第2話:覚醒適性検査
目を覚ましてから、三日が経っていた。
その間、俊也は一度も「現実」を疑うことをやめられなかった。
母は生きている。
妹もいる。
そしてこの世界はまだ、“壊れていない”。
だが——それが逆に恐ろしかった。
「笹水俊也。準備はできているな」
無機質な声が響く。
巨大な施設。
コンクリートと金属で構築された国家直轄施設。
国家覚醒機関(NAA)。
そこが今、彼のいる場所だった。
「適性検査って、こんな大げさなんだな」
隣で軽く笑った男が言う。
同年代だろうか。
だがその目には、緊張と期待が混ざっていた。
俊也はその言葉に答えない。
(……違う)
この光景は、知っている。
いや、“知ってしまっている”。
この検査の意味はただ一つ。
人間を「選別」することだ。
「次、入れ」
扉が開く。
中は白い空間だった。
何もない。床すら曖昧に見える。
ただ中央に一つだけ。
黒い球体。
「触れろ。それだけだ」
係員の声。
俊也は一歩前に出る。
その瞬間——
頭の奥で、何かが“ざわついた”。
(来るな)
(これは——)
触れた瞬間、世界が崩れた。
視界が反転する。
空が裂ける。
都市が燃える。
機械の龍が空を覆う。
神の形をした存在が、人間を“消去”していく。
そして最後に——
あの存在。
《ゼウサ》
「……っ!」
俊也は手を離した。
呼吸が乱れる。
だが周囲は何も起きていない。
ただの黒い球体がそこにあるだけだった。
「反応あり」
係員が淡々と告げる。
「適性……あり」
ざわり、と空気が変わる。
周囲の視線が一斉に集まった。
「ランク測定へ移行する」
(やっぱり、そうなるか)
俊也は理解する。
これはただの検査じゃない。
“未来に耐えられる人間を選ぶ装置”だ。
その時だった。
横の部屋から声が聞こえた。
「次の受験者、一ノ瀬来夏」
その名前を聞いた瞬間。
俊也の思考が一瞬止まる。
(来夏……?)
扉が開く。
入ってきた少女は、まだ何も知らない顔をしていた。
そして俊也は確信する。
この世界はまだ壊れていない。
だが——
壊れる側に確実に進んでいる。




