見送るのはいつもクリスティナ
ずっと続けばいいと願う楽しい時間は過ぎるのが早い。
「もう一日泊まっていけば? ウォード。お姉さんは何日いても構わないって言ってたよ」
クリスティナの誘いにのらないウォード。
本当なら即日帰還するつもりだった、などとがっかりさせることを言う。
まだ一緒にしたいことがあったのに。夕日の見える丘公園は必見だし、ウォードは男の子だからレイの剣技指導を見ても楽しいと思う。できればふたりでお手本を見せてくれると、大変嬉しい。
ふう。大きく息を吸って吐く。あまり我がままを言って嫌われては困る。
せっかく可愛いと言ってもらったから、ここは令嬢伯爵らしい可愛いお顔でお見送りしたい。
ティールームから劇場まで歩いて行ける。店の前でお別れすることになった。
「ウォード、お手紙はお家に着いてから読んで」
クリスティナの差し出した手紙を無造作に受け取り、ウォードはレイに目礼した。
「お会いできてよかったです」
「俺もだ。立場は違っても目指すところは同じと考えている。無理強いするつもりはないが、君を味方に引き入れたい気持ちは強い。よい返事を待っている」
レイの差し出した手にウォードは一瞬逡巡する様子を見せたものの握手する。
その後フレイヤに向かい軽く一礼した。
「お世話になりました」
「いいえ、なにも。王都にいらっしゃる時は、ぜひうちをお宿がわりにしてください。ティナちゃんも喜ぶわ」
ほんと、そう。お姉さんはいいことを言う。クリスティナは深く頷いて同意を示した。
立ち去るウォードの後ろ姿を三人で見送る。腰の位置が高い、脚が長い、歩くの速い、振り返って欲しい。
「振り向かないね。『ウォード、大好き!』って叫んだら、振り向いて『俺も!』って言うと思う?」
「ははっ」
レイに笑われたクリスティナは、思いきり鼻に皺を寄せた。フレイヤお姉さんに言ったんです、レイは黙ってて。
「おっと、冗談じゃなかったか」
「レイさん」
たしなめたフレイヤが頭を撫でてくれる。ささくれ立った気持ちに優しさが染みる。
ウォードにはいつも置いていかれる気がする。また会えるのは分かっているし、お手紙を上着の内側に入れてくれたのも見た。
レイが「冗談」と笑ったさっきのだって、さすがに本気ではない。
毎回見送る側なことに気がついただけだ。
「クリス、アガラス家がシンシア嬢の存在を表に出してくるらしい。他との連携が必要となる。再会は案外早いかもしれないぞ」
他に聞かれないためか、レイの声は普段より一段低い。
その「再会」はウォードと? それともシンシアお嬢様とだろうか。
人混みに紛れて、ウォードの背中はもう見つけられなかった。




