いる。
二人とも、もう、結婚をして、家を出て、毎日子育てに奮闘している。
式部の血を引いたのか、文才に秀でている。
なんと、和歌を宮内庁へ詠進し、見事、詠進歌として、宮中の歌会始でも、朗詠されたことがある。
親として、とっても鼻高々だ。
ちなみに、詠進とは、指定されたお題を、一般の方々が、宮内庁へ和歌を提出することです。
そして、詠進歌とは、その提出された和歌を指します。
歌会始とは、鎌倉時代中期から始まりました。
明治時代以降は、一般国民の和歌も詠われるようになりました。
天皇陛下の御前で披露されるという、素敵な文化です。
朗詠とは、平安時代からの伝統の節に載せながら、歌われます。
複数人で朗々と和歌を詠み上げられます。
・・・、と、文化的な家族になりました。
道長と式部は同じ役場で、色々な科を担当して、知恵を出し合ってきた仲間だった。
式部は、その傍らで、執筆活動をしていた。
出来上がると、道長に読んでもらい、感想や手直しをしてから、あちらこちらの出版社の公募に応募していた。
とても、面白いできだった事もあったけれども、そんなに、未だ、鳴かず飛ばずにいる。
読んでくださった方が、楽しんでくれれば、それでいいのよ と、寂しそうに笑う妻を、励まし続けてきた。
いつかは、日の目を見させてあげたい・・・ と、道長も様々な本を読みあさって勉強をしてきた。
最近では、 Web小説 に投稿して、PV と ユニークユーザー と言うものを気にしては、一喜一憂している。
感想など頂いた日には、とても嬉しそうに鼻歌を歌ってお料理をする。
未だ レビュー と言うものを頂いたことがないと言って、寂しそうだが、他の投稿している方々の作品を読むと、 まだまだ、足下にも及ばない と、とたんにやる気を出す。
すると、 カップラーメン と 冷凍食品 が食卓に並んでしまうこともあったので、よく、喧嘩になった。
勿論、 カップラーメン と冷凍食品 は嫌いじゃ無い。
とっても、美味しい。
たまに、無性に食べたくなる。
好きなものは、 豚骨ラーメン と キノコパスタ と エビピラフ だ。
けれども、やっぱり、妻の味が恋しくなる。
それに、子供達の成長にも良い、薄味で無添加・無香料 を気にしてしまった。
も も も も も 勿論、私だって、食事を作ったりもした。
それに、子供達も、 妻のお料理の本や雑誌を買ってきては、楽しそうに作って、助けてくれた。
良い家族になったなぁ・・・。
俺って、果報者だぁ・・・。
そう思いながらずんずんと歩いて、お隣の棟世さんのお宅に到着した。
年の割には、速いペースで歩ける。
毎日、あちこちへと歩く習慣が出来ているから、足腰が鍛えられているらしい。
息切れもしていない事を、誇らしく思っている。
棟世さんの娘の小馬ちゃんが、お庭で地域猫と遊んでいるのが見えた。
とてもなついているようだ。
お腹をお空に向けて、小馬ちゃんに、なでなでしてもらっていて、気持ちよさそうだ。
耳が、さくらカット(地域猫にする為に耳にV字にカットした、去勢済みのサインです)されている。
ごめんねぇ・・・ と、耳を見る度に、心がチクチクする。
でも、命を奪うよりも、断然、こっちの方が、貓たちにとってはいいのだ。
だから、していることは、間違っていない。
きちんと、一生を終えるまで、地域猫として、野良猫たちを、お世話している。
ご飯も、食べ残しの処理も、排泄物の処理も、地域で支えている。
猫たちにとっては、天国だろう。
だから、いいのだ。
これで。
でも・・・。
私は、注射も大嫌いなくらい、痛そうなことには敏感に過剰反応を起こしてしまう。
痛さを想像してしまうのだ。
男のくせに、女々しいかもしれないが、苦手なものは、苦手なのだぁ~!!!
じっと地域猫を見つめていた私を、小馬ちゃんがじっと見つめ返して、モジモジし出した。
小馬:あのぅ・・・。
道長のおじさま、どうなされたのですか?
回覧板?
道長:あっ!!!
悪い!!!
悪い!!!
式部のおばちゃんが回覧板を持って、小馬ち
ゃんのお母さんに会いに来なかったかなぁ?
小馬:う~ん・・・。
まだ、いらっしゃってはいないはずなのです
が・・・。
お母さんに聞いて参ります。
少々、お待ちくださいね。
道長:有難う。
すると、小馬ちゃんは、と と と・・・ と、足早に、お家の中に入っていった。
まだ、小学校に上がったばかりだ。
これから、どんな夢を描くのだろう。
それを、棟世さんと一緒に見守っていこう。
楽しみだ。
小馬ちゃんがお母さんを連れて、戻ってきた。
少納言:式部さんは、今日は、まだ、いらしておられ
ないです。
そう言って、不思議そうな顔をされた。
そっか・・・。
じゃぁ、何処に行ったのだろう・・・?
困ったなぁ・・・。
私の、困った顔に気づいたのか、二人とも、顔を見合わせた。
少納言:何か、お困りのことでも、ありますでしょうか・・・?
小馬:お手伝いします。
道長:有難うございます。
とりあえず、もう一度お家で探してみます。
じゃぁ、また。
お互いに会釈をして、お互いお家へ帰っていった。
それにしても、式部のやつ、何処で油を売っているんだか・・・?
からから てくてく ずんずん と歩いて、ようやくお家が見えた。
お花の香りが風に乗って、私を包んだ。
道長:ただいまぁ。
式部:おかえりなさいだにゃぁ~。
式部の声がした。
なぁ~んだ、何処にいたんだぁ? と、思いながら、声のする居間の方へ向かった。
道長:お前、探しまくったんだぞぉ~。
式部:ごめんだにゃぁ~。
・・・?
居間には、式部がいなかった。
あれっ・・・?
確か、居間から声がしたはずだったんだけれどもなぁ・・・。
何処だぁ・・・?
キョロキョロしていると、窓の側に、可愛らしい三毛猫が一匹いた。
窓から、地域猫がお家の中に入ってきたらしい。
道長:ごめんなぁ・・・。
お家の中には、あんまり入ってきてほしくな
いんだよぉ・・・。
ごめんなぁ・・・。
と言って、三毛猫を ふわっと 優しく持ち上げた。
にゃぁ~ にゃぁ~ にゃぁ~ にゃぁ~ と、叫んでいる。
手足をバタバタとさせて、手をかみかみする。
道長:ごめんなぁ・・・。
ごめんなぁ・・・。
そう言って、三毛猫を抱えたまま、玄関へと向かった。
ずっと、三毛猫は にゃぁ~ にゃぁ~ にゃぁ~ にゃぁ~ と、言っている。
心が、水色になっていく。
嗚呼、俺、悲しい・・・。
ごめんなぁ・・・。
ごめんなぁ・・・。
すると、 助けてにゃぁ~ 助けてにゃぁ~ 助けてにゃぁ~ と、聞こえてくるようになった。
嗚呼、俺、とうとう、心が痛くて、猫の声が分かるようになったのかもしれない・・・。
道長:式部~!!!
式部~!!!
式部~!!!
半べそをかきながら、三毛猫を抱えたまま、式部を探し出した。
すると・・・。
式部:何だにゃぁ~!!!
何だにゃぁ~!!!
何なんだにゃぁ~!!!
あれっ・・・?
声がとても近くでするぞ?
あれっ?
キョロキョロしながら声の方を探した。
・・・?
声は、俺の手の中から聞こえてきた・・・?
そんな訳ない・・・ と、パニックになった。
俺は、とうとう、幻聴が聞こえてくるようになったのか・・・。
どうしよう・・・。
怖いよぅ・・・。
式部、何処だよぉ・・・。
式部:ここだにゃぁ~!!!
ここだにゃぁ~!!!
ここにいるのにゃぁ~!!!
道長:うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁ・・・!!!
思わず、抱えていた三毛猫から、手を離してしまった。
三毛猫は、 ひらり と、軽々と、畳の上に飛び降りた。
そして・・・。
シャーッ とした。
お お お お お 怒っている・・・。
だって、お前、喋っただろう?
そりゃ、びっくりするだろう?
あっ!!!
それどころでは無い!!!
式部は何処だ?
道長:式部~!!!
式部:にゃぁ~!!!
嗚呼・・・。
俺、とうとう、妻恋しさに、幻聴を起こす、依存男になってしまった・・・。
なぁ~んてことだぁ・・・。
式部:にゃぁ~!!!
道長、助けてにゃぁ~!!!
私、猫になっちゃったにゃぁ~!!!
はっ・・・ と、やっと、点と点が結びついた。
恐る、恐る、畳の上で にゃぁ~ にゃぁ~ 言っては、俺の足にしがみつく三毛猫を、じ~っと見つめた。
そして、三毛猫を抱き上げて、顔をじっと見つめた。
すると、三毛猫は目を逸らした。
妻は見つめ続けると、恥ずかしくなって、いつも、目を逸らす。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・。
なぁ~んてことだぁ・・・。
式部・・・、式部・・・、お前、式部なのか・・・?
怖くて、声に出せなかった。
しばらく、そのまま動かなかった。
その間にも、三毛猫は にゃぁ~ にゃぁ~ 何か、言葉らしいことを言っていた。
深く はぁっ・・・ と、息を吐き出してから、三毛猫におずおずと話しかけてみた。
道長:お前・・・、お前は、式部なのか・・・?
ち ち ち ち 違うよな・・・?
違うと言ってくれ・・・。
すると、三毛猫の目から、 じわじわ ぽたぽた はらはら 涙が溢れてきた。
式部:助けてにゃぁ~!!!
助けてにゃぁ~!!!
どうか、お願い!!!
道長、助けてにゃぁ~!!!
道長:うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁ・・・!!!
どぉ~する!!!
どぉ~する!!!
どぉ~する!!!
どぉ~する、俺!!!
ep.1 何故か猫 終了
最後まで、お読みいただき、有難うございました。
よろしければ、次回作もお読みいただけると嬉しいです。
次回作は、まだ、未定です。
投稿致しましたら、活動報告をさせていただきます。




