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第1話 上京1日目だけど、もう田舎に帰りたいよ……

「はえ~~。都会は人がいっぱいおるな~」


 機車(きしゃ)の終点に荷物と共に降り立った俺は、駅前で感嘆の声を漏らしてしまう。

 風呂敷包み一つ、身一つの男一匹、タキナ・ヨーロー・メルクス。


 地元の爺ちゃん婆ちゃん達からはタキナと呼ばれていた。


「ここから俺の都会での青春学園生活が始まるのか」


 田舎で老人しかいない集落で生まれ育ってきた俺。

 地元には高等教育を受ける学校が無いからという事で、俺は自ら都会の学校に進学したいと申し出た。


『タキナが不良になった……』

『可愛くて無垢なタキナが都会に染まるなんてイヤじゃ!』

『と、都会は恐ろしい所やで……。ずっと、この村にいんしゃい……』


 なんて、地元の婆ちゃん達は半泣きどころか号泣状態で俺にすがって来て困った。


 ──いや、可愛いタキナって、俺はもう16歳なんですけど……。


 まったく。

 地元の婆ちゃん達は心配症でいけない。


 結局、村長のソブエ爺ちゃんが、泣く婆ちゃん達を何とか説得してくれたから、何とか俺は都会に出てくることが出来た。


 ちなみに爺ちゃん婆ちゃん達は、別に俺と血がつながった祖父や祖母という訳ではない。


 物心がつく前から俺には両親を含めて身寄りが居ない。

 でも、そんな事は関係なく、地元の爺ちゃん婆ちゃんが事あるごとに世話を焼いてくれて、ひっきりなしに我が家を出入りするものだから、ちっとも寂しくなんて無かった。


 まぁ、そもそも村には俺以外に子供はおらず、それ以外は老人しかいない村だったから、お父さん、お母さんが居るというのが通常の家庭像であるという事は、小説などの書物を読むようになる年齢になってから知ったので、自分が不幸だなんて思ってはいなかった。


「で、駅前から見えるあのデッケェ建物が、俺が通うウィギンス学園か」


 分かりやすくて助かります。

 正直、生まれて初めての都会にビビってるので、地図を見て目的地まで辿り着くとか無理すぎる。


「はえ~~。何か彫刻やら噴水やらスゲェな。こりゃ」


 早速、学園の敷地内に入ると、中の建物や意匠はどれも歴史を感じさせられる物ばかりだ。


 ただ古いだけの田舎とはエライ違いだ。


「さ~て。入学式の前に、まずはクラス分けを見ないとなんだよな」


 新入学の生徒向けに送られて来た資料には、まずはクラス分けが発表される掲示板を確認して、当該のクラスごとに集まれと書いてあったので、掲示板の方へ赴く。


 ──いや~。クラス決めって、何だか小説で読んだ学園物って感じだな。


 地元は田舎過ぎて、クラスが一クラスどころか、学校すら無かったからな。


 講師は無論、地元の婆ちゃんや爺ちゃんたちで、一対一のマンツーマンである。


 だから、学校という物に通えるという事に胸を躍らせている訳だが。


「ああぁぁぁぁぁ……C組……」

「私なんてD組……。母上になんて報告したら……」

「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した」


 ──おおう……。何やら地面に膝をついた生徒が幾人も掲示板の辺りに散らばっている。


「ど、どうしたの? 体調でも悪い?」


 田舎だろうと都会だろうと、人と人。

 困った時はお互い様の助け合いの精神。


『学友が困っていたら手を差し伸べなさい。さすれば、お前はきっと都会の学校でもやっていける』


 村長のソブエ爺さんの言葉だ。


「ああ……ごめんなさい……。ちょっとクラス分けの結果を見て精神的ショックが……って、え? 男……の子?」


 ヨロヨロと立ち上がった女子生徒が礼を言いながら、差し出された俺の手を握ろうとしたところで固まる。


「ん? そうだけど」


 あ、ひょっとして都会では女の子の手を握ろうとするのはダメだったか?

 なにぶん田舎で、女の人と言ったら9割が婆ちゃんだったから、都会の文化的にはアウトだったか?


「下賤な男が。私に触れるな!」


 ──ええ⁉


 まるで乱暴でもされたかのように、怒りの顔を見せる女子生徒。


「なんで、この学園に男子が?」

「でもウィギンス学園の制服着てる。あれ、一般には公開されてない男子用制服だよね?」

「ああ。学園が世間体のためにポーズで作った男子用制服ね。でも、本当に入学する男子が居るとは……」

「この電池が」


 まるで、汚い物を見るように唾を吐きかけて舌打ちが。


 ──ええ……ナニコレ。都会こわ~~。


 あと、電池って悪口になるのか?


「ネクタイは赤色か。おまけに庶民枠」

「どこから来た馬の骨なのやら……」

「格が落ちるというのに学園側は何を考えているの……」

「所詮は電池の分際で」


 こちらの騒ぎを聞きつけた周囲も、蔑みの目をこちらに向けてくる。


 ──だから、電池って何だよ……⁉ 語り口と表情から察するにこちらの悪口を言っているっぽいのは分かるけど。


 何か居心地悪いから、さっさと教室に行っちゃお……。


 そう思った俺は、掲示板で自分の名前を探す。

 幸いにも、自分の名前は直ぐに見つかった。


「A組の1番ね。よし」


 指さし確認した後、俺はそそくさと掲示板の前を後にして、校内の案内表示に従って1年A組の教室へ向かった。


 掲示板の方から何事かざわめきが起きた気がしたが、もうすっかり都会怖いモードに入っていたので、そそくさとその場を後にするのであった。




 ◇◇◇◆◇◇◇




「ここが1年A組か。なんか教室もやけに豪華だな」


 一応、絵本の類などで、学校や教室という物が何たるかというのは知っているのだが、このウィギンス学園のそれは、どこも厳かと言うか大袈裟と言うか、一々こちらが緊張してしまう。


 マズいな……。ここ金持ち学校じゃん。

 上京できる事にただ浮かれて、何も考えずに来ちまったぞ。田舎者の俺は完全に場違いじゃん。


 ソブエ村長に伝手があるとかで、都会の真っただ中にあるということで、二つ返事でこの学校に決めたのはマズかったか……。


 そう思いつつ、俺は1年A組の教室のドアを開ける。


「え~と。席はっと……。ああ、掲示板に記載されてた番号順ね」


 教室正面の黒板に貼られた紙を見て、俺は1番の席に着席した。

 窓際の一番前の席だ。


 そして、学園の門をくぐった時から気になっていたのだが、教室内に入った所で確信した。


 ──この学校、女の子しかいないのか⁉


 さっきのクラス分けの掲示板のあった広場でも、教室へ向かう際の校舎内も、そしてこの教室内も女子、女子、女子、女子!


 女の子しかいない!


 え? なに?

 都会って、女の子しか生まれない、極端な男女比の世界なの?


 いや、待て……。


 はるばる田舎から乗り継いできた機車(きしゃ)で降り立った駅前には、普通に男性も歩いていたし、特段、女性が多いという印象は受けなかった。


 という事は、このウィギンス学園だけが男女比がおかしな事になっているという事か⁉


 これじゃあ、まるで小説で読んだ女子校に男子生徒が紛れ込む青春ラブコメではないか。


 なんて事を考えていたら、隣から視線を感じた。


 いや、視線自体は色んな方向から感じるんだけど、一際視線に圧があったので、俺は隣の席へ顔を向けた。


 ジ~~ッと、こちらが顔を向けて視線を合わせても構わずこちらを凝視してくる少女。


 金髪ロングの髪。

 切れ長の目に、輝く翡翠色の目。


 豊かな髪を後ろでまとめるリボンとネクタイの緑色が、翡翠色の目とコラボして、不思議な統一感があった。


「ええと……。はじめまして、こんにちは。タキナ・ヨーロー・メルクスと言います」


 とりあえず近所の人には挨拶するべしと婆ちゃん達に叩き込まれてきた俺なので、瞬時に挨拶を返す。

 まぁ、隣近所と言っても、一軒一軒の敷地がバカ広くて隣の家なんて見えないんだけど。


 ──さっきの様子だと、また罵倒が飛んでくるのかな……。


「私はシルフィー・イッシキ・アンティクル」


 と思ったら、普通に自己紹介してくれた。


 ──お~! 何か、学園に入って出鼻は挫かれてたけど、何か友達出来そう!


「よろしくシルフィーさん。クラスメイトとして仲良くし……」

「その様子だと、どうやら随分な田舎者みたいね。庶民とは言え、私の名前を聞いてもピンと来たりする事すらないなんて」


 そう言うと、シルフィーさんを纏うオーラに圧が加わった。

 その重苦しさに他のクラスメイト達は息を呑んで机を向いてうつむく。


「えっと……シルフィーさん?」

「いくら田舎者とは言え、首席様に知られていないようじゃ、公爵家たるアンティクル家もまだまだなのね」


 大袈裟に溜息をつくシルフィーさん。


「って、え、首席? 誰が?」

「A組は学年のトップクラス。席次がそのまま序列を表すのよ。ちなみに私が次席。次席って2位って意味よ。お分かり?」


 ニッコリ笑うシルフィーさん。

 だが、その目は全く笑っていなかった。


 それにしても首席入学? 俺が⁉

 言葉の意味は、知識としては知っている。


 首席入学って言うのは、入試テストで1位の成績を獲る事だ。

 だが……。


「首席入学って……。何かの間違いじゃないか? そもそも俺、入学試験を受けてないし……」


 そう。

 この学校の入学に際して、俺は特にテストらしきものを受けていない。


 村長のソブエ爺ちゃんから、『ワシの伝手がある学校に口をきいといたからのぉ』と言われて、書類が送られて来て、のほほんと上京しただけなのだ。


「入試を受けていない……?」


 ──あ、やべぇ。これって内緒にしとかないとマズい情報だったか?


 だが、もう後の祭りだった。


 明らかに怒ってはいたが、今までのシルフィーさんにはまだ努めて冷静でいようとする姿勢が垣間見れた。


 だが、俺の入試をそもそも受けてすらいないという事実を前に、彼女の怒りが天元突破したのが、彼女の纏うオーラの揺らめきから感じられた。



「公爵家アンティクル家の名で宣言する。1年A組シルフィー・イッシキ・アンティクルは同クラスのタキナ・ヨーロー・メルクスに決闘を申し込む!」



 こうして俺の、ドキドキ青春学園生活は始まる前から波乱の展開となった。


 ──爺ちゃん、婆ちゃん……。上京1日目だけど、もう田舎に帰りたいよ……。


新作の異能学園ファンタジーラブコメです。

ご査収ください。


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