30.国境の砦にて
カグヤの要望もあり、私たちは一度、国境の砦に向かうこととなった。
単純にカグヤの要望に従ったというよりも、人員も巨鎧兵騎も魔力切れ寸前の状態で騙し騙し動いているのを思うと、ちゃんと補給してから帰るべきだ――と総長たちが判断したのだ。
その為、王都に帰るよりも、それより近い国境の砦に寄り道していこうということになったのだった。
物資はなくとも、魔力の補充だけならば、砦にちゃんとした施設があるわけだしね。
これに関してはグロセベアもして欲しいところなので、私とカグヤから異を言う理由はなかった。
砦に着くと、そこに勤める騎士たちからは驚かれた。
何しろこちらはボロボロだ。
総長と殿下が説明をしたものの、八機の未確認巨鎧兵騎と戦った結果である――といっても、砦に詰めている人たちは、にわかには信じられないような顔をしていたくらいだ。
確かに、これだけの人数がいてたった八機に全滅しかかるというのは、イメージしづらいとは思う。
ともあれ、総長と殿下の二人からそんな報告されたら砦の騎士たちだってそれをどうこう言えはしない。
こうして私たちは、怪我と疲労の最低限の回復と、各種機体の最低限の補給と応急処置を済ますため、この砦でひとまず休むことになったのでした。
――といっても、ぼーっと休むということもなく。
カグヤとグロセベアが置いてあった遺跡に出向いて、十二単装甲の回収なども行った。
便宜上、『国境の遺跡』と呼称されることとなったそこへは、意外と侵入が難しくて、大苦戦。
私たちが脱出した巨鎧兵騎の出撃口は、どの角度から見ても死角になる位置にあったのもあって、なかなか見つけ出せなかった。
侵入したら侵入したで、十二単装甲はかなりの重量で持ち出し手段に悩むことに。
一応、結構細かくバラせる仕様だったので、細かくして一つ一つ持ち出すことに成功したのだった。
まぁ持ち出すにも、装甲を抱えてジャンプするのは大変だったので、崖の上から魔力強化されたロープを垂らしてもらって、それで装甲を結んで引き上げてもらったり――みたいな感じで、なんだか皆さんにご迷惑をかけてしまった気がする……。
ただ無事に全部回収できたので、カグヤはだいぶ喜んでいたから、まぁいいか。
ついでに、グロセベアに関する資料とかないかと思って探したけど、めぼしいものはなかった。
古い機体なのでメンテナンスや修理は大変そうだけど、その辺りはカグヤと相談しながらやるしかないみたいね。
そして、砦の鍛錬場にて――
「付き合わせてすまないな、イェーナ」
「いえ。私も身体を動かさないと、鈍ってしまいますから」
私は、剣を握って殿下と向き合っていた。
殿下が振るう木剣を、私は自分の木剣で受け止め、流し、カウンターを見舞う。
「イェーナ。オレが王子であるからと、手を抜いているようなら改めてくれ。
オレはヨーシュミール殿下とは違うのでな。手も足もでなかったとて、癇癪など起こさない」
「……そうでした。失礼しました」
そうだったそうだった。
ヨーシュミール殿下と一緒にしたら、ニーギエス殿下に失礼がすぎる。
「では――」
「ああッ!」
私が構え直すと、ニーギエス殿下はとても嬉しそうに構えた。
なんとなく、バトルジャンキーという言葉が脳裏に過る。
好んで戦うことも、強い相手と戦いたいという感覚も、よく分からないけれど――
でも、ニーギエス殿下には失望されたくないな……と、思って私は真面目に手合わせをすることにする。
「参ります!」
そして――
「……くッ、一矢報いるコトも叶わなかった……ッ!」
両手と両膝を突きながら落ち込んでいると思われる殿下。
見学していた騎士や兵士たちの間にも、「殿下がここまで一方的に」「殿下や総長よりも強いのか」「さすがにやりすぎでは……」などと、ザワついている。
少しやりすぎただろうか。
やはり、もっと手加減した方が……。
そう思った時、ニーギエス殿下はそれはもう喜色満面に起き上がった。
それを見ていた周囲も「さすがは殿下」「この程度でヘコたれるワケないですよね」「強さに貪欲なのはいつものコト」と盛り上がっている。
え? ニーギエス殿下のこのノリっていつも通りなんですか……?」
「やはりイェーナは強いな! どうしたらそんな強くなれる?」
「え? え? 落ち込まれていたのでは?」
「一瞬はな。だが、それ以上にキミの強さに感動している!」
うーん、殿下の感動ポイントが分からない。
でも、どうやって強くなったのかという問いには答えられる。
「私がどうやって強くなったか、ですが」
「うんうん」
殿下だけでなく、周囲のギャラリーも興味ありげな顔をしているけれど……。
正直、別に大したことは何もしていない。
「やはり実戦です。実戦に勝る鍛錬はないかと」
「なるほど」
「私の場合、鍛錬するより実戦している時間の方が長かったもので」
「う、うむ」
「狼型の魔獣、ディモンヴォルフの群れとか実戦経験としてオススメですよ」
「……ディモンヴォルフ……」
あら? ハイセニアにはディモンヴォルフはいないのかな?
「常に二十~三十の群れで行動する魔獣でして、かなり狡猾に囲い込んで襲ってきます。
群れ単位で動く魔獣であり、ナワバリ意識も強いのでディモンヴォルフ同士でも争うコトが多いのですけど、同時に強烈な同種意識みたいなのがあるようでして。
一つの群れを半壊させた辺りで、別の群れが助けにくるんですよね。そのまま加勢されるので、気がつくと四十~五十くらいのディモンヴォルフに囲まれてるとかよくありました」
「お、おう……」
「いつだったか早い段階で五つくらいの群れが合流していた時は危なかったですね。
向こうが諦めるまで、ほぼ一日中、休憩無し援助なしのソロで戦い続ける経験は、なかなか得がたいものです」
「ふつうはまず経験しないモノだからな?」
「そうなのですか? おかげでシュームライン国内のディモンヴォルフたちは、私に手を出さなくなったのですよね。
それ以上に仲間とか好敵手とか、そういう風に思ってくれたのかもしれません。時々森の実りとか、自分たちが仕留めた獲物とか分けてくれるようになりました。だいぶ助かったのは事実です」
「敬意を払うべき戦神とでも思われてるのではないかな?」
殿下が顔を覆ってしまった。
周囲を見回すと、見学していた人たちすら何とも言えない顔になっていた。
……うーん?
《イーちゃんの強さってさ、再現性のない鍛錬の果てに得たものなんだねぇ……》
カグヤまで何か言ってくるんだけど、そんなに変な話をしたのだろうか?
補給と、機体の最低限の応急処置を終えた私たちは、砦をあとにして王都への帰路につく。
《魔力は補給されたけど、さすがにこれ以上は無茶できないなー》
「無茶というのはどのくらいの範囲?」
《でっかいニャンコくらいは大丈夫だけど、ピシーズとか妹ちゃんとか、そのレベルの相手が来たらアウトだね。
あと、ムーンフラッシャーも今は無理。最低限の魔力補給しかしてないってのもあるけどさ、一番はクレセント程度であっても、収束魔力砲の発射時負担にグロセベアちゃんが耐えられないかもってくらいガタついてるコトかな》
「そう……」
当然、オーバードライブは使えない。
ムーンフラッシャーも使えないのは厳しいかな。
カグヤの言う通り、巨魔獣くらいならどうにかなるだろうけど……。
《まぁマスターと契約してから、だいぶ無茶したしね。
正直、もっとゆっくりとお互いを理解し合いたかったところだぜい?》
そこには同意する。
だけど、単にお互いを理解し合っていくだけなら――
「そうね。でも、それは今からでも出来るでしょう?」
私がそう告げると、驚いたような笑ったような声を上げる。
《そりゃそうだ! これからもよろしく頼むぜい、マイマスター!》
「ええ、これからもよろしくねカグヤ」
うん。
色々と直面している問題は多いけれど――
だけど、それでも。
カグヤと一緒なら、色々と乗り越えていける気がするな。
これにて第一章が終了となります。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
ストックにも追いつき、息切れもしてしまいましたので、毎日更新はここで終了とさせて頂きます
ストックがないので、ある程度の書き溜めをしたのちに
マイペースな更新速度で再開したいと思いますので
今後ともよしなにお願いします٩( 'ω' )و
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