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第57話 嘆願

 サリアとオリナは先日の闘技場での事件以来、ワルドッツ三兄弟をよく思っていないようだ。

 それもそのはず、何の話も無いうちに、いつの間にか囮に使われたのだから釈然としないのは当然だろう。

 勿論ギルド内で顔を合わす事もないのだが。

 怪我んな表情はしていたものの、S級であるコザルの話には耳を傾けた。


「実はレイルツエースと言う男についてなんだが……」


 レイルの名前を聞いて、すぐにサリアが食いついた。


「え? レ、レイル?」

「ん? レイルを知っているのか?」

「な、名前だけ……ね、オリナ」


 サリアに合わせるオリナ。

 特に知っていても問題はないのだが、別の目的がある二人には、それとなくコザルに後ろめたいのだろう。


「う、うん、名前だけはね」

「なら話が早い」


 コザルは、レイルが投獄されロンダたちから聞いた話をそのまま伝えた。

 一通り話し終わると同時に、後は二人の考えに任せる、とコザルは気配を消し、消え去って行く。

 性格なのか、職種なのか、アサシンとしての一角を見せた。

 S級に昇格したばかりの二人には、通達が来ていなかったのはやむを得ない所か。

 それに、とにかく昇格を目指していた二人は、レイルの事を疎かにしていたのも仕方が無かったのである。

 しかし、ついにレイルに辿り着いた。

 サリアとオリナが顔を向きあわせれば、可愛らしくもやる気のある笑顔になっている。


「やったね。レイルが見つかったよ」

「ようやくだね、サリア」

「どうする? オリナ」

「勿論やるわよ。絶好の機会を逃したらダメ」

「りょーかーい。私たちにもツキが回って来たのかもね」

「サリア、行くよ」

「うん」


 二人は西のギルドを出て行った。

 そして数日が経ち、レイルが尋問を受ける前日の昼に城の前では異様な光景が見られた。

 幅一〇mほどの通路が三〇mの長さで城門に向かって伸びている。

 その城門から二〇m後ろに並び、立ち塞がる一四人のS級冒険者たち。

 一同に集まる事の無いS級は、各自の自慢の出で立ちで城に出向いているその姿はまさに圧巻である。

 街道を歩いている住人、商人、冒険者たちが立ち止まりどよめけば周囲にも知れ渡るように一眼見ようと人々が続々と集まって来るのは自然な事だ。


 城門の外で騒ぎが大きくなれば、必然と城内にも通達が走る。

 一方、門番は、S級たちに圧倒され腰が引けて出て行けないのは無理も無いだろう。

 すぐに貴族である公爵たち、そして国王が会議を始めようとしていた時に入って来た騎士が声を発した。


「ウイルシアン王国各ギルドより、全S級の冒険者が城門の外に立ち塞がっております」

「何だと? 一体何事だ。どういう訳だ」

「ハッ。今の所これ以上動きが無いのでまだわかりかねますが、普通では無い。かと」

「すぐに調べろ!」

「ハッ」


 騎士が扉をあけて出て行けば、外からの歓声にも似た騒ぎが誰の耳のも聞こえた。

 気になる国王を筆答に、十数人の貴族が大きな窓越しに城門の前を見下ろせば、立ち並ぶ十四人のS級と、少し離れて取り囲む人々の姿が見えた。

 国王も思わず口にする。


「ムゥ……圧巻であるな」


 城門から見て左から、ロンダとルドル、ナギアとラベルト、バッガ、モルダそれにクリス、カリス、ムルモにコザル、サリアとオリナ、ゲインとミミリが完全武装した装備で威風堂々立っている。

 気押されする公爵は数歩下がる。


「こ、これは、一体どうしたことか……」


 たじろぐ貴族たち。

 上を向いて視認していたのだろう、察したようなロンダが、一人城門の中に入っていく。

 観衆が見惚れているS級たち。

 威風堂々とした十三人が見送る中、少しして戻って来た。

 何やら書状を門番に手渡したようだ。

 その書状はすぐさま持ちこまれ、騎士により開けられ声を発した。


「今回のレイルツエースの投獄に異論があります。証拠とまではいきませんが、受けた呪いに関してレイルが解明している冤罪なので釈放を要求します。その保証はここに居るS級冒険者全員の総意です。聞き入れられなければ今後、国からの依頼は受け入れ無い事を覚悟ください」

「な、何と言う事か」

「しかし、S級全員とは……」


 国の守りは、騎士兵士だが、各ギルドに居るS級の存在は計り知れない要になり頼りになり、信頼もある。

 冒険者であり、時と場合により国も守る、そのためのS級なのだ。

 その全員からの冤罪の嘆願となれば、それが正しく強力な武器にも匹敵する。

 信用、信頼のあるS級が一同に集まってまで嘆願されたのだから、他の貴族たちは受けざるを得ないだろう。

 補足としてロンダは、添付した呪い除けのポーションについても記載していたので理解も早かったようだ。

 程なくして城門が開かれれば一人の男が出てきた。


 ――レイルである。

 装備一式も返され、解放されたレイルを視認したS級たちは、お役御免、とロンダ、ルドルに一声かける。

 西のワルドッツ三兄弟が、お先に、と気配を消して消えて行った。

 東の三人一行と、南の二人も恩着せがましいのは好まず、嫌なのだろう。

 モルダが、んじゃな、と踵を返し、ゲイン一行も、帰るとしよう、と振り返る。

 各自思い思いに人ごみに混ざり去って行った。

 自然解散した形になったので、周囲の観衆も散開して行く。

 散って行ったS級たちに、一言礼を言ったロンダとルドルは元より、ナギア、ラベルトは別として、視認しているサリアとオリナは感激した表情でまだ待っている。

 久しぶりに再会するサリアが興奮を抑えられないのか、と思えば至って冷静で、逆にオリナの方が興奮していた。


「サ、サリア。あの人がレイル? ね、ね、あの人がレイル?」

「そ、そうだよ」

「うわっ。うわっ。ど、どうしよう。噛み付きに行ってもいい?」

「え? まだダメだよ。城の前だし、北のS級もいるし、第一そんな事したらわっちたちの身元がバレちゃうでしょ」

「えー? じゃあどうするの?」

「少し様子を見ようよ」

「うー……うん……そうする」


 静観する姿勢をとった二人は、それが正解だろう。

 いくらオリナが、一足飛びに不意打ちを仕掛けて気配遮断と共に噛み付きに行ったとしても、レイルなら簡単に避けて躱す事になるからだ。

 サリアもレイルの破格な強さを忘れてはいないと思うのだが。

 強さだけでは無く、少し抜けている部分ではS級には少し早かったかもしれない。とは余計な事かもしれない。


 今歩いているレイルは、どういう状況で釈放されたかは知らされていない。

 牢屋の中から索敵魔法を掛けていてもいいのだろうが、お人好しなのか、面倒なのかはさておき、のほほんと獄中生活を堪能していたのだった。

 ゆっくり歩いて出てきたレイルが、北のS級たちを見れば自ずと察したのだろう。

 去って行ったS級の後姿を見てから前の四人を見る。


「ん。ありがとう」


ロンダが歩み寄る。


「いいってことよ」


 ルドルも片手で髪を掻き上げ、爽やかな笑顔だ。


「仲間だろ」


 一つ離れているナギアとラベルトも誇らしげに髪を掻き上げ優しい笑顔だ。


「ま、何にしても良かったな」

「ああ」


 もう一つ離れているサリアとオリナは、声も掛けられず黙ってレイルを見ているのが関の山だ。

 それは勿論、古参であるS級と英雄級と言われる二人がいるからだ。

 既にナギアとラベルトも、ロンダ、ルドルに混ざって、レイルを取り囲み事の状況を話していた。

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