会話3. 母と娘、あとおまけ
娘『お母様、ご機嫌いかがでしょうか』
母『お小遣いならあげません』
娘『まだ何も言ってない!』
『ちょっとでいいの!』
『お願いします!!』
母『今月分はこの前、渡したばかりです』
娘『推し漫画の新刊発売日が明後日なの!』
『お願いします!』
『×美ちゃんだって、お小遣いは毎月三万円もらっているって!!』
母『×美ちゃん? 小学校で同じクラスだった?』
『中学でも一緒に遊んでいるの?』
娘『遊んでない』
『×美ちゃん、すぐに自分の家の自慢話や人の悪口ばかりでつまらないし』
母『じゃあ、どうしてお小遣いの額を知っているの?』
娘『×美ちゃん、自分から話すもん』
『誰も聞いていないのに』
母『なるほど』
『でも中学生に三万円は多すぎだと、お母さんは思うし』
『×美ちゃんの毎月三万円もでたらめだと思うけど』
娘『え? なんで?』
母『×美ちゃんのお父さんは大きな会社の社長だけど、今はあそこも不況で大変なはずだから』
『娘に毎月三万円も渡す余裕はないと思うな』
娘『そう?』
『でも×美ちゃんは色々言ってるよ』
母『色々って、たとえばどんな?』
娘『×美ちゃんのお兄ちゃん、お姉ちゃんは十万円以上もらっているとか』
『夏はハワイの別荘』
『誕生日プレゼントは十三万円のブランドバッグをもらったとか』
『お姉ちゃんの来年の結婚式は、高級ホテル貸し切り』
『お姉ちゃんが好きな若手アイドルグループも呼ぶんだって』
母『ええ?』
『あの家も会社も、今はそんな余裕があるとは思えないけど』
娘『でも言ってたもん』
『お小遣いが足りなくなったら、お母さんに言えば台所の金庫から出してくれるって』
母『ええ……ちょっと信じられない』
『×美ちゃん、みんなの気を惹きたくて、大袈裟に言っているだけじゃない?』
娘『そうかな』
母『とにかく、お小遣いの値上げは無し』
娘『そこをなんとか!』
『お母様!! 女神様!!』
母『ダメ』
翌月
娘『お母さん、今日帰るのちょっと遅くなるね』
母『どうしたの?』
娘『先生に頼まれて、×美ちゃんにプリントを持って行くの』
母『ああ、×美ちゃん、最近学校に来ていないんだっけ?』
娘『社長のお父さんの脱税がバレてニュースになって、みんな知ってるから』
『ついちょうかぜいとかなんとかいうの、たくさんとられて大変みたい』
『×美ちゃん、怒ってた』
『お父さんの部下の誰かが税務署に密告したんだ、裏切ったんだ、って』
『×美ちゃん、誕生日やクリスマスのプレゼントがなくなって、泣いてた』
母『そうか……』
『事情はわかったけれど、プリントを渡したらすぐに帰りなさいね』
『今はあちらも大変だろうから、長居したら駄目よ』
娘『りょ』
母『それと来週、お友達と遊びに行くんでしょ?』
『特別ボーナスで三千円、あげる』
娘『ホント!?』
母『今月だけね。特別』
娘『やった!!』
『ありがとう、お母様! 女神様!!』
とある税務署の電話
課長『ご苦労だったね、○沢君。いや、先日の×田社長の脱税は、久々の大手柄だったなぁ』
母「恐れ入ります、課長」
課長『もともとあの会社は怪しいとにらんではいたが。まさか、台所のあんなところに金庫を隠していたとは。○沢君も、よく気がついたね』
母「勘です。…………と言いたいところですが、少々情報提供がありまして」
課長『ああ、「善意の通報」はこの世界、よくあることだからね』
母「つきましては、課長。今回、久々の大手柄なわけですし、たまにはボーナスや昇給でも」
課長『あー! まあ、我々は公務員だからねぇ。民間のようにはなかなか、ははは。あ、呼ばれているようだ、またあとでね』
母「あ、ちょっと課長…………! …………切りやがったか。って、あら写メ。あらあら。…………『お友達と楽しんでいるみたいですね。最近日暮れが早いので、帰りは気をつけてね』と…………あ、もう返信。『お母様からいただいた三千円のおかげです』? こういう時だけ調子いいんだから」




