第4話:適性者の日常
朝。
国家覚醒機関の宿舎は、静かすぎるほど静かだった。
ここは「施設」であり同時に「生活圏」でもある。
覚醒者は一度適性を確認されると、基本的に外へは出られない。
理由は単純だ。
未制御の能力が社会に流出する危険があるから。
「……ほんとに軍事施設なんだよな、ここ」
俊也は天井を見上げながら呟いた。
扉がノックされる。
「起きてる?」
来夏の声だった。
「起きてる」
扉を開けると、来夏はすでに準備を終えていた。
「ここ、出られないんだよね」
来夏が廊下を歩きながら言う。
「覚醒者は基本的に“管理対象”だからな」
俊也は淡々と返す。
来夏は少し眉をひそめる。
「管理対象……?」
「能力を持った人間は、外にいる方が危ない」
「暴走する可能性もあるし、狙われる」
それは説明というより事実だった。
来夏は少し黙る。
「じゃあ私たち、ここにいるのは隔離ってこと?」
俊也は一瞬だけ間を置いた。
「隔離、というより保護と管理だ」
(前世では“収容”と呼ばれていたがな)
■訓練ホール
広い空間に覚醒者たちが集まる。
無機質なモニターと監視カメラ。
ここは訓練施設であり、同時に生活施設でもある。
職員が前に立つ。
「これより覚醒者運用基準を説明する」
スクリーンが切り替わる。
『覚醒者管理制度』
覚醒者は適性検査後、原則として国家覚醒機関に所属し生活・訓練を行う。
「外部社会への単独帰還は禁止」
「任務許可がある場合のみ外出可能」
空気が少し重くなる。
来夏が小さく呟く。
「やっぱり、自由はないんだ」
■ランク制度
スクリーンが変わる。
『覚醒者ランク制度』
S・A・B・C・Ⅾ
「すべての覚醒者は戦力として分類され、その数値こそが絶対だ」
(兵士、か)
俊也は静かに思う。
■食堂
昼。
無機質な空間で食事をとる覚醒者たち。
「ねえ俊也」
来夏がフォークを止める。
「ここにいるのって、なんか変な感じ」
「変でいい」
俊也は短く答える。
来夏は少し笑う。
「普通じゃないよね、私たち」
「...」
「最初から普通じゃない」
その言葉に、来夏は少し黙る。
■小さな異常
その時だった。
施設の照明が一瞬だけ“揺れた”。
ほんの一瞬。
誰も気づかないレベル。
だが俊也だけは見逃さなかった。
(今のは……)
次の瞬間には、何事もなかったように戻る。
来夏は気づいていない。
周囲も変化なし。
(またか)
この施設はまだ正常だ。
だが確実に、
どこかで“歪み始めている”。
■夕方
廊下。
来夏と並んで歩く。
「ここってさ」
来夏が言う。
「ずっとこういう場所なのかな」
「たぶんな」
「でも悪くはないかも」
「...」
「何がだ..」
「知らない世界にいるのって」
「ちょっとだけ楽しい」
その言葉に俊也は答えない。
(その感覚は危険だ)
(この世界では特に)
■夜
俊也は窓の外を見る。
空がわずかに歪む。
今度は、確かに見えた。
(始まっている)
誰もまだ気づいていない“変化”が。




