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転生完走 そして次の生へ

 気が付くと、俺はまた何も見えない空間に立っており、一人の姿だけが目に映る状態だった。

「お疲れ様です。無事に、七回の転生が終わりましたね」

 一瞬、何のことだかわからなかったが、すぐに例の約束を思い出す。

「あー……ほんと、きつかったです。死ぬのって一回で沢山ですね」

「そうでしょうね。だからこそ、人間は人気があるのです。屠殺された牛や豚などは、人間を望む者も多いですよ」

「待って、その情報ちょっと怖いんですけど」

「ただ、人間の時も含めて八回も死んでおきながら、その程度の感想で済む貴方はなかなか変わった人だと思いますよ」

 そう言い、神はくすくす笑う。

「それにしても、ひと月も経たずにこれだけ転生するなんて、なかなかお目にかかれるものじゃないですね。死に様も面白かったですが、ぜひまた転生ショーをやってもらいたいものです」

「転生ショーって何!?もうしませんからねあんなの!蜂とか最後の鳥とか、マジできつかったんですから!」

「それは残念。まあ、次の生が終わった時にでも、またお会いしましょう」

 笑顔を張り付かせたままの顔で言うと、神は俺に向かって手をかざした。どうやらいよいよ、人間に戻れるようだ。

「あ、その前にちょっと質問いいですか?」

「はい、何なりと」

「その、虫とか鳥とかになった記憶って、どうなるんですか?忘れるんですか?」

「このまま転生すれば、記憶は残ったまま転生します。もし記憶を消したければ、消すこともできます」

「そうですか……」

 俺はしばらく考え込んだ。正直、ほとんどの記憶が滅茶苦茶きつい記憶だった。特に最後は、信じてた家族に裏切られたせいで、若干のトラウマですらある。

 そもそも、俺は人間になりたくて、その転生枠を得るためだけに他の生き物になっただけなので、覚えている理由はない。だけど……

 俺は顔を上げ、改めて神を見つめる。

「……やっぱり、残しておいてください。人間に戻るためだけの生だったとはいえ、あれらも俺であったことには変わらないですから」

「わかりました。では、七つの生の記憶と共に、貴方を人間に転生させましょう」

 その手から光が溢れ……ということは特になく、ただ俺の意識と視界だけがぼんやりと滲んでいく。死ぬ時の闇に溶けるような感覚とは違い、不快感は一切ない。ただ、夢から覚めていくような、そんな感覚だけを残して、俺の意識は消えていった。


―――――


「……で、何で俺がここにいるのか、説明してほしいんですけど?」

 ここは何も見えない空間。唯一見えているものは神。右手で顔を覆い、プルプルと震えている神。

「いえね?ちゃんと、人間に転生させはしたのですよ?ただですねえ、残念ながら貴方の魂が入った子が、望まれていた子ではなかったと言いますか」

「ちょ、ふざけんな神!やっと人間に戻れると思ったら、一瞬たりとも意識が戻らないまま、またこことか、ふざけてるんスか!?約束が違うでしょ!?」

 さすがにちょっと口調が崩れてしまったが、神はまったく気にする様子がない。まあ、気にされても困るんだが。

「いえいえ、真面目ですとも。それに転生そのものは、きちんとさせましたよ?ただ、まあ、転生ショーの時と違って、アフターフォローをちょっと怠りましたが」

「アフターフォロー?ショーの時って……」

「たとえば、蜂の時はスズメバチの本隊が来るように誘導しましたし、ヤツガシラ……ああ、最後の鳥ですね。あれの時は、最後の卵が貴方になるように調整しました」

「スズメバチはあんたの差し金かっ!」

「そうでなければ、転生が遅れますからね。貴方からは、とにかく早く、と依頼を受けていましたし」

「ま、まあ言いましたけど……いやでも今回こそアフターフォロー必要だったでしょ!?人間になりました!生まれる前に死にました!意識を持つ前に死にました!これで人間になったって言えるかっ!」

 神は気にする様子もなく、俺を宥めようとするかのように両手を上げた。

「まあまあ。残念ながら、貴方は魂が入ってから死んでしまいましたので、神的にはもう転生完了なんですよ」

「人間的には未完了ですけど!?料理頼んで、作ったけど食べる前に地面に落とされて、でももう作ったからお代払えとか、普通ぶん殴るからねその理論!?」

「そんなわけで、次の人間枠が空くのは……今度は十回ほどの転生が必要ですねえ」

「無視すんな!つかなんで三回増えてんだよ!?ふざけんな!」

「枠に関しては、他の魂との兼ね合いですので。ですが確かに、私の落ち度が無いとも言えませんので」

「無いとも言えないんじゃなくて、完全にあんたの落ち度だっ!」

「再び人間に戻った時には、能力や境遇をある程度優遇しますよ。宝くじに二回当たる、などということも可能です」

「宝くじ二回……それはまあ……いや、まさか五等を当たりと言わないよな?」

「……言いませんよ?」

「何だ今の間は!?俺が言わなきゃ絶対それで押し通そうとしただろ!?絶対一等にしろ!絶対だぞ!絶対だからなぁ!」

「では、宝くじの一等が二回当たるということで、転生を始めて良いですね?」

 この邪神、絶対わざと俺が生まれないようにしただろ!絶対俺の転生ショーで楽しんでやがる!

「能力完璧!容姿イケメン!宝くじ一等二回当たる!ただし、晩年に二回とかじゃなくて、一回は二十代で当たるようにしろ!それぐらい飲むよな!?」

「いいですよ。それぐらいは容易いことです」

「あとぉ!次人間になる時は、絶対ちゃんと生まれるようにしろよ!?絶対絶対そうしろよ!?」

「疑り深いですね。今度はきちんとやりますので、ご心配なく」

 くそー、それでも不安は消えないが……もう、これについてはしょうがないか。そもそもが何とかしてもらうことしかできないんだし、ここまで言ったんだから、やってくれると信じるしかない。

「では、準備はいいですか?また楽しませてくださいね」

「お前を楽しませるために転生するんじゃねえよっ!」

 何というかもう、やけくそだ。畜生、今度は何日かかるのやら。

 意識が滲んでいくのを感じる。今度こそ絶対に、絶っっっっっ対に人間に戻ってやるからなぁ!

 

 こうして、俺の転生ショー、もとい人間転生タイムアタックの第二幕が始まるのだった。そしてこの後、すっかりこの邪神に気に入られてしまった俺は、人間の生が終わる度に転生タイムアタックを繰り返すことになるのだが、それはまた別の話である。

以上にて完結です。お読みいただきありがとうございました。

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