ユウ
彼女の部屋はいつも、
タバコの煙と香水とスピーカーの低音で満ちていた。
窓は閉めきり、
朝も夜も関係なく、
光はすべてピンクのネオンに溶けていく。
ミア。
名前を呼ぶたび、体の奥が少し壊れていく気がする。
あの笑い方、タバコの火をつける指先、
泣きながら笑う癖。全部、俺を壊すためにあるみたいだった。
「ねぇ、今日も帰らないで。」
「明日バイト。」
「嘘でしょ。」
「……たぶん。」
笑って、キスをする。
煙と吐息が混じる。
世界が回りだす。
彼女は薬を並べて、まるでキャンディーみたいに見せる。
「これ飲むと、愛がもっと甘くなるんだよ。」
「嘘つけ。」
「ほんとだってば。」
「……じゃあ、一緒に。」
夜がぐにゃりと歪む。
音楽のリズムが、心臓の鼓動に溶けていく。
ベッドの上でミアが囁く。
「ねぇ、ユウ。もしあたしが死んでも、ちゃんと愛してね。」
「そんな約束いらねぇよ。」
「ううん、欲しいの。壊れても愛されたいの。」
涙か汗か、もうわからない。
でも、その熱の中でしか呼吸できなかった。
彼女を離すくらいなら、死んだほうがマシだった。
だけどミアはいなくなった……
朝、スマホが震えてる。
ミアのインスタが更新されてた。
「世界で一番、バカみたいな恋を手放したよ」
いいねが数百。
コメント欄は騒がしくて、でも彼女の姿はどこにもいない。
その日から、俺の体の中には“ミア”が残ってる。
匂いも、声も、幻覚みたいに。
別の誰かを抱いても、
夜中に目を開けると、そこに彼女が座っている。
いつもあの笑顔で、タバコを吸いながら。




