第6話 今日も何とか生き延びようね
「準備できた? タキナ君」
「悪い悪い。お待たせイズミ」
慣れぬ革靴を履きつつ、俺とイズミは寮の居室を出る。
昨晩は遅くまで寮の宴会だったので少し眠い。
「先輩たちは、ちゃんと起きれたのかな?」
「さぁ? まぁ、バルターリ寮の寮生は遅刻ギリギリに学校に駆け込むのが気風みたいだから」
笑いながらイズミも、眠そうに欠伸をする。
なお、夜の宴会は俺達が居室に戻った後も更に続いていたようで、朝食の時間になってもほとんど上級生は起きて来なかった。
中々にバンカラな気風である。
「俺、寮ってもっと先輩が怖くて、きっちり指導されるのかと思った。ベッドメイキングしてないと部屋の中を台風が通過したみたいにグチャグチャにされたりとか」
「フフッ……。それ、だいぶ昔の話だよ」
「いや、小説に出てくる士官学校物語みたいなのだとそんな感じだし」
「そこは寮によって大分、気風が違うみたいだよ。庶民が集まるバルターリ寮は、自由と自主性を重んじるんだ。まぁ、自由とその結果責任はセットだけど」
「へぇ~。寮によって雰囲気が違うのか?」
「上級貴族が集まるファウスト寮は逆に、規律を重んじて上意下達。それこそ、昔ながらの先輩からのしごきや温かい御指導みたいなのもあるらしいよ」
「おお~~」
「なんで、そっちの方に期待してるんだか……。ボクは優しい先輩でホッとしてるよ」
苦笑いするイズミ。
まぁ、下級生の立場である今の俺達としては、先輩が優しいに越したことはないな。
「でも、学内ではそうはいかないらしいからね……。バルターリ寮の下級生がファウスト寮の上級生に捕まって説教受けるなんて、それこそしょっちゅうらしいからさ。寮でいくら先輩が気さくだからって、学園内で他寮の先輩相手にその空気を持ち込むと痛い目を見るらしいよ」
「なるほどな」
「特にタキナ君は気を付けてね。学年首席だし、昨日の決闘騒ぎのこともあるし。あ、ようやく校舎に到着だ。じゃあ、B組はこっちだから。じゃあねタキナ君。今日も何とか生き延びようね」
「大げさな奴だな」
別れ際の相棒の言葉に笑いながら、俺の方もA組の教室に向かった。
イズミの残した言葉が、強ち冗談でなかった事を、俺は後々思い知らされるのであった。
◇◇◇◆◇◇◇
場所は校庭。
俺たち1年A組は全員、制服から運動用の体操服に着替えて集合していた。
「さ~て。記念すべき一限目の授業は総合武術ですよぉ。木剣でも木槍でも木杖でも好きな得物を持って来いですぅ」
大き目な踏み台であぐらをかき、木剣を肩でトントンしあんがらアオイ先生が指示を出す。
それを受けて、生徒たちは我先にと、武器が置かれた一角に殺到し、思い思いの得物を選び取っていく。
──何か混んでるから後でいいか。
田舎者あるあるだが、行列とか苦手なんだよね。
まぁ、流行りの店なんてある訳無いウチの田舎で行列が出来るのなんて、ソブエ爺ちゃんへの、婆ちゃん達の説教待ちの列くらいだけど。
「って、あれ? もうほとんど武器が残ってない」
人垣がようやく捌けた後の武器置き場には、オーソドックスなロングソードや長槍は一つも残っていなかった。
「あの、バグラーダ先生。武器が足りないんですけど。俺、長剣使いたくて」
武器が足りない事を、授業の補助で入っているバグラーダ先生に伝えるが。
「ああ。それはですね……」
「ん~? タキナ君。戦場は待っちゃくれませんよぉ? 武器が無いからと文句を言いながら、君は無手にて戦場で死ぬタイプですかぁ?」
バツが悪そうなバグラーダ先生に変わり、アオイ先生がニタニタしながら答える。
「う……。分かりました」
──別に武器が足りないのは、教員側の準備不足ではなく意図的な物ってことか。
授業では、積極性や我先に動ける状況判断力も見ているって訳だな。
次からは気を付けよう。
「寮の先輩の言ってた通りだったね」
「さっさと動いて正解だった」
「プッ。あの田舎者男子、出遅れてるし」
どうやら、他のクラスメイト達は事前に先輩からアドバイスでも貰っていたのか、真っ先に動いていたらしい。
先輩……。せっかく宴会してて、いくらでも話すチャンスがあったんだから、飲んだくれてるだけじゃなくて、ちゃんと後輩にそういう有用なアドバイスもしておいてください……。
そんな風に寮の先輩への苦情を内心思いつつ、俺は唯一残っていた短剣タイプの木剣を取って列に戻った。
──まぁ、ナイフには嫌な思い出があるんだがな……。昨日、取れたてホヤホヤの。
「さて。まぁ初回の授業ですし、まずは皆の力量が見たいですね。2人1組になって組み手をするですぅ」
──おっ、これも早い者勝ちか。今度は、同じ轍は踏むまい。
という訳で声かけだ。
考えたら、昨日は決闘騒ぎやらがあって、碌に自己紹介する機会すら無かった。
授業をきっかけにクラスメイトと仲良く。
「やぁ、こんにちは。俺、タキナって言うんだけど、良ければ一緒にペアを」
「……はっ。どっか行け電池風情が、調子に乗るな」
「あの……。一緒にペアを……」
「…………」(無言で無視される)
「ペア……」
「ウッぐすっ!……屈辱。私くらいのレベルなら庶民の自分でも、ワンチャン行けると思われてたんだ……」
「大丈夫、ユッコ? そんな事無いよ。おい庶民、謝んなよ」
「え……。声かけてゴメンなさい」
──何だこれ、田舎に帰りてぇ!
めちゃくちゃ敵意向けられてるじゃん俺。
っていうか、いくら何でも嫌われ過ぎじゃね⁉
まだ入学して2日目で、こんな嫌われてる事ってある⁉
心当たりが……まぁ、無くもないわな……。
「おやおや、まだペアが出来ていない迷える子羊がいるようですね」
はわわ……。これ、マンガで読んだことあるボッチって奴だ。
マンガ読んでた時は、そもそも周りに爺ちゃん婆ちゃんしかいないし、同年代で集まる機会さえあれば、きっと自分は友達くらい出来るっていう、根拠のない自信だけはあったのに、結果はこのざまである……。
地元の村で『タキナは気立てのエエ子やで、きっと友達たくさんできるでな』って言ってた爺ちゃん婆ちゃんゴメンなさい……。
ボクは都会でボッチです……。
「仕方ないですね。ほら、余り者同士、そこの2人でくっつくですよ」
そう言って、もう一人の生徒がアオイ先生に促される。
ゴメンナサイ……。俺みたいな嫌われ者がペアでゴメンナサ……。
「って、な~んだシルフィーか。良かった~」
ホッと胸をなでおろす俺。
友達のシルフィーだったら、ボッチで組んでもらった負い目とかを感じなくて済む。
「……別に。次席の私に恐れをなして、皆私に声を掛けてこなかっただけよ」
「そう言いながら、内心不安だったんだろ? ん?」
よく周囲を見回すと、決闘宣言していた時に援護射撃していた取り巻きの生徒2人は、コソコソと2人でペアを作っている。
なので、シルフィーがあぶれているのは明白である。
「そ、そんな事無い!」
「いやいや、俺はめちゃくちゃ不安だったから。でも、シルフィーが居てくれてよかった」
取り敢えず、暫定の首席の俺が、次席の成績をおさめているシルフィーと組むのは実に自然だ。
よしよし。
これで、今後は授業でペアになれとなっても、今後あぶれる心配はないな。
「っていうか呼び方……。ドサクサ紛れにシルフィーって呼び捨てなんて……」
俺の呼び方に怒ってか、シルフィーが顔を赤くしてソッポを向く。
「あれ、ダメだったか? 友達になったんだから、ファーストネーム呼び捨てが普通だろ?」
「それは……。はぁ……もういいわよ。どうせ、決闘での賭けのせいで、私はアンタに逆らえないんだし……」
「ん? 何だって?」
「何でもない! ほら、始まるわよ、構える!」
いつの間にか、周りのクラスメイト達がペア同士で各々得物を持って対峙しているのを見て、俺は慌てて、心もとないダガーを構えるのであった。




