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チクタクと秒針が進む。
お茶会から三日。私はヴィルと対峙していた。
「あの、ライラ様」
戸惑いからか、眉が下がっているヴィル。
私は緊張を解す為、すぅっと息を吸った。
「失礼を承知で聞きますが……フィオ様は、ナーチス子爵夫人に嫌がらせを受けているのですか?」
針が一回りした頃、目を見開いていたヴィルは、小さく首を振り肯定を示した。
「一月ほど前、仕事が早く終わって帰ったときに、母の部屋からフィオの泣き声と妹達の怒鳴る声が聴こえてきたんです」
その声は、『お父様を誑かした女の子が』『家の恥さらし』と言っていたのだそう。
「慌てて部屋に入ったら、そこには母もいて……ぞっとしました。母は笑っていたのです」
妹達がフィオを蹴る光景を心底愉しそうに、と続けたヴィルは、悲痛そうに顔を歪めた。
「ヴィル様は、フィオ様を助けたいですか?」
「はい」
迷いなく頷いた彼に、私は一つ『提案』をした。
この後、事前に話していたお母様に『提案』の了承をもらったと伝えたのだが……これがフラグに繋がるとは、このときの私はわからなかった。
*
「……フィオです。よろしくお願いします」
たどたどしい、それでも以前よりはスラスラと挨拶をした彼は、綺麗な礼をする。
お母様、これは一体どういうことでしょうか。
一週間前。私がヴィルにした『提案』は、『フィオを養子に出す』というものである。
幸い、ナーチス家の跡継ぎはヴィルがいるし、その辺りは問題ない。
唯一あるとすれば、子爵の説得だが……これはヴィルに任せた。
許可が出たのは三日後。書類云々はさらにその二日後。
お母様に事前に話していたのは、お母様経由でご夫人方に広めてもらえば……と思ったからで。
……それがどうして、家にいるのであろうか。
「ほら、家には跡継ぎがいないでしょう?ライラの話を聞いて、丁度良いと思ったの」
悪気なく笑うお母様に、何を言っても無駄だと理解した。
「ライラです。これからよろしくお願いします」
私の挨拶に、ぺこりと小さく礼をするフィオ。
……そもそも前世では末っ子だった為、ずっと弟か妹が欲しかったのは、紛れもない事実。
だから正直、義弟が出来るのは嬉しいんだけど……彼、攻略対象なんだよね。
ちらりとフィオに視線を向けると、不安げにこちらを見ている。
……駄目だ。前世で攻略出来なかった未練もだけど、フィオの可愛さに勝てる気がしない。
「今日は姉弟で仲を深めると良いわ」
予定は全てキャンセルしておいたし、と笑みを深めるお母様。抜かりない。
私はフィオを安心させるように笑いかけ、彼の手を引いた。
「フィオが良ければ、庭を案内するわ」
「……よろしく、お願いします」
*
ティアード家の庭は広い。
流石侯爵家というか、侯爵家でこの広さなら、王家や公爵家の庭はどうなっているんだろうと甚だ疑問である。
とりあえずフィオを庭に連れ出したは良いものの、これといってやるともない。私は植物の名前を上げていくことにした。
「これはツツジ。向こうに植わっているのがポピーで……あ、あのチューリップはもうすぐ咲きそうね」
「あ、あの……」
おずおずと話しかけてきたフィオ。ハッ、一方的に話し過ぎたわ。
「ごめんなさい、私ばかり話してしまって。どうかしたの?」
「いえ、それは別に……。……その、あの花は抜かないのですか?」
彼が示す先には、シロツメクサやタンポポなどの所謂雑草達が。
「庭師の方は抜こうとなさっていたのだけど、個人的に好きな花だからって、見逃してもらったの」
やっぱり抜いた方が良いのかなぁ。前世の名残で、タンポポとかを見て春が来たって思うからそのままにしているんだけど。
「その……僕も好き、です。ただ、ナーチス家では見かけなかったので……」
まぁ、そうでしょうね。あそこは(主に子爵夫人と姉妹の)貴族意識が高いから、雑草なんて庭に咲いたら即、抜いてしまうだろう。
タンポポの綿毛を飛ばしたり、四つ葉のクローバーを探したり、シロツメクサで花冠を作ったりと、雑草にだって活用法があるのに。
「そうだわ!フィオ、少し待ってて」
ドレスを気にせず、地面に腰を下ろす。フィオが目を見開いているけれど、無視よ無視。
シロツメクサ二本に一本のシロツメクサを巻き付けて……暫くそれを繰り返すうちに、それは立派な花冠になった。
手先は器用なのよ!運動神経は転生しても変わらないけど。
それを隣で見ていたフィオの頭にそっと乗せる。
ふわふわの髪に白い冠。うん、想像以上に可愛い。
小さい頃は、友人と花冠を被ってお姫様ごっこなんかをやっていた。無論、フィオには敵わない。主に可愛さが。
と、とんっと頭に微かな重みを感じた。
触れてみると、先ほどまで触っていたシロツメクサのカサリとした感触がある。
「ふふっ、お揃いですね。……姉様」
彼の顔に、ふわりと花が綻ぶような笑みが浮かんだ。




