山賊の頭・3
クリスは暗いところが苦手。「私が寝たら手を離していい。アンディが先に寝るのは禁止」と、寝る時には必ず手をしっかりと握る。
小さな頃からひとりで寝ていた自分に比べて甘やかされている、とアンディは密かに思っていた。
「クリスを寝かしつけたら起きるつもりでいたのに一緒に眠ってしまって気がついたら朝」という事がアンディのおかげでなくなった、と笑うおっかさん。
「暗い所が怖い、結構なことじゃないか。夜中に男に会いに家を抜け出す娘になる心配がないんだからね」
夜中に抜け出すって言うけど、隣家もない山のなかで「男」なんていない、とアンディが反論するのは胸の内だけ。
おっかさんにもそんな娘時代があったということなんだろう。今の姿からは想像がつかないけれども。
下の階ではまだ賑やかな酒盛りが続いている。
いつもの時間にクリスを寝せて、そろそろ手を離しても大丈夫かとアンディが思う頃、おっかさんが部屋を覗いた。
「アンディ、まだ起きてるかい? クリスは寝た?」
「オヤジ」に挨拶をしたいと頼んでいたので、呼びに来てくれたのだ。
アンディは教えられた部屋へと向かった。
部屋では、オヤジと呼ばれる男がひとり、ぼんやりとした灯りで酒を飲んでいた。
自分が山賊の頭と面会するなんてどう考えても不思議だ。
「楽にしてくれ」
屈強な手下を従えている山賊の頭は気さくに言う。
「よくやってくれていると聞いた。ジェシカが誉めてたぞ、家出少年アンディ」
家出少年――からかい混じりの言いようは、クリスに嫌われる原因。
アンディは慎重に言葉を選んだ。
「いえ。できることは、あんまりないんです」
教えられた仕事をこなすので精一杯。最近は、季節が一巡りしないとコツは掴めないだろうと考えつつある。
「焦ることはないさ。あたしに言わせりゃ、アンディの二か月はクリスの二年と同等だね」
以前にフルーツケーキを食べながら、何気なくおっかさんが口にしたひと言で、すとんと気分が落ち着いた。
クリスが気分を悪くしたのでは、と心配して顔色を窺うと。
「私は小さいからしかたない」
こちらの気が抜けるほど、屈託がなかった。
クリスの年齢が僕を追い越すことはないから、一緒にいる限りクリスは「アンディより小さい私は、できなくてもしかたない」と言い続けるんだろう。
「山の暮らしはどうだ」
聞かれてアンディは、物思いから覚めた。