28日目からの最終日
5月分 最終回
表示されたみんなのステータスに目を疑った。
レベルを上げ過ぎるとみんなを妊娠させてしまう、それを回避するために限界ギリギリまで経験値の供給を絞ったはずだ。
なんかパワーワードが出てきたがそれは置いておいて。
「どうしてこんなにレベルが上がっているんだ?」
おれの目は仲間のみんなを彷徨い、吸い寄せられるように大精霊を名乗る鳥に落ち着いた。
「予想は付いているだろう、設定された経験値の割り振りを見るといい」
すべてを見透かしているような鳥の言葉におれはステータスを開く。
予想通りと言われたようにそこには20%の数字が並び、合計が100%になっている経験値割り振り画面だった。
「どうしてだ? みんなには0%、おれには1%に設定したはずだ」
うろたえるおれ、経験値を絞ることが出来なければ経験値は倍々に増えていって体が破裂してしまう。
「設定は想念でも変えられる。夢の中で容量に限界を感じて割り振りの設定をしたのだろう]
ステータス画面の操作は指で行っている、そうしなければ操作できないと思い込んでいたが、よく考えるとステータスそのものの呼び出しは指を使っていない。
「意識しただけで動かせるってことか?」
「その通りだ」
「容量ってなんだ? 経験値の設定は流入量を減らせるわけじゃなかったのか」
「一度起きた流れは簡単には変えられないよ、きみにできる設定は出口側だけ、容量にしてもホースの中にある水と言えばわかりやすいかな」
鳥自身が自分の声と喋り方にギャップを感じたのか子供風にしゃべり方を変えてきた。 それにしてもホースだって? 容量と言えるだけの器もないじゃないか。
「器となるのはきみ自身だ」
容量に文句を言われても困ると言いたげに鳥が補足する。
おれはブーメランとなって帰ってきた言葉を受け止める。
こ、個人対世界でやり取りしているようなものだから、おれの器の問題じゃあ・・ねえし。
「今から数日はきみの体の負担が大きいだろうその間寝ていてもらいたいがかまわないな?」
甲高い声に隠しきれない威厳をのせて鳥がおれを無理やり寝かしつけようとする。
仲間たちは止める様子もない。
元から神のシトラスが上位の存在として扱っているためか鳥の威厳をおれ以上に感じているのだろう。
「負担が大きい? どういうことだ? 寝てれば治るってこと?」
体調不良なわけではないが寝ている間に経験値の割り振りを勝手にいじってしまうのは自分をコントロールできていないともいえる。
「良くはなっているだろう。
わたしに任せれば万事問題ない」
大精霊を名乗る鳥はシトラスたちからも信頼されているようだし、シトラスから出てきた存在が邪悪だったりすることも考えづらい。
おれが寝ててもシトラスたちが見張ってくれるだろうし、寝る位ならいいかな?
「わかった、数日でいいなら。
シトラス、後のことは頼む」
鳥に答えて、その鳥の監視をシトラスたちに頼む。
「よし、始めるぞ」
鳥が告げると、起きたばかりというのに強烈な眠気に襲われる。
それからははっきりとした夢を見ることもなく、手のひらを閉じたり開いたりする感覚を夢うつつの中に感じるだけだった。
なぜあったばかりの鳥をあんなにも信用してしまうのだろうと思いながら。
目を覚ますとスッキリした頭でなぜ鳥を信用したのか、抵抗したらどうなっていたか、今の経験値がどうなっているかなどぐるぐると考え事を始めてしまう。
信用したのは信用できると感じたからだ、その感覚さえ操られていたのならそもそも抵抗できる相手ではないのだから結果は同じ事だろう。
同様に抵抗もできない。眠気を起こした現象は魔法と呼ぶにはあまりにも強度が強かった。もし分類するなら奇跡とかそういうものになるだろう。
経験値についてはおれはもう制御できない。ステータスウインドウで設定した振り分けすら思い通りにならないんだ、仲間たちか自分自身を破裂させるのも時間の問題だった。「おはよう」
眠りについた時と同じように仲間たちに囲まれ目の前には鳥がいる。
「予定通りだな」
「おはようございます」
鳥の言葉に重なるようにシトラスたちから挨拶を返される。
「どうなった?」
寝てる間に何をされるのかの説明もないままだ。
「順調だ」
鳥が首をかしげて説明を始める。
とりあえずは鳥から話を聞いてシトラスたちに補足してもらうのがいいだろう。
「端的に言うと経験値と呼ばれている力、霊力を集めて必要なところにばらまいてきたと言ったところだな」
鳥の説明にシトラスの顔を見ると頷いて信用性を補足してくれる。
「そのおかげで破裂しなくて済んだわけか、これからもばらまき続けることになるのかな?」
「ばらまく必要はなくなったが、そうしたいなら好きなだけしてもらって構わない」
どういうことだ?
「経験値をため込んでいたタンクは十分に経験値を引き出したおかげで破裂寸前から安定した状態になった。
おまえのおかげだ」
経験値をため込んでいたタンクが破裂寸前だった? そのタンクはおれの事ではなく世界中の経験値をため込んでいた元凶のようなものだろう。
大昔の神々が税金のように経験値を徴収して自分たちで使うつもりだったのを本人たちの器が不足していてほとんどがため込まれる一方だったとのことだ。
「よくわからないけど解決したならよかったよ。
おれも破裂なんかしたくないし」
どうなったかは自分のステータスを見るのが手っ取り早い。
おそるおそる開いたステータスは逆に驚くぐらい変化がなく、2千越えしていたレベルは安定圏内の2千弱に抑えられている。
「レベルが抑えられている。てっきり何万レベルにもなっているのかと思っていたよ」
ホッとしたおれの言葉に鳥が返す。
「よく見るといい。名前の所だ」
何のことだとステータスに目を戻す。
名前の欄には末尾に神のステータスだと判別する+マークが・・・2つ?
「+マークが2つ、付いてるけど?」
それだけ? いや、それだけじゃないが。
「だいたい想像は付くだろう。神にとっての神になったということだ」
おれの知らない間に?
夢の中で契約らしきものを結んだ覚えはおぼろげにあるが夢の中だよ?
契約として成立するものなの?
「はあ?」
ぼやけた返事を返す。
神にとっての神にならないと経験値の奔流を制御できないということであれば必要なことだったのだろう。
そのために体を改造し、体の負担を和らげるため睡眠状態にされていたと。
「助けてもらったことはわかる、感謝するよ」
大精霊というのは思っていた以上にすごい存在なのかもな。
神にとっての神を作れるのならそれ以上の立場ってことになる、すべての自然現象をつかさどるとかそんな存在なのか。
「これからはゆっくりできますね」
シトラスが言う、強さを追い求めたり経験値に振り回されることももうない。
「え? これエンディング?」
ラスボスと戦った訳でもない。
しかし世界は救ったらしい。
寝てる間にな。
魔法は思い浮かべるだけで大抵のことはできる。
瞬間移動、時間遡行、天変地異等々。
元の世界に戻る必要もないけど、行き来は自由。
自分の分身を帰還させて向こうでの生活を楽しむこともできる。
どうやらおれが寝ている間におれたちの子供が産まれて各王国、種族の王、天界へと派遣されて大精霊として経験値をばらまいているらしい。
ばらまかれた経験値は支配者から貴族層、平民へと降りていき全体の能力を底上げする。
魔法も多用できるようになるので食料に困ることもなくなる。
魔物も知性あるものはむやみに人を襲わなくなり、害獣の様な下等種は淘汰されていくだろうとのこと。
「種族の王って?」
「もちろん魔物も含まれる」
エルフやドワーフだけでなく魔物全体とも協定を結んでしまったようだ。
争いがなくなればゴブリンなんかは無限に増えていきそうだが、最下級のゴブリンは敵陣営にばらまいて戦力をそぐような使い方しかされておらず、争いがなくなれば生産もされなくなるといっているらしい。
そうはいっても多少の争いは起こるだろう。
それでも悲惨な戦いは激減すると思われる。
「世界救っちゃったな」
二度と数値なんか扱わない




