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第36話 レジスタンス狩り

 ソフィーはセントラルタワー前にて、ハンターの人らが来るのを待っているとキッドとハンターと思しき男女2人がやってくる。一人は金髪のチャラそうな軽装の男性、もう一人はロープを身に纏った艶やかな髪をたなびかせる女性だ。


「貴方はあの時の……」


「覚えてくれて何よりだ。俺のことはもう話さなくてもいいだろう。お前たち、自己紹介をしろ」


「俺はエルソン・ワーカー。今回は斥候として働かせてもらうぜ」


「私はマリー・アドリック。帝国だと数少ない魔法使いのハンターよ」


「私はソフィー・リーアントと言います。この1ヶ月間よろしくお願いします。キッドさん、エルさん、マリーさん」


 互いに自己紹介を終わったところで、キッドが今回の留学にあたっての説明をする。


「王国では魔獣退治が主な任務と聞くが、帝国では魔獣による被害よりもレジスタンス活動による被害の方が大きい。そのため、対人戦闘が主になる。時には人を殺さないといけない場面に直面するだろう。君にその覚悟がないなら、今すぐ帰れ」


 ソフィーは今までの戦いを振り返る。ソフィーが今まで戦ってきた中でも対人となると数える程度しかない。そのすべての被害者は生かしている。果たしてその場面が来たら、自分はその選択をとれるのか自答し、そして答える。


「今はわかりません。でも、大切な人を傷つけようとするなら、私は……その人を撃ちます」


「って言っているけど、キッド。お前さんの返答は?」


(ちょっと殿下に失礼でしょ)


(別にいいだろう。馴れ馴れしくしておかないと一般のハンターにみえないぜ)


(それもそうだけど……)


 マリーとエルソンがこそこそと話しているが、その内容まで聞き取れなかったソフィーはキッドからの返事を待つ。


「ならば態度で示してもらう。ここから東部のアッカマン遺跡に怪しげな男の出入りがあると報告が入った。おそらくレジスタンスが調査済みの遺跡を根城にしているのだろう。俺たちはレジスタンスの排除を最優先とし、任務にあたる」


 そして、ソフィーたちは機関車に乗り込んで最寄りの駅まで移動し、アッカマン遺跡まで歩いて移動した。その遺跡は荒野の中、岩肌に掘られた穴があり、その横には怪しげなトーテムのような建造物が置かれている。ソフィーが光魔法で辺りを照らし、前へと進む。


「かつての調査隊が罠を外したらしいが、すべての罠を外せたとは限らない。気を付けることに越したことはないだろうよ」


 ソフィーが辺りを見ると、エルが言うように壁にある足元の色の変わった石畳みを踏んだら矢が飛んでくる仕掛けは、発射口がコンクリートのようなもので防がれており、無力化されている。とはいえ、わざわざ踏む必要はないので、それを踏まないように前へと進んでいく。


 エルはキッドが事前に用意した遺跡の地図を見ながら歩き、最深部まで歩いたが、大広間になっているだけで男性の姿はおろか動物がいる様子すらない。罠の可能性もあるため、先に行かせたエルが戻ってキッドに報告する。


「何もないようだぜ。その情報はデマみたいだな、キッド」


(あの情報屋は高額で胡散臭いが、正確な情報を得れるはず。デマ情報を渡すはずはないのだが……)


 キッドが悩んでいるのを他所に、ソフィーは心の中にいるマリアと一緒に辺りの外壁を調べていた。円状の部屋をぐるりと回っているとき、マリアがソフィーを呼び止める。


(ん? この壁の奥……顕現できる空間があるな)


(この先に通路があるってこと?)


(可能性はある。顕現して少し様子を見てみる)


 マリアが隠し通路の中を見ると、先までの石造りの壁からまるで違う姿に変わっていた。


(なんだここは……帝都と同じコンクリートの壁と床。ということは作られたのは最近か?)


 この変貌の差や人の目を欺けることができる偽装能力からレジスタンスが高い技術力を持っているのは明確になり、急いでソフィーにそのことを伝える。いくら帝国があくどいことをしているとはいえ、一般人に被害を及ぼそうとしたレジスタンスに国を明け渡すよりかはマシだと判断したからだ。


「あのキッドさん、この先になにか空間があると思うんですけど……」


「この先にか……? エルが見逃すとは信じられんが、試させてもらおう。バーストショット!」


 キッドが銃に専用の弾丸を装填し、壁に向けて放つと、弾丸が着弾したと同時に大きな爆発が起こり、壁が崩れて奥の通路が見えた。


「マジかよ……反響音に違いはなかったぜ」


「本当にあったよ。ソフィーちゃん、探査系の魔法ってやつ?」


「えっ~と……そんな感じです」


(壁の厚さから見るに、それなりの厚さがあったみたいだな。レジスタンス、いったいどこからこれほどの物資を?)


 キッドが壁の破片を見つめながら、思案しつつも今は立ち止まるわけにはいかないと、彼らに指示する。


「最近になって作られたのは明確だ。レジスタンスがいるとしたらこの奥だろう」


 エルが黒いゴーグルをかけて、あたりを見渡しながら歩いて行くと何か見つけたのか壁の一部にポケットから粘土らしきものを塗りつける。


「他に赤外線センサーはなさそうだな」


「赤外線センサーって?」


「赤外線っていう目に見えない光に触れると罠が発動する仕組みだ。この特殊な粘土を使うとそのセンサーを無力化できるってわけさ」


 そんな名前の罠を聞いたことがないソフィーは「そういうものもあるんだ」と帝国の技術力に感心していた。その報告を聞いたキッドは眉間にしわを寄せる。


「だが、レジスタンスがセンサートラップを仕掛けたというのは初めて聞く。どこから流れてきた後で調べる必要がある」


「それは私たちに任せなさい。それよりも先を急ぎましょう」


 マリーの言葉にそうだなと答えたキッドは、再び施設内を歩いていく。いくつかの部屋が見受けられるも、ゴーグルを身に付けたエルによれば生きた人間が隠れている形跡はないとのことで地下に降りていく。


 そして、エルがある一室で立ち止まり、この部屋に入るように促す。そこにはレジスタンスの格好をした男性がコンピューターの前にもたれかかるように倒れ、左手には銃が握られていた。


「死んではいるみたいだが、体温からさほど時間は経ってはいない。俺たちの侵入に気付いて自害したってところだな」


「コンピューターにデータが残っていれば良いのだが……」


 キッドが慣れた手つきでコンソールを操作し、データのサルベージをする。だが、自害した男性によってほぼすべてのデータが消されており、復元できたのは報告書か何かの一文のデータだけだった。


『○月×日。人形。ラグナロクへの入荷率87%まで終了』


「なんだこれ? 日付は直近みたいだが」


「分からないが、このラグナロクというのがレジスタンスの反攻作戦の1つだと考えられる。この人形が何を示しているかその手掛かりだけでも探したほうがいいだろう」


「確か、ここに来るまでの間に第1倉庫ってのがあったな。とりあえず、そこに行こうぜ」


 エルの提案を受けたキッドは無言で頷き、同じ階層にあった第一倉庫に向かう。そこには段ボールやコンテナが山のように積まれており、一つ一つ調べるには時間がかかりそうだ。

 そう思っていた時、奥から物音がしたため、エルはそっと音がしたほうへと向かう。そこには成人男性サイズくらいの赤く光るモノアイの人型の白いロボットであり、左腕が銃口になっていることから明らかに戦闘用で作られたことが分かる。

 体温で人を感知したのかロボットがコンテナの陰に隠れていたエルに向けて銃弾を放つ。


「侵入者発見。排除シマス」


「ちっ、見つかったか。だが、その程度なら……」


 腰から銃を抜きとり、ロボットに向けて数発の銃弾を放ち、モノアイを破壊する。運よく頭部の重要個所も破壊したのかピタリと動きを止めたロボットにほっと一息を入れる。騒ぎを駆け付けた3人がエルのもとにやってきたので、事情を話す。


「レジスタンスの『人形』はこれのことだったのだろう」


「数の差をロボで埋める寸法ね。よく考えられているじゃない。褒めたら駄目だけど」


「まあな。1体だけでならともく複数こられたらヘッドショットをかますのは難しいからな」


「問題は資材がどこから横流しされているのかだ。その流通先をしらべ……」


「侵入者排除」「侵入者排除」「侵入者排除」


 キッドの言葉を遮るかのようにコンテナ内部からロボットの軍団が起動していき、コンテナを内部から破壊する。そして、一糸乱れぬ足並みは数々の修羅場を潜り抜けたはずのソフィーでさえ、不気味に感じていた。


 崩れ落ちた荷物の陰に隠れながら、キッドはロボットに向けて銃弾を放つが、その数が減る様子はない。王国との戦争を回避するにはソフィーを無事に帰さなければならない。ならば、自分たちの身体を盾にしてでもと考えていた時、ソフィーはロボットの前に立つ。


「なにをしている!? いくら魔法でもこの数相手では……」


「大丈夫です。リフレクション!」


 ロボットの銃撃を放った銃弾が全て跳ね返され、モノアイや銃口に突き刺さり爆発の花が咲きほこる。武器を失ったロボットは腰につけていた電撃が迸る警棒を持って、ソフィーに襲いかかろうとするが、キッドらの攻撃によって撃ち落とされていく。遠距離武器がなく、移動速度も速くないロボットに後れをとるようなまねはこの3人にはなかった。

 そして、銃撃戦が終わったとき立っていたのはソフィーら4人だけとなっていた。


「久しぶりに予備のマガジンも尽きたぜ」


「これで10%程度なら、残りの90%弱が帝都に攻め込まれたらどうなるかわからん」


「地の利がある分、こっちが有利って考えたいけどね……」


 倉庫から出るため、ロボットの残骸を乗り越えている時、ソフィーは頭部だけとなったロボットのモノアイが赤く光っており、まだ生きていることに気付く。だが、壊れているせいか同じ言葉をたどたどしく言っているにすぎない。


「シンニュウシャハイジョ……ハイ……ジョ…………ハ……ア……リ………t……o……u」


(このロボット、今なにか言ったような……)


(どうした、ソフィー)


(ううん、なんでも無い)


 すでに光が消え、暗くなったモノアイのロボットを見ながらソフィーは遺跡を後にするのであった。

新規小説『異世界学園~転移した聖女は私の妹になる』を投稿し始めました

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本日の12時には2話まで投稿します。

時間があれば、そちらの応援もお願いいたします。

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