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第46話 呪い2

 歩み寄りながら、黒くなっている左手に持っていた黒い石を、腰袋に仕舞い込むとレイルの腕も元に戻った。

 ロンダがレイルを見る。


「なあレイル、いったい何の呪いだったんだ? 原因は?」

「ん? 知らない」

「は? なら何故治ったんだ? いや、治せたんだ?」

「呪いの相性、かな」

「見ればわかるのか?」

「ん、多分」

「その相性が合わないと治せないのか?」

「多分。でも、今までは無いけどね」

「よくわからないけど、そうなのか。ま、何にしても凄い事をしたよレイルは」

「んー、そうかな」

「で、さっきの変色した石は何だ?」

「ん、魔石の元」

「そ、そんな石、何処に売っているんだ?」

「町で探したら無かった。だから家から」

「魔石の元? そんな石どうして持っているんだ?」

「魔石の魔力を抜いて空にしただけ」

「そう簡単に言われても俺には理解できないぞ。第一売っている代物じゃないだろ」


 ロンダとラベルトとも、頭の中に? が浮かんでいるのか、よく理解出来ない様子だった。


「――屋敷で……作った」

「ハァ? そんな事も出来るのかレイルは……なんか疲れたよ……もう何でもアリだな」


 レイルは徐(おもむろ)に、腰袋から黒い魔石を取り出し見せる。


「呪いを封じた」


 興味のあるルドルとラベルトもロンダの背後から近寄る。


「す、凄いな。その魔石の中に呪いが入っているのか」

「レイル、触っても大丈夫か?」

「止めたほうがいい」


 触ろうとしたラベルトがすぐに手を引く。


「おっと。フゥ、あぶねー」

「念のため」


 四人は少しの間、眠っている国王の様子を見ていたが、従者が見ても治った事が明らかになったので、ロンダは後日、改めて出向き報告する事を話し、城を後にした。


 日も沈み、暗くなっている街中。

 ルドルとラベルトは、疲れも見せず酒場に行く、と言い、誘われたレイルだったが、断り家路についた。

 大方、手に入れた呪いの魔石でも眺め、早く調べたいのだろう。

 ロンダはギルドに報告し、レイルの事は口外無用、秘密裏にするよう要請した。

 だがしかし、町や冒険者には広まりはしないものの、S級にはすぐに各ギルマスから伝わってしまう事は昔から同じではあったが。

 今後S級からは、一目置かれる存在になるレイルではあったが本人は知る由も無いし、知るつもりもないだろう。


 数日が経ち、レイルは町にいる理由も無くなったので、屋敷に帰る事を話した夜、いつもの酒場で、ロンダ、ルドル、ラベルトと他愛もない話しをしながら飲み食いしていた。

 そこに珍しく、と言うより初めてなのだろう、入口の扉が開かれ威風堂々と店に入って来るナギア。

 事前に誘い知っていた四人は気にも留めず、気が付いたラベルトが片手を上げナギアに振り向く。


「ナギア! こっちだ!」


 一瞬だけ店内からの視線がナギアに集中するが、すぐに霧散するかのように、いつもの賑やかな店内に戻った。

 ナギアが酒場に来ること自体が珍しかったに違いない。

 酒場は本来、暗黙の了解で無礼講の場なので基本、誰が来ても来る者は拒まない。

 ただ、昔から来店しているロンダ、ルドル、そして常連になったラベルトは兎も角、初めてなのか久しぶりなのかは不明だが、酒場に来るナギアは、周囲の者達にとっては脅威だったのかも知れない。

 来た理由だが、王城での事をラベルトに聞いたナギアも、その今回のレイルの行いに少々興味を持っていたらしい。

 テーブルに威風堂々と歩み寄る、美しく腰まである艶やかな銀髪を揺らし、冷たくも透き通った切れ長の眼を向ける。

 至る所から、漆黒だよ珍しいな、とか、何かあったのか、とか、相変わらず怖いな、などと小声が聞こえてはいたが、気にしないナギアだった。

 ロンダ、ルドルが爽やかな笑顔を見せ、片手を上げて愛想を振りまいる中で、ナギアは顎で相づちを打ち、ラベルトの横にある椅子を引き、背もたれに寄りかかるように座る。

 本人にとって、旦那子供以外は、相手に対する挨拶が、全く悪気はなくとも普通にこうなるのかもしれない。


「遅かったな、ナギア」

「遅くはないさ」


 いつものように両腕を組み、足を組み堂々と座るナギアにロンダが声をかける。


「酒は飲むんだろ? 何にする?」

「麦酒を頼む」


 ナギアの声を聞いた瞬間、ルドルが手を上げカウンターに振り向く。


「麦酒大至急だー! あと葡萄酒も至急四つだー!」


 ナギアが店に来た事も、理由としてあるのか、すぐに店員が持って来た。

 ラベルトがグラスを持ち、前に出すと、三人も前に出す。

 その動作を見たナギアも、一つ遅れて麦酒の入ったグラスを同じ位置に差し出す。

 仕切ったラベルトが一声を上げる。


「来てくれたナギアに、乾杯」

「「「「乾杯」」」」

「……カンパイ」


 四人が一気にあおった。

 少し遅れて、勿論ナギアも一気に。

 ルドルがカウンターに向く。


「フゥ。おーい! 追加ー! 麦酒一つと蒸留酒四つだー!」


 やはりナギアの恩恵なのか、ルドルが言うや否や、裏で用意でもしていたようにすぐさま持って来たのは言うまでもないことか。

 ――やっと落ち着くような五人。

 まずロンダがナギアに、王城での呪い解除の出来事を簡単に説明した。

 そして、四人が聞きたいと思っていたに違いない、呪いについて話しを切り出すルドル。


「なあレイル。あの呪いの事だけどさ。何かわかったのか?」

「ん? 詳しくは分からない。でも魔物などの類じゃない」

「悪霊、死霊系か?」

「んー、少し違うかも」


 レイル曰く、家で呪いを封じた魔石を調べた。

 わかった事は、黒い巨人と魔物らしい男は、魔王、魔族、悪魔族とは別物だと言う。

 悪霊に近いのかもしれないが、少し違うような感じもする。

 もう少し時間をかけて調べないとわからないのでまだ不明。


 今回の呪いは、純粋に湧き出た怨念や恨みとは違い、意図的に作られたと思うので解呪は簡単なのだとか。

 そして呪いに関して知っている事、以前にやっていた呪いの調和の事を簡潔に話した。

 賑やかな店内だったが、レイルの話にくぎ付けになる四人。

 レイルの話が終われば、一息ついて、ロンダがグラスの酒を一口あおってフォークにつまみの肉を刺す。


「どういう類かは俺にも到底分からん。この事はレイルに任せるしかないな」


 同じく一息ついたように、ルドル、ラベルトもグラスをあおる。


「フゥ。あの黒い魔物くらいなら相手して勝てるけど、呪いはなぁ」

「プハッ。まさしく。相手にしても呪われたらかなわないけど。なったとしたら、今の頼みの綱はレイルだけ。か」


 ナギアは終始両腕を組んで話を聞いていたが、何を思ったのかレイルに話しかける。


「レイル。先ほど調和、と言っていたな。呪いに長けている上に強いのなら私の剣を持ってみるか?」


 ラベルトが慌てて両手を前に出し、ナギアを制止する。


「な、おい。止めておけよナギア」

「ん? レイルは呪いの解呪に長けているのだろ? 問題ないじゃないか」

「狂人化するかもしれないだろ。ましてやレイルがなったら手に追えなくなるぞ」


 ロンダ、ルドルが疑問視すればラベルトが教えてくれた。

 ナギアの魔剣、ギーマサンカは死霊系の討伐に特化した剣。

 国宝級のあまりにも強い剣ではあったが、難点もあった。

 まず第一に、男は持てない。

 この剣は女性だけが持てる。

 ただし、魔剣に認められた力量がある特定の者だけ。ごく一般の女性が持っても何の変哲もなく、むしろ重いだけの剣になる。

 ナギアが魔剣に認められ、使えるようになった理由は極秘とし、今ではナギアしか知りえない。

 そして男が持ち構えると、剣の呪いなのか発狂し、死亡。

 場合によって狂人化し化け物になってしまう、ある種の呪われた剣。

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