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私と女神の二重生活~最強の姉は自分自身!?  作者: ゼクスユイ
第2章 別れ、そして迫りくる脅威
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第33話 そして「私」は私になった

 ソフィーたちと戦った同じ空間内でマリアとアイリスは向き合っていた。


「アイリス様、私と話したいこととはなんでしょうか?」


「ええ。貴方には幸か不幸か、私と同じ女神の力が流れています」


「はい。私が使ってきたセイクリッド呪文。特にセイクリッドテンペストは女神様の力無しでは扱えるものではありません」


「貴方が数多くの命を救い、私の国、そしてこの国の運命すらも捻じ曲げてきたその力。正しく使ってくれて喜ばしい限りですわ」


 マリアは自分たちがやってきたことが生みの親の女神様に賞賛されて少し照れくさくなり、顔が赤くなる。


「ですから、私の力をもう少しだけ分け与えようと思います」


「アイリス様が仰るのであれば構いませんが、力を譲渡しすぎるとアイリス様が困るのでは?」


「……かつての私は私利私欲のため女神の力を使いました。γ世界では使っていないとはいえ、記憶を受け継いだ同じ存在。私以上にふさわしい方がいれば、この力を受け継ぐべきだと考えておりました」


「身体を持たないような私でよろしいのでしょうか?」


「私なんて大昔に死んでいます。女神の力を授かれば現世に顕現することもできます。そうすればソフィーちゃんと一緒に寝たり、食べたり、遊んだり、お風呂に入ったりすることができますよ」


「そ、それは魅力的……分かりました。その力、喜んで受け入れましょう」


 ソフィーとのふれあいを餌にマリアはあっさりと堕ちた。そして、アイリスがマリアの額に手をおき、女神の力を流しこむとマリアの背中から純白の翼が生えてくる。マリアが背中の羽を動かそうとするとばたつき、わずかに体が浮く。


「アイリス様、これは……」


(……うっかり流す量間違えたとは言えません)


「貴方の女神の適性が高いおかげでこちらの想定以上に女神として覚醒したようです。前世で女神とよばれていたからですかね。ホントウデスヨ」


 アイリスは目をそらし、最後の方はひどい棒読みで言い訳をしていた。だが、戦闘のこと以外では鈍いマリアは「そういうものか」と納得していた。そして、白い空間が消え去り、現実の世界へと戻ってきたマリアは翼を広げ、大空へと飛び去った。そんな彼女をアイリスは見つめる。


「くれぐれも帝国には気を付けてください。α世界では王国は彼らの手に……」



(バランスをとるのが難しい。後で練習しておこう)


 初めての飛行にマリアはふらつきながらもソフィーたちがいる可能性が高いハーフレンの村へと向かっていた。だが、ハーフレン上空に差し掛かるころ、人々の行列が蟻のように村へと向かっていた。


(この時期に祭りごとはなかったはず。帰省には早すぎる。レーラントで何かあったのか?)


 嫌な予感がしたマリアはハーフレンを通過し、レーラントへと向かう。急ぐとバランスを崩して墜落しかねないので、スピードは控えめだが歩くよりかはずっと早い。しばらくすると、黒煙を上げた城のようなものがレーラントに向かって落ちてきているのに気付き、墜落の危険性を顧みずに速度を上げる。



 レーラントに墜落するまであとわずか。マリアはソフィーたちを見つけ、ぐんぐんと近づいていく。


「……そんな大火力どこにあるのよ」


 ヒステリックなアリスの言葉が聞こえる。最期の戦いでも彼女は同じことを言っていたことを思い出し、思わず苦笑する。


(あの時は文字通り命賭けだったが、今は違う。アイリス様、貴女に貰ったこの力、使わせてもらいます)


「1つだけ策はある」


 悲壮感が籠った声で言ったあの時とは違うはっきりとした声で彼女らに言う。そして、マリアの姿を見たソフィーは幽霊でも見たかのような表情をした後、涙を流す。今にでも再会の喜びを表したいマリアだったが、それをぐっとこらえ、彼女らにかつてと同じことを言う。


「私のセイクリッドテンペストの完全開放、シン・セイクリッドテンペストならあれを破壊できる」


「大丈夫なのか? あの時と違ってもう時間が……」


「女神になった私なら十分な時間だ」


「あとでいいからちゃんと教えてよね、お姉ちゃん」


「ああ。約束する……ソフィー」


 ソフィーたちのもとから飛び去ったマリアはレーラントを背にし、あと1分もしないうちに落ちてくるであろう天空城の前に立つ。


「豊穣の剣よ、我が真名マリアの名の下、その力を開放せよ!」


 白銀の剣を持ったマリアが金色に輝いていく。その姿を見た人々はコダインの女神像に描かれていた女神像に描かれていた一節を思い出し、マリアを女神さまだと言い始める。


「金色の嵐よ、邪気を払い、救国の一撃となれ!シン・セイクリッドテンペストォォォォォオ!!」


 金色の嵐が天空城を包み込んでいく。その様子を内部から見ていた博士は壊れたような高笑いをする。


「ガハハハハ!神とはこれほどの魔力を操るのか!これはワシの想定以上の数値!皇帝陛下、フォース、いえファイナルオペレーション『ラグナロク』を挫くのはこやつかもしれませんぞ」


 天空城の岩肌がシン・セイクリッドテンペストに耐えきれず、壊れて分解し砂へと変わっていく。そして、博士自身もその渦の中へと飲み込まれる。


「だが、人間はいつかおなじだけの力を手にする。それをゆめゆめわすれるなよ、こむすめぇぇぇぇぇ!」



 マリアの放ったシン・セイクリッドテンペストによって天空城は跡形もなく消え去り、細かい砂がパラパラと雨のように降り注ぐ。そして、マリアは一番会いたかったソフィーの眼前に降り立つ。さっきまで泣いていたせいか目が真っ赤になったソフィーはマリアを見つめる。


「言いたいことは色々とあるんだが、こういうときなんて言えばわからないな」


「こういうときはこういうんだよ。おかえり、お姉ちゃん」


「ただいま、ソフィー」


 互いに嬉しそうに抱きしめる二人を見て、周りにいた者までもらい泣きをする。シン・セイクリッドテンペストを使用した反動でマリアの身体が薄っすらと消えていき、消滅する。一瞬、トラウマを思い出したソフィーはマリアに問いかけると、ソフィーは以前のようにマリアに変身する。


「心配するな。ちょっと休むだけだ。顕現するにも魔力がいるからな」


 マリアがそう言い残すと、再びソフィーに戻る。一安心したせいで気が緩んだソフィーはこれまでの戦いの疲れもあり、深い眠りへと意識を手放した。



 ソフィーが目を覚ますと、自室のベッドの上で寝ていたことに気づく。そして、その横には姉のマリアがむにゃむにゃとソフィーを抱き枕かのように抱きかかえていた。しかも姉の手が自分の胸に当たっているのが恥ずかしさを増幅させる。


(こんなところ、クレアちゃんに見られたら恥ずかしいよ)


 なんとか引き離そうとするが、無茶な強化魔法の乱用で全身筋肉痛のソフィーにとってはそれすらも困難なクエストであった。しかも誤って、マリアの顔が正面に来て鼻が触れ合うくらい近くに来る。少しでも動けば彼女のサーモンピンクの唇と触れ合ってしまいそうだ。


 そして、無情にもドアが開き、クレアがその場面を目撃してしまう。目撃したクレアは気遣うかのように微笑み、「お楽しみのところ失礼しましたわ」と言って静かに退出した。


「違うからね。お姉ちゃんとはそういう関係じゃないからね」


 その後、マリアが起き上がるとソフィーに顕現に不慣れな時に寝るときは自分の身体にいることと怒られてしまう。




 帝国の王国への侵攻は王国だけでなく中立国にもその内容が伝わり、帝国への非難が連日続くことになる。だが、帝国は一部の将校の暴走によるものだと釈明し、賠償金と一部技術の譲渡をするだけに至った。


「陛下。マスコミが騒いでおりますが……」


「応じる必要はない。すでにラグナロクの準備はできている。彼は優秀だったが暴走しがちな駒だったからね。いずれは廃棄処分をしないといけないと思っていたところだよ」


 ニコラス皇帝はできの悪い部下が映っている画面から別の画面へと切り替える。そこには機械の部品とそれらを組み立ててる作業員の姿があった。


「向こうが神を味方にするなら、やはりこちらは魔獣ではなく人を使わないといけないな。さてと、私も表舞台に立つとしよう」


 そういうとニコラス皇帝はマントをたなびかせ、部屋から出ていく。その一瞬、窓から日が差し込み、ニコラスの影が物語の魔王のように映し出されるのであった。

次からは最終章、帝国との決戦に移る予定。

まあ、ほのぼのフェイズを導入してからですけどね。

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[一言] 脱字で思わずクスっと来た
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