シスコンという業
この回の執筆者は佐堂さんです。
いつも通り家に帰り、夕食を優子と食べていた時、事件は起こった。
「あ、お兄ちゃん。私、今週の日曜日は鸞くんとデートしてくるから、晩御飯は作らなくていいよ」
「……えっ?」
俺は箸を落として、硬直してしまった。
そのまま二秒ほど固まってから、優子が何を言ったのか咀嚼してみる。
たしか、デートがどうとか言っていたような気がする。
いやいや、そんなまさか。
……でも、念のために事実確認は行っておいたほうがいいよな。
「ごめん、優子。お兄ちゃん、ちょっとボーッとしてたせいで優子が何て言ったのか聞き取れなかったんだ」
「え? だから、今週の日曜日は鸞くんとデートしてくるから、私の分の晩御飯は作らなくていいよ、って言ったんだよ」
「――な、に?」
デート?
優子と中二が、デート?
いつの間に、そこまで関係を発展させていたというのか。
この前、その片鱗は見せていたが、まさかデートをするほどの仲になっているとは……。
「そ、そうか。へぇー。ふーん。よ、よかったじゃないか」
俺はなんとか平静を装うために、曖昧な返事を返すことしかできなかった。
「うん! あー、楽しみなんだぜ」
「あっ、その口調、まだ治ってなかったんだね!!」
「そりゃそうだよ。鸞くんに教えてもらったものだもん。あー、でも使い分けるようにはしてるんだけどね」
「……そっか」
そう言って無邪気に笑う優子の顔は、本当に綺麗で。
だから俺は、何も言うことができなかった。
「――っていうことがあったんだよ」
「なるほどなるほど。それで良太さんは、妹さんとその妹さんの彼氏のデートを尾行したいと。そういうわけですね」
「いや誰もそんなこと言ってないけど」
翌日の朝、たまたま廊下で会ったロリぃ員長――如月に昨日の夜のことを話したら、そんな言葉が返ってきた。
まったく、如月の早とちりにも困ったものだ。
これではまるで、俺が妹にべったりのシスコンみたいではないか。
「いや、俺はただ優子の保護者として、その妹が付き合う相手がどの程度なのかを見極めたいと、そう思っているだけでね。尾行はまあ……考えないでもなかったけど」
俺がそう言うと、如月の顔が露骨に引き攣った。
「……尾行はさすがに冗談のつもりだったんですが。それで妹さんを尾行したいとか、どんだけシスコンなんですか。妹想いを通り越して、普通に気持ち悪いです」
如月は俺から少しだけ距離を取り、警戒するようにその身を震わせる。
いや、ちょっと待ってほしい。
「世の中の兄貴として、妹の初デートの心配をするのは当然のことだと、そう思わないか?」
「いや知りませんから。っていうか、それ以上近づかないでください。危険なので」
そう言って、ジト目のまま俺と距離を取り続けるロリぃ員長。
まったく。ひどい奴だ。
しかし、ふむ。
尾行か。
なかなか悪くない考えだ。
「今、明らかに『尾行……なかなかいい考えだ』的なことを考えてましたよね?」
「は? 何を言ってるんだ如月。俺がそんなこと考えるはずないじゃないか」
胡散臭そうな目を向けてくる如月の言葉をバッサリと切り捨て、俺は教室へと向かう。
とりあえず、今回は役に立たなさそうな如月じゃなくて、他の奴に相談してみることにしよう。




