第56話 疑惑と事実
ウイルシアン王国。
国内の東西南北に位置し、建っているギルド。
建物の向きと入口は違えども同じ形をしている。
王国とは言っても昔建てたとは言え、その当時でも経費はかさむので設計料を安くするのに統一したのだろう。
そして今、東のギルドはいつもと変わらない風景。
冒険者たちが出入りし、テーブル席では打合せをしたり、奥では換金したりしている。
只、秘密裏にS級の三人には、レイルの投獄とそれについての内容がそれとなくやんわり伝わっていた。
この三人。
先日までA級だったバッガルド、モルダマン、クリステアが、S級に昇格したのだった。
以前からS級に近いと言われていただけあって、周囲の異論など毛頭なく、極普通にS級の地位を獲得した。
今は片隅のテーブル席で、バッガ、モルダ、クリスが小声で話をしている。
呪いを受けていたモルダは吐き捨てる。
「何だよ。結局レイルの自作自演だったのかよ」
バッガは両手で腕を組んで冷静だ。
「らしいな」
クリスは帽子のつばの位置が気に入らないのか、摘まんで気にしながら話す。
「でも、本当なのかしら」
モルダは両手を黄髪の後頭部に当てて背もたれに寄り掛かる。
「事実、連行されたんだ。疑惑はあるんだろうな」
「しかし、何の徳があるんだ?」
「それに、レイルはあの時、闘技場に居なかったわよ」
ギルドの通達では、まだ本格的に取り調べを行っていないが、やんわりした内容の中に、疑義がある、とだけを耳にしていた。
ウイルシアン王国の貴族、判事とは言え、まだ判決も出ていないのにレイルの内情を漏らすとは、真剣なのか馬鹿なのか、随分と悪手を付いたものだ。
そんな状態でテーブルを囲んでいる三人の話し合いでは憶測にしか過ぎない。
不確定にはなったが、結局、呪いにはレイルが関係していると結論付けた。
疑惑を持つのも無理もない話しである。
依頼を達成したロンダ、ルドルは装備して出立する。
同じ王国内なので小一時間ほどで東のギルドが見えて来た。
まず東のギルドに出向き、バッガルド、モルダマン、クリステアの拠点を聞く。
その足で尋ねればクリステアが扉を開けた。
「あら。北のランサーとアーチャー。一体どうしたのかしら」
「クリス。話があって来た。バッガとモルダもいるか」
「え? ええ、いるわ。どうぞ入って」
「失礼するよ」
入ってすぐの広い居間にテーブルを囲み座っていた。
先に二人と眼が合うバッガ。
「ん? ロンダとルドルか。珍しいな、と言うか来訪は初めてだな」
モルダが振り返りすぐに察した。
「ああレイルの件か。で、何の用があって来たんだ?」
クリスが椅子を持って来た。
「ロンダもルドルも立っていないで座って話しをしましょうよ」
とても気が利くクリスだった。
只、お茶の一つも出ていないのは、もてなしとしては良くないが、それは余計な事だのだが。
ロンダとルドルが椅子を引いて座る。
「悪いなクリス」
「すまない」
クリスも椅子に座り五人がテーブルを囲む。
まずロンダがレイルの冤罪について説明すれば、モルダが拘束されたレイルの自作自演を唱える。
ルドルは補足し、呪いを受ける条件を説明すれば三人は何となく納得したようだ。
最後にルドルが瓶をテーブルに乗せると、さっそくバッガが手に取って眺める。
「その中に入っている液体はレイルが作った」
ロンダはレイルから聞いた話をそのまま説明すれば、クリスが一つの疑問を投げかける。
「それを高く売りつけるために呪いを掛けたって事はないの?」
「さっき発動条件を話しただろ。それにこれは無償だよ」
「え? ロハ? それって本当?」
「本当も何もレイルがそう言っているんだ。周囲の事を考える優しい奴なんだよ彼奴はさ」
ルドルも補足する。
「仮にレイルが黒い魔物の奴らと共闘していたら、今頃北のギルドは壊滅しているよ」
頷くロンダに驚く三人。
ロンダは同じパーティを組んでいる事で見た事、感じた事、レイルの強さを掻い摘んで話した。
勿論ナギア、ラベルトのお墨付きもある、と。
驚愕する三人だが、やっと理解し、完全に納得してくれた。
「やはり解呪してくれた事に感謝しないとな。で、俺たちに何をしろ、と?」
「そこでお願いがある」
「借りを作ったままじゃ名折れになる。何なり言ってくれ」
その後、テーブルを囲み打ち合わせを行った。
同時刻の西のギルドには、ナギアとラベルトが出向いている。
運がいいのか悪いのか、ギルド内で気配を消していた三人を目ざとく見つけたナギアが、いとも簡単に不意打ちを掛け肩をたたいた。
その流れで隅のテーブル席に追いやられるようにカリス、ムルモ、コザルが座り、二人もテーブルを囲むように話を始める。
人に指示される事を嫌うナギアが、レイルの内情を聞いていたので二つ返事で受けてくれた。
ラベルトはその流れで有無を言わさず駆り出されている。
まさに青天の霹靂と言えよう。
だがしかし、レイルの内情をナギアが説明し、三人を説き伏せられるのだろうか。
――否であった。
今現在、切れ長の美しくも冷酷な眼で睨みつけ、上から眼線で威圧を掛けている。
対してアサシンであるS級の三人ではあるが、英雄級の二人に迂闊には反論できないのが実情だ。
呆れたラベルトが助け舟を出して、ナギアを止め低姿勢に丁寧に理論立てて説明し、東の三人と同様の反論もあったが同じように補足し、レイル自家製のポーションを出して説き伏せた。
納得、理解した長男のカリスが代表で頭を下げた。
「いや、悪かった。やはりレイルには感謝する」
ナギアが何か言おうとしたのだが、察したラベルトは遮るように割って入る。
「……!」
「で、そこで俺たちからのお願いを聞いてもらいたい」
「出来る事なら言ってくれ。同じ冒険者同士、恩返しくらいはしておかないとな」
その後、打ち合わせをしたのだが、ナギアは両手と両足を組んで背もたれに寄り掛かり、機嫌を悪くしたまま一言も話さなかったのは周知の事実であった。
南のS級、大剣のゲインナーとミミリタスの拠点はロンダ、ルドルが出向き、やはり思っている事、感じている事は同様だった。
二人はゲインとミミリに説明し、質疑、反論、説明、疑問、補足、と言った具合で最終的には当然理解してくれた。
「成る程……受けた恩を仇で返すはずも無い。借りは返さないとな」
そしてまた二人に願い出て打合せを行った事は言うまでも無いか。
翌日の西のギルドに、赤い装備を身に纏った艶やかな黒髪のサリアバンナと、濃紺の装備を身に纏った透き通った赤髪のオリナンハが、テーブル席に相対して座っている。
二人の依頼達成率と闘技場での活躍した一件もあり、晴れてS級に昇格していた。
こうなると西には五人のS級がいるので、四つのギルドの中では一番。と言いたいところだが、そう言ったものでもないようだ。
北のS級四人のうち二人は英雄級、そして今は投獄されて入るが、レイルを合わせれば事実上の頂点なのかもしれない。
ただし、レイルの強さは知られていないのが実情なのだが。
やはり各ギルマスと冒険者全員が納得するには、試合の結果で決まるのだろう。
だがそれは今は別の話。
「どうするオリナ。レイルが見つかったけど投獄されているし……」
「私に聞かれても困るけど、レイルって悪人だったのかぁ」
テーブルに両腕を立てて、頬杖をついているサリアと、両腕を組んでいるオリナ。
そこにワルドッツ三兄弟の三男、コザルが音も無く現れ二人の前に立つ。
「おい、北のS級と話をした事を教える。これはS級以外には内密、口外無用だが、後はお前たちの考えに任せる」
同じS級の地位なので無下には出来ず、連絡に来たのだろう。




