↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵家を守るために棄てた恋人が、妹の恋人になって戻ってきた  作者: 御厨そら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

1 妹の恋人は、かつて愛した男だった

「お兄様、彼が私の恋人オネスト君です」


ブルーノは居間の長椅子で横になって本を読んでいた。

本の話が佳境に迫ったところで、居間の扉が開いて、妹マリカの声が聞こえた。



──オネスト。



その名前にブルーノは反応した。


まさか……


ブルーノはパタリと本を閉じて、上体を起こした。


妹の横にオネスト・マルケッティが立っていた。


貴族学校の二年後輩だ。


立ち上がったブルーノにオネストの視線が突き刺さる。

二人の間に張りつめた空気が流れた。


懐かしさと、この場から逃げ出したいような気持ちが、ブルーノの胸をよぎる。


胸の奥に封じていた過去が、溢れ出そうになった。


ブルーノの視線はオネストの頭から足元まで注がれた。


オネスト……背が少し伸びたな。


「お兄様とオネストは寄宿舎で一緒に過ごしたんだよね」

無邪気にマリカが言った。


「ブルーノ先輩にはよくしてもらいました。卒業後、挨拶できなくて申し訳なかったです」

オネストが会釈をして顔を上げると、薄笑いを浮かべていた。



ブルーノは鳥肌が立った。



オネスト、お前はまだあの時のことを忘れていないのか。

縁がすっかり切れたと思ったが、再び俺の前に現れるとは……

しかも、オネストがマリカの恋人だと? そんな馬鹿な。


 

ブルーノの胸騒ぎが警笛を鳴らしていた。



**********



──三年前。


麗しの美少年オネストは、入学早々に貴族学校の不良グループに目を付けられた。

なにせ、そこらの女より美しい男子だ。学校内で好奇の目で見る者は多かった。



ブルーノもオネストの姿を見かけた。


その時の衝撃は、尋常ではなかった。目が釘付けになった。


男装の女の子じゃないのか?


本物の男なら妖しすぎる美しさだ。魔性の女ならぬ魔性の男か。


もしあいつがドレスを着て女装したら、どれほど美しいだろう。そこらの女が束になっても敵わないだろう。


それを想像したら、笑いが込み上げてきた。

俺は……そいつを目の前で見てみたい。


しかし、あれはまずいぞ。絶対に何かトラブルを起こす予感がする。

でも……俺には関係ないことだ。

あいつがどうなろうが、知ったことじゃない。


ブルーノは目線を切った。



***



「お前が新入生の美形か。なるほどいいつらしてんな」


渡り廊下で待ち伏せしていた不良グループのボスのガリアーニがオネストの前に現れた。

背後の仲間二人が、周りの生徒を威嚇して追い払った。


オネストは逃げようと背中を向けた。

すると、右手首をがっしりと握られた。


「おっとお嬢様、どこに行こうとしたのかな」


お嬢様という言葉に、オネストは奥歯をぐっと噛みしめた。


「僕はお嬢様じゃない、男だ!」

「なら証拠を見せろよ。その股間の膨らみが本物かどうか知りたいぜ」


オネストの顔が青ざめた。


「ガリアーニ、アジトに連れて行こうぜ」


ガリアーニの仲間二人がオネストの両脇に来て腕をがっしりと押さえた。


「離してくれ!」


「駄目だ。本当に女じゃないか確かめるぞ。付いてるのか、付いてないのか確認するのが楽しみだなー」


オネストは両脇を担がれて引きずられた。



「誰か助けてくれ──!」



その様子を校舎の二階の窓から見ていた生徒がいた。



ブルーノ・ベッカロッシ。最上級生だ。 



彼は階段を降りると左右どちらに向かうか躊躇した。


厄介な奴らだ。無視すればいい。おせっかいは嫌いだ。


しかし、今にも泣き出しそうなオネストの顔を思い浮かべた。



──あいつの泣き顔は見たくない。



ブルーノは渡り廊下に出るとオネストの背中に声をかけた。


「オネスト待たせたな!」



***



不良たちが振り返った。ブルーノを見て、ガリアーニの顔がこわばった。


「ブルーノか。お前はすでにあいつのお手付きなのか?」


──お手付き?


オネストは、振り返ってブルーノを見た。不良たちより頭一つ背が高い精悍な顔つきの男が、仁王立ちしていた。


その身体から発する威圧感は凄まじいものだった。


この場の空気が一変して、ピリピリした。


オネストはブルーノに目を奪われた。

こういう時に出現するなんて、物語に出てくる主人公そのものじゃないか。顔も男前だ。あー、その射るような目で見ないで。とろけそうになるじゃない。


ドクン、ドクン!


オネストの心臓の鼓動が激しく鳴った。


オネストは絶対に忘れないように、網膜にブルーノの勇姿を焼き付けた。


「僕はブルーノ先輩と待ち合わせしてたんです」

オネストが咄嗟についた嘘だ。ブルーノの話に合わせた。


ブルーノとガリアーニが睨み合った。



一歩も引かない両者。



一瞬、時が止まったように二人は微動だにししなかった。



最初に目線を切ったのはガリアーニだった。


「チッ」


ガリアーニは舌打ちして、仲間に離すように促した。

そして背中を向けて肩を揺らしながら行ってしまった。


残されたオネストは、お礼を言おうと振り返った。


すると、ブルーノが目の前に来ていた。

上からじっと見下ろした。


「お前、気をつけろ。あいつらはやばい。ターゲットにされた生徒が何人も退学している」


とブルーノは踵を返した。


「待って!」


「何だ?」

「さっき『おい、オネスト待たせたな!』と言ったよね。どうして僕の名前を知ってるの? もしかして、僕に興味があるから調べたの」


とオネストは、熱い眼差しでブルーノを見つめた。


ブルーノは眉間に皺を寄せて、オネストを睨みつけた。


「調子に乗るな。お前の悪評が耳に入っただけだ」

「悪評?」

「女の子みたいな新入生がいる。すぐに奴らにやられるだろうなと」

「でもブルーノ先輩は、僕を助けてくれた。嬉しかったです。ありがとうございました」

オネストはペコリと頭を下げた。


「……」


ブルーノは去って行った。

その後ろ姿を見たオネストは、胸に右手の掌を当てた。


まだドキドキしている。もしかして、これが初恋ってやつなの?


恋ってじっくり積み上げて育てるものだと思ったけど、一目惚れって本当にあるんだ。


オネストは初めての自分の気持ちに戸惑った。



***



その後も不良グループはオネストを狙い続けた。


授業の終わりを待って連れ出そうとしたり、トイレで待ち伏せした。


そのたびにオネストは、


「今からブルーノに会うから」

とブルーノの名前を出してその場を逃れた。


それをニヤニヤして見ていたガリアーニ。


「いつまでもブルーノの名前が効果あると思うなよ。いずれ、お前の女の子みたいな綺麗な顔を苦痛で歪めてやろう」

と舌なめずりをした。


「なぜ僕を狙うんですか」


「お前を狙うのは貴族たちが憎たらしいからだ」


「貴族学校の生徒なのに?」


「俺らは貴族階級じゃなくて商人階級だ。親父が箔を付けるために寄付金で貴族学校に入学した」


相棒たちがうなずく。


「ところが、入ったら貴族子弟に差別された。トイレに閉じ込められて上からバケツの水を掛けられた。そしてカツアゲに暴力。貴族なんて上品な顔をした悪魔だ。その恨みを晴らすために俺達は徒党を組んだのさ」


「僕は差別なんかしないよ。貴族も商人も何も変わらない」


「だったら、商人の息子が貴族子弟をいたぶっても構わないだろ?」


オネストは身震いした。


あんな下劣な奴らに弄ばれるのは嫌だ。


ブルーノなら僕を助けてくれる。その為なら何でもするよ。 


オネストは唇を人差し指でなぞった。




昼休み、食堂に入るとブルーノを見かけた。窓際のテーブルに一人でいた。


オネストはトレイを持ってそのテーブルの真正面に座った。


ブルーノはスプーンを動かす手を止めた。


「何か用か」

「ブルーノ先輩が一人で食べてるのは意外です」

「群れるのが嫌なだけだ」

「僕もです」

「友達いないのか?」

「なりたい人はいますけど」

とオネストはブルーノを凝視した。


ブルーノは気まずそうに横を向いた。


オネストは周りのテーブルから注視されているのに気づいた。男女とも二人の会話内容が知りたいようだ。


新入生で評判の美少年と、剣術指南の教官に一目置かれているブルーノ。

二人の接近は貴族学校の生徒たちの関心の的だった。


とくに女生徒たちは、逞しいブルーノとオネストの関係をあれこれ噂していた。


「ねぇどう思うあの二人」

「お似合いよね。もうカップル成立したのかしら?」

「フフフ」


それが気まずかったのか、オネストが言った。


「後で校舎の中庭でも話しませんか。いろいろ相談したいことがあるので」

「かまわんぞ」

ブルーノは堅パンを千切った。


断られると思ったオネストは、胸をなでおろした。



***



放課後、中庭の花壇の脇のベンチに二人は座った。


彩りの花が咲き誇る花壇。

蝶や蜂が蜜を吸いにやって来ている。


その脇にベンチが置かれていた。


「このままではあの不良たちに何をされるかわからない。ブルーノ先輩助けてください」


子犬が飼い主に見せる懇願の表情に似ていた。


ともかくブルーノ先輩を盾にして、不良たちから守ってもらおう。まずはそれが優先だ。


ブルーノは軽く頷いた。


「俺を用心棒にするつもりか?」

「はい」

「だったら条件がある」

「何でもします」

「俺と同部屋になれ、そして……女装姿を見せてくれ」


オネストは嬉しさと同時に少しがっかりした。


「僕は男です」

「分かってる。女装して俺と付き合うのが条件だ」

「なぜ女装なんですか?」

「初めてお前を見たとき、男装した女だと思った。男だとわかって、それが残念でな」

「ちょっと傷つくなー」

オネストは頬を膨らませた。


「悪いが俺は男には興味がないんだ。でも女装姿なら、お前を女として扱えるだろ。俺は……お前の女装姿を見たいんだ。似合いそうだしな」

ブルーノは熱く語った。


「『俺と付き合うのが条件』とはどういう意味です」

「お前のバックが俺だと知らしめるためだ。あいつら以外にも狙われるのに気づいていないのか?」


「付き合う振りをしたら、僕は本気になりますよ」

「かまわんさ」

「いいんですか? 僕はめんどくさいですよ」

「分かってる。女はめんどくさいものだ」


オネストは破顔した。


ブルーノ先輩は男が好きじゃないんだ。

だったら、女装で女になりきってみせる。

可愛い姿をアピールして、女だと錯覚させる。

そして、ブルーノ先輩と……


きゃっ、恥ずかしい。 


「お前、何でニヤニヤしてるんだ?」

ブルーノは首を捻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。