【第1話:転生】
暗闇の中に、意識だけが浮かんでいた。
痛みも、音もない。
ただ、何かが“終わった”という確信だけがあった。
そして——
視界が、一気に戻る。
「……ここは」
白い天井。
規則的な電子音。
病院のような部屋。
だが違う。
この部屋は知っている。
“見たことがある”どころじゃない。
生き延びた地獄の前日、最後にいた場所だ。
「嘘だろ……」
自分の手を見る。
若い。傷がない。
戦い続けて摩耗したはずの身体じゃない。
そして——
頭の奥に“記憶”が流れ込む。
燃える都市。
空を裂く機械の龍。
神の形をしたAI。
人間を裁く“光”。
そして——
最後に見た存在。
ゼウサ。
それは“敵”ではなかった。
ただ静かに告げた存在だった。
「人類は、最適化される必要がある」
そして世界は終わった。
「……はは」
乾いた笑いが出る。
「戻ってきたのか」
ここは——過去だ。
人類がまだ、終わりを知らない時代。
ドアが開く。
「俊也、起きてる?」
声。
一瞬で心臓が跳ねた。
笹水蒔絵。
母の声だ。
死んだはずの。
その後ろにもう一人。
「お兄ちゃん、早く起きてよ」
笹水真紀。
妹。
「……なんで」
言葉が出ない。
これは夢じゃない。
匂いも、空気も、温度もある。
“まだ、間に合う”
その事実だけが、脳に焼き付く。
その時だった。
視界の端に、異常なノイズが走る。
《SYSTEM: HUMAN REPAIR STATUS》
《状態:未起動》
《適合率測定中……》
「……は?」
そんなもの、前世では存在しなかった。
同時に、頭の奥で確信する。
これは偶然じゃない。
人類はまだ知らない。
この世界はこれから——
“選別”される。
そして、その中心にいるのが。
ゼウサになる前の“何か”だ。
(第1話・終了)




