山賊の頭・4
顔と気を引き締めて。
「覚えることばかりです」
「覚えてもなあ」
返されたのが苦笑だったのは、アンディにとって意外なことだった。困惑して次の言葉が見つからないでいると、山賊の頭が話し出した。
「山で暮らす知恵がついたところで金になるわけじゃなし、いい暮らしには程遠いぞ。男子たるもの大なり小なり野望はあるだろうよ。もう分かってるとは思うが、一旗揚げるなんてのは山じゃ無理だ」
とても真っ当な発言をする相手が山賊の頭であることを、忘れてしまいそうだ。
「来て二か月、手紙の一通も出してないと聞いた」
間違いないか、と言うように眉が上がる。
「はい」
理由を問われる前に自分から、手紙をきっかけに親に居所が知れて連れ戻しに来られては困る、とアンディは説明した。
「それはつまり、連れ戻すほど心配してくれる親がいるってこった。家出少年アンディ君は、坊っちゃん育ちだな」
だからその言い方。クリスが嫌がるのがよく分かる。
言われた通り、うちは貧しくはない。
相手の身分からしても、母の再婚は誰の目にも上昇婚であることは明らか。
母がすり寄ったのではなく新しい父が母にご執心なのだ、と母の名誉のために付け加えたい。
アンディの心の内を知らずに、山賊の頭は真面目な顔つきで助言をくれる。
「山奥じゃ『お勉強』はできないぞ、学校がないからな。親に金があるなら家にいたほうがいい」
山賊とはこんなに真っ当なのか。「頭」ともなれば、言う事は知識階級っぽいのかもしれない。
「父と折り合いが悪いんです」
「なら、利用すると考えちゃどうだ。嫌いな奴の金で身を肥やす。うまいことやって小遣いをもらって遊ぶ。最高だな、こりゃ」
茶化しているけれど、案外本気で言っているようにも感じた。
ふと浮かんだ考えを、そのままぶつける。
「僕は、どこかの回し者と疑われていますか」
山賊の頭は可笑しそうに唇を曲げた。
「いや、まったく。子供の密偵はいくらでもいるだろうが、馬に乗れない密偵なんぞ、いるはずがない。ただの家出少年アンディ君だ」
断定されて喜んでいいのかどうか、アンディは複雑な気持ちだ。
「まあ、ジェシカが助かってるしクリスも懐いてるから、いてもらうのはかまわねぇ」
「ありがとうございます」
滞在許可が出たことでほっとして肩から力が抜けたアンディを横目で見やり、山賊の頭がグラスを小卓へ置いた。
「俺は明日発つ。なんか聞きたいことはあるか」




