第21話:取りに行く理由
人型エネミーが動いた。
目標。
俊也ではない。
神代零牙でもない。
崩壊したビルの奥。
銀色のケース。
「……やっぱりか」
俊也が呟く。
「何だ?」
零牙が気付く。
人型エネミーが真っ直ぐ進んでいる。
目の前にいる覚醒者を無視して。
腕も振らない。
攻撃もしない。
ただ。
ケースへ向かっている。
「零牙さん!」
俊也が叫ぶ。
零牙が振り返る。
「何だ」
「絶対にあれを渡しちゃ駄目です!」
零牙の眉が動く。
珍しい。
新人がこんな断言をするのは。
「理由は?」
俊也は一瞬迷う。
言えない。
未来のことは。
前世のことは。
だから短く言う。
「あれは人類側の技術です」
「もし敵に回収されたらまずい」
完全な嘘ではない。
零牙は数秒考える。
そして。
笑った。
「面白い」
その一言だった。
「だったら取ってこい」
「は?」
俊也が固まる。
「俺が時間を稼ぐ」
零牙は前を見る。
人型エネミーを。
「その代わり」
「死ぬなよ新人」
次の瞬間。
零牙が消える。
轟音。
人型エネミーが吹き飛ぶ。
地面を削りながら数十メートル滑る。
覚醒者たちが息を呑む。
「嘘だろ……」
「押してる……」
だが俊也は違った。
(違う)
押してるんじゃない。
止めているだけだ。
まだ倒せていない。
俊也は走る。
銀色のケースへ。
瓦礫を飛び越える。
崩れた壁を蹴る。
だが。
途中で足を止めた。
(いる)
気配。
ケースを守るように。
黒い影が立っていた。
人型ではない。
腕型でもない。
犬のような形。
だが大きい。
普通の乗用車ほどある。
赤い目。
低い唸り声。
「……なるほどな」
俊也が息を吐く。
AIがケースを狙っていた理由。
簡単だった。
最初から守っていた。
黒い獣がゆっくり立ち上がる。
その背中。
銀色のケース。
あと数メートル。
だが遠い。
俊也は静かに構える。
そして小さく呟いた。
「前世では取れなかった」
「今度はもらうぞ」




