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悪徳子爵は裁かれない  作者: 空っぽの零時
第6章:断頭台の法廷
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第6話「仲介人の鎖」

 捜索令状が出た翌朝、司法官は王都南区の宿の二階で、前夜に七号室の錠へ施した封を切った。

宿の主人へ令状を示し、対象となる場所と物を読み上げる。


「捜索するのは七号室と、借り主が残した荷物だけです。他の客室と宿帳は対象に含まれません」


 主人が錠を開けると、司法官二人と司法書記官だけが室内へ入った。

エマは廊下に残り、押収品目録が作られるのを待つ。


 寝台の下に置かれた革鞄から、割符の半片と小さな金貨袋が見つかった。

金貨には家名や商会を示す印がなく、襲撃者から押収された物と同じ重さと種類。

鞄の内側には、次の待ち合わせの日時、宿場の名、左手へ赤い革紐を巻く合図を刻んだ木札も入っている。


 司法書記官は発見場所と品目を記録し、三点を別々の革袋へ収めた。

捜索を終えても、依頼主や標的を記した物は一つも見つからなかった。


 宿の主人は宿帳に残る借り主の名を確認し、その男が以前にも泊まった客だと供述した。


「顔を見れば分かります。明日の朝には、南門から戻ると言っていました」


 エマは押収品へ触れず、持参した木板へ品目と発見場所だけを控えた。

封をした目録の原本と押収品は、司法官の手で合議法廷へ運ばれた。


----------------------------


 翌日の午後、王都の司法庁で、合議法廷が司法官の報告を受けていた。

七号室の割符は、襲撃者から押収された半片と一本の線へつながった。

宿の主人は朝から南門の詰所で待機し、門を通った男を七号室の借り主だと確認。

司法官は宿帳と押収品を根拠に発行された逮捕状を示し、その場で男を拘束した。


「宿の主人は、顔を確認したのか」


「はい。以前にも応対した客であり、宿帳の名と本人の名乗りも一致しています」


 第一仲介人は減刑を求め、金貨を受け取った相手と会った宿場、その背格好、外套の色を供述している。

木札の日時と宿場は一致し、宿場の通行記録にも同じ特徴の男が残っていた。


「公爵家の関与については、申し立てないのか」


 中央の審判官がエマへ尋ねた。


「本人は依頼主を知りません。申立ては、供述が木札と通行記録で補強された相手に限ります」


 三名の審判官は、第二仲介人一人を対象とする逮捕状へ印を押した。

しかし男は数日前に王都の宿を発っており、司法庁は正規の街道伝令で各検問所へ逮捕状を送った。


----------------------------


 逮捕状の発行から二日後、公爵領へ向かう街道の検問所で、第二仲介人が拘束された。

旅荷の中身は着替え、食料、路銀だけで、金貨の出所を示す物は残っていなかった。


 王都へ移送された男は減刑を求め、領境の宿で自分へ金貨を渡した相手の特徴を供述した。

男が口にしたのは、相手の背格好、馬車の形、来た街道と去った街道だけだった。


 司法官は領境の宿へ向かい、宿帳と主人の供述を得た。

主人は二人が同じ時刻に裏庭で会い、一人が空の荷馬車で去ったと答えた。

街道の通行記録にも、供述された時刻の前後に同じ荷馬車が往復した記載が残っていた。


 合議法廷は第二仲介人の供述だけでは足りないとし、宿の主人の証言と通行記録が一致した男だけに逮捕状を出した。

四日後、その男は別の検問所で、領境へ戻る途中に拘束された。


----------------------------


 更に六日後、司法庁の取調室で、金貨を運んだ男は両腕を拘束されたまま供述書へ署名した。


「王都の両替商で、無印の袋を四つ受け取った。そのうち三つを領境の宿で渡した。一つは相手の取り分で、残る二つを次へ回せと伝えた」


「中身の用途は」


「王都のオーリ子爵を殺せと」


「誰の命令だ」


 男は答えなかった。


 男は両替商の場所と、金貨を受け取った日を供述した。

司法官が店を訪ねると、両替商は同じ日にその男へ四つの袋を渡した事実だけを認めた。


「帳簿は、令状がなければ見せられません」


 両替商の返答は供述書へ記録され、男の供述とともに合議法廷へ送られた。

三名の審判官は、指定された一日の取引記録だけを対象とする捜索令状を認めた。


----------------------------


 翌日、司法官が令状を読み上げると、両替商は店に保管していた帳簿を開いた。

指定された日には、公爵家の会計責任者が管理する非常費勘定から金貨を受け取り、同じ重さの金貨を無印の袋四つへ分けた記録が残っていた。

用途欄に記されているのは領外緊急工作費だけで、暗殺もオーリ子爵の名も書かれていない。

司法官は該当箇所だけを写させ、両替商と司法書記官の署名を受けて封じた。

帳簿そのものは押収されず、店に残された。


 十日後、司法庁の審査室で、エマは司法官の報告を聞いた。

三名の審判官の前には、取引記録の写しとエマの申立書が置かれている。


 中央の審判官が申立書の末尾を読んだ。


「公爵本人の逮捕を求める記載はない」


「取引記録が証明するのは、公爵家の非常費が仲介人へ渡ったことまでです」


 エマは会計責任者の役職が記された箇所を示した。


「会計責任者が用途を知っていたか、公爵がオーリ子爵を標的に選んだかは、まだ証明されていません」


「会計責任者の逮捕も求めないのか」


「非常費を動かした事実だけでは足りません。まず本人の供述と、公爵家に残る帳簿が必要です」


「求める命令は二つか」


「会計責任者への出頭命令と、非常費帳簿の証拠保全命令だけです」


 三名の審判官は対象期間を両替日の前後七日間へ限定し、二通の命令書へ印を押した。

司法書記官は羊皮紙を別々に封じ、正式な使者へ手渡す。


 命令書を先に届けるため、その日の夕刻、使者は三人の司法軍兵とともに王都の西門を出た。

帳簿確認を担当する司法官と、兵の指揮を執る独立司法軍の将軍は、翌朝に後を追うことになっていた。


 公爵家へ向かう鞄に、逮捕状は入っていない。

収められていたのは、一人を王都へ出頭させ、たった一冊の帳簿をその場に残せと命じる二通の羊皮紙だけだった。


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