2話:スライムとテラ級
ギルド暴食の館を出発し1時間弱。
特に魔物に遭遇することも無く、穏やかな道中だった。
「勇者の旦那つきやしたぜ」
「ありがとうオヤジ、道中を見るに比較的安全……だとは思うが言ったとおり、強力な魔物が目撃されている。
帰りは気をつけてな」
「お気遣いありがとうございやす、まぁ冒険者の方もチラホラ見かけましたし、安全でしょう」
そう言い残し、馬車引きのオヤジは引き返して行った。
道中、冒険者を見かけたのは、あずきちゃんが手配してくれたからだろう。
にしても早いな、ヴァレットが暴食の館に戻ってきてからも、大して時間が経ってないと思うが……
まぁいい、ここまで来たら、さっさと片づけよう。
まずは北東村の村長に話しを聞くことにしよう。
村の中に入ると、待ち構えていたかのような村民に捕まり、村長の家に案内された。
元勇者という肩書きは、こういう時に話しが早くて助かる。
「これはこれは、あの魔王を打ち倒したという勇者様が、こんなへんぴな村のクエストを受けてくださるとは」
深々と頭を下げる村長、年齢は50代半ばといったところだろうか。
丁寧な言葉遣いだが、いかつい体格、恐らく元冒険者か衛兵だろう。
平和になった世界で、そういう職業の稼ぎは、正直落ちている。
だからって別に「魔王を倒さない方が良かった」なんて口に出す奴はいない。
腹の中では何を考えているか分からないが、まぁ俺やパーティの仲間に、直接文句を言えるような奴はいないだろう。
「で、今回の依頼の内容なんですが……」
「書いている通り、スライムの討伐です。
ここは小さな村ですが、ご存じの通り、王都へのアクセスもしやすくて、通る人や馬車は多いんです。
しかし最近スライムが増えたのか、荷物に液体を増える被害が多発。
売り物にならなくなったりで、遠回りされてしまい、お陰でこの有様です」
この有様と言っても、被害を受ける前を知らないのだが、まぁ人通りが多いと紹介できる状態ではない。
少なくとも、村の外から来たのはオレだけだろう。
強力な魔物が出たというので、あずきちゃんには規制を頼んだが、その対策が必要はなかったかもしれない。
スライムは、ひ弱な魔物の代表みたいな存在だが、一般人は自分で倒そうとしないしな。
「腰さえ痛めてなけりゃ、スライムごとき、オレが討伐したんですがね。
まさか、勇者さまが、来て下さるとは」
「よして下さい、勇者は、その世界の脅威に対抗する為の力の総称と言い伝えられています。
魔王がいない今、勇者も何もない、俺はただの冒険者ですよ」
村長が、元冒険者という俺の見立ては当たっていたらしい。
それはそうと、魔王討伐のために冒険していた時より、魔王を倒した今の方が、低調な扱いを受けている気がする。
「しっかし、魔王がいなくなって平和になったのは素晴らしいんですが、魔物がいなくなる訳じゃあない。
我々人間は、ずっと魔物と闘っていかねばならない。
それなのに今の若い冒険者は、スライムも倒せないとは」
村長は年上であり、元とは言え、冒険者として先輩に当たる。
なので敬意は払わねばと思っていたが、この言葉にはカチンと来てしまった。
「何も知らないクセに、偉そうな事を言うな!!」
「ゆっ勇者様!?」
急に大きな声を出したので、村長は萎縮してしまった様子。
だが俺は、構わず話しを進めた。
「ヴァレットという冒険者が、ここの依頼を受け、スライムに重傷を負わされた。
彼は、聖剣のない俺よりも強い!! 敗因はスライムがテラ級の魔法を使ったこと。
あんたも冒険者だったなら、これがどれほどの事態か分かるだろ!?」
深刻さが伝わったのか、はたまた勇者の俺がキレた事にビビっているのか。
いずれにせよ村長は、ガタイに似合わぬ怯えぶりを見せた。
「あっあちらの方向に見える森は、魔法石の原石が豊富です。
“突然変異”とはいえスライムの本能で言えば、好んで寄るかと」
「その情報には感謝する」
立地が良い上に、魔法石の原石まで取れるにしては、活気のない村だ。
村に衛兵やギルドがないのであれば、他の村から狙われないよう隠しているのか。
なんて気を紛らわす様に考え事をし森に向かう。
果たして聖剣が使えるかも分からない状態で、討伐可能だろうか?
勇者パーティーの誰かがいてくれれば良かったが、あれからまだ3年。
俺と同じく気ままに暮らしているだろうし、現状で変な心配をかけたくない。
なんて、さらなる考え事をしている間に、森の深くまで来てしまった……
特に変わった様子はなさそうだ。
魔法石の原石が取れる割には、魔物が少ない気はするが、ほとんど来ることのない場所なので、平常時がどれくらいか分からない。
「そういや、普通のスライムすら見ないな。
まぁ見た目でテラ級を使う個体か判断できるのか不明だが……」
少しばかり暇な時間が続いたので、考え事が口に出てしまった。
魔物は、何処から襲ってくるか分からんし、気を引き締めなければ。
『ガサゴソ』
そうそう、こんな風にいつどこから魔物が攻めてくるか分からな……
「うぉぉぉぉい!!」
誰もいないのが幸いだが、情けない声を上げてしまった。
そして誰が見ている訳でもないのに、誤魔化すように聖剣を抜き振る舞おうとしたが、聖剣は抜けない。
「こいつが抜ければ安心だったが……」
魔王との戦いで力を使い果たしたのか、今が抜くときでは無いのか。
いずれにせよ、聖剣の力は当てに出来ないか。
目の前の敵は、やはりスライム。
とにかく目の前の相手に集中しよう。
俺は腰に下げた、もう一本の剣を抜く。
魔王や幹部相手では、使う機会が無かったが、これも旅の途中で手に入れた立派な業物だ。
こいつがテラ級の魔法を使う固体かは分からないが……
【テラ・フレイム】
それは、俺の疑問に答えるように、あるいは自己紹介かのように放たれた。
ヴァレットの話を疑っていた訳ではないが、本当にこんな奴がいるとは……
確かに強力な魔法だが、予め警戒できれば回避できない魔法ではない。
大きく横に飛び、巨大な火炎球を回避した。
そのまま振り向くと、火炎球の通った後は消し炭になっていた。
事前情報が無ければ、俺もああなっていただろう。
「俺の持っている情報は、お前がテラ級を使うという事のみ……
こいつには対応できるかな?」
なんてスライムが言葉を理解しているとは思わないが、意思疎通できる魔王やら幹部やらと闘っていたせいで、ついつい口が動いてしまう。
【火炎神剣】
炎を纏った剣を、スライムめがけて振りかざす。
スライムは言わずもがな、大抵の魔物はこれで討伐完了だが……
【テラ・バリアー】
「なにっ?」
スライムを纏うピンク色の決壊が俺の剣を防ぐ。
それと同時に、もの凄く嫌な予感がした。
【テラ・サンダー】
その予感は的中した。
空中にいる俺は、回避する事ができず抜けない聖剣盾代わりにして防ぐのが精一杯だった。
直撃とまでは行かない者の、勢いよく吹き飛ばされてしまう。
それでも何とか起き上がり体勢を立て直したが、スライムは休む暇を与えてくれない。
【テラ・ウォーター】
マジか……3属性の4種類目だと?
しかも炎と水なんて真逆の属性じゃないか……
そんな事、本当は考える間もない勢いで、津波の如く水が迫る。
火炎球や雷に比べると、防ぐ手段が限られる魔法。
というか……これは無理だ……
諦めかけたその時、腰の聖剣が光り輝く。
「おせぇよ!!」
一言だけ文句を言ってやり、そのまま聖剣を振りかざす。
【聖龍ノ太刀】
間一髪の所で放った、聖なる龍は、全てを無に返す。
その後には、黒く禍々しい魔法石が残されていた。
恐らくコレが、スライムがテラ級の魔法を使った元凶だろう。
とにかく回収しようと手を伸ばすと。何処からかムチが伸びてきて、黒の魔法石を奪われてしまった。
その方向を目で追うと、シルクハットを被り、目元をアイパッチで隠している、少女の姿があった。
「君は誰だ!? それをよこせ!!」
「これは魔王の遺産、私の目的のために、渡すわけにはいかないのですよ。
それでは、またお会いしましょう、勇者様!!」
彼女は、そう言い残すと、煙玉を放り投げてきた。
「ゲホッ……ゲホッ……」
古典的な手だが、やられた。
目を開けた時には、彼女は姿を消し、黒の魔法石も奪われてしまった。
「ちくしょう……」
悔しいが、確実に何か大事が巻き起こる。
世界を危機から救う聖剣が抜けたのは、何よりの証拠だ。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練っているので少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると幸いです。
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