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第42話 ギルドにて

 ウイルシアン王国 日が流れ大会二日前。

 日もまだ昇りかける前の早朝、朝靄の中、一人の男が街中を足早に歩いている。

 山を下りたレイルが、いつものように、普通に、突然前触れもなくロンダの家に出向けば、気兼ねなく、気にしなく、扉を二回叩く。

 音に気付いたのか頭を掻きながら寝ぼけ眼のロンダが出てくる。

 気にする事など一つも無い表情のレイル。


「ロンダ、おはよう」

「え? あ、ちょ、お、おはよう。早いな」

「ん、今着いた」

「ル、ルドルも呼ぶから、あ、後で、ギルドで待ち合わせようか。レイルも一度、町の自宅に戻ったほうがいいよ」

「ん、わかった」


 レイルはロンダに言われた通り、一度自宅に帰った。

 人に気づかいする事はまだまだ厳しそうだ。が、昔に比べれば格段に良くなっている。

 今後に期待したいところだ。

 数刻後、誰もいないギルドに集まる三人。

 ロンダとルドルは先に来ていて、いつもの椅子に座って待っていた。

 レイルがギルドに入れば、すぐに片手を上げたルドルから声がかかる。


「よお、レイル。久しぶり、元気だったか?」

「ん、元気だよ」


 レイルは二人に歩み寄り、テーブル越しに立つ。

 ロンダも片手で髪を掻き上げ、男同士と言えど、爽やかな笑顔を振りまく。


「元気そうで何よりだよ」

「ん。二人も元気で良かった」

「おおよ。元気だけが取り柄みたいのものだからな。ハハハ」

「ああ。立っていないでレイルもまあ座れよ」

「ん」


 そんな三人を、遠巻きに見ている嬉しそうなエルサ。

 いや、三人ではなくその視線の先にいる、久しぶりのレイルを見ていたのは確かである。


「あー、レイルさんって、彼女とかいるのかなー。聞いてみようかなー、でもなー……」


 カウンター越しに座って何やら一人、葛藤しているエルサだった。

 その感情がミャウとへび姫に届いたかどうかは、今の所、定かでは無かったが。

 届かない事を祈るのみ、としかないだろう。

 三人は、以前に別れてから今日までの事を談笑し始めている。

 ルドルも、男同士と言えど爽やかな笑顔で話す。


「ハハハ、成る程な。で、所でレイルが今日来たって事は、申込期限が過ぎているから大会には参加しないって事だよな」

「ん、そう。二人を見に来た」

「そうか。なら、ラベルトも安心だ。あ、いや、俺たちの、いい所を見せないとな。ハハハ」

「ん、それと……」


 レイルは屋敷で起こった魔物の事を簡単に話した。

 ロンダが、思い出したように反応する。


「黒い魔物かぁ。もしかしたらそれって、勇者一行の全滅に関係するかもしれないな」


 ルドルも青い眼を輝かせて食いつく。


「そうだよ。レイルの話と丁度同じ時期だから、その線は濃厚だな」

「だが確証がない。――だから、憶測としておこうか」

「ああ、そうしよう。レイルの言ったことは事実だろうけど、ギルドに報告するには時期尚早だと思うし、首を突っ込むのも……何だかさ」


 更にレイルが補足した。

 黒い巨人の力量は、二人同時に戦ったなら確実に倒せる。

 だがしかし、貴族風の男には気を付けたほうがいい。

 そこらの魔物とは別物の、別格の存在だろう。

 力なくルドルが背もたれに寄りかかり、両手を後頭部に当てる。


「そうか、そいつらは強いのか。ああ、了解した。レイルがそう言うのだから本当だろうな。肝に銘じておくよ。ん? そうだ、レイルの話で思い出したけど、勇者の事件が起こっているのに大会を開催って――いいのか? ギルドや王国は調べていないのか?」


 ロンダが片肘をテーブルに付いて半身で話す。


「大会と言っては簡単だけど、色々と。何だよなぁ。しがらみが……」


 ロンダ曰く。

 まだ公表はしていないがウイルシアン王国は、大会の中止を検討した。

 しかし、四ギルドのギルマスから反対され決行を決断した。

 大会とは建前上で、昔に行われていた大会は実は四ギルドによる、威信、威厳、そして上下関係の対抗戦でもあった。

 久しぶりの開催に沸き立った四ギルドは、反対するも当然の事なのだろう。

 なので、勇者の問題もあったが、その後は何も起こっていないので、この大会だけに関しては別段問題ないだろう、との判断で開催するに至る。

 勿論並行して模索、調査はする、との事だ。


「何であれ、決まったのだから当然参加するよ。ルドルと全力で勝ちに行くつもりだ。レイルにも鍛錬してもらった成果を見せないとな。ハハハ」

「ん、頑張って」

「後は他の三ギルドからの参加者次第だ。対戦相手は当日まで知らされないからな」

「おおよその見当は付くけどな。A級の上位とS級だけだしさ」

「向こうだって、俺たちやラベルトが参加するくらい見当は付けているだろうしな」


 レイルにとっては全く関心のない話しだが、一つの疑問が出たようなので聞いていた。


「各ギルドにS級がいるの?」


 ロンダが教えてくれる。


「そう多くはいないけど、いるよ。だけど東のギルドは現在S級はいない。その代りそろそろS級に上がりそうなA級がいる」


 ロンダ曰く。

 北のギルドは言われるまでも無く、英雄級の漆黒のナギアを筆頭に鉄壁のラベルト、追随してロンダ、ルドルで決まりなので予選も何も行われなかった。


 西のギルドは、S級のアサシンで、隠密に長け、近接戦を得意とする三人のパーティ。

 そして兄弟。

 三人とも身長一六〇㎝程の細身の坊主頭で青眼、根は暗い感じがする。

 長男の、ワルドッツ・カリストーロ・ババーネ 通称カリストーロ仲間内ではカリス。

 二男の、ワルドッツ・ムルモンダ・ババーネ 通称ムルモンダ仲間内ではムルモ。

 三男の、ワルドッツ・コザルモン・ババーネ 通称コザルモン仲間内ではコザル。

 見た眼は同じに見えるが、長男のカリスはスティレット、二男のムルモはスピア、三男のコザルはショートソードを持ち、一通りの魔法か使えるが、サイレントの魔法にも長けている。


 南のギルドは、男女の二人パーティ。

 身長二mを越える戦士で大剣を持っているが、銀色の短髪で筋肉隆々、ごつい体つきから繰り出される近接戦のガントレットは、打撃力に特化し、ルドルよりも破壊力はある。

 トトバッタ・ゲインナー・ラモラトス。

 もう一人、身長一八〇㎝程の細身の美人で、肩まで生やした金髪黒眼、軽鎧を身に纏い、杖を持つ魔法士で攻防共に強力だが、物理的近接戦にはやや弱いところがある。

 メリリーン・ミミリタス・サートレア

 ゲインナーとミミリタスは、恋人なのか、夫婦なのか、単なる友人なのかは未だに不明。


 東のギルドは、A級トップ三人のパーティ。

 身長一八〇㎝程で体格のいい筋肉質の剣士。金髪青眼で濃い顔つきの、レーレイ・バッガルド・アーム。

 身長一七〇㎝程で、細身の筋肉質の剣士。黄髪茶眼でのっぺり顔の、デルドア・モルダマン・ダースマ。

 二人はミスリルの軽鎧を装備している。

 紅一点、身長一五〇㎝程のグラマーで、腰まで生やした茶髪茶眼。魔法士の帽子をかぶり、茶色の布を羽織る王道を行く魔法士、アンステン・クリステア・ラメリット。

 バッガルド、モルダマンは多少魔法も使える。

 クリステアは魔法が主だが、剣術も使え、不意を突いた攻撃には定評がある。

 現在の実力はS級と見ていいだろう。

 その他出場者は、あと数組程度だろうが当日にならないと発表されないので不明。


「どこも強者揃いってところだな。ハハハ」

「勝てるの?」

「今の所、裏の下馬評では俺たちと単騎戦のラベルトが上位の優勝候補に入っているよ」


 ルドルも肯定する。


「今の俺たちの強さは、ギルドからの折り紙つきだよ。レイルに鍛錬してもらったしラベルトも言っていたしさ。でも、油断は禁物。自分優位に全力を出せるかがカギかな」


 そんな中、やはりレイルは空気が読めないのである。


「小手調べに、ミャウも参加すればいいのに……」


 急に焦った表情で跳ね起きるルドル。


「レ、レイル。ミャ、ミャウはダメだよ。冒険者じゃないんだからさ」


 ロンダも焦った表情でルドルを肯定する。


「ミ、ミャウもレイルと同じで大会とかは嫌いだろ? そ、それに、当に申込みは締め切られているし無理だよ」

「ん? んー、そうだね」


 そして他愛のない話しが続き、落ち着きを取り戻した三人は、飯でも食おう、とギルドを後にした。

  一人取り残された形の、カウンター越しに座っているエルサ。


「あー、レイルさんたちも行っちゃったし、少し早いけど私もお昼ご飯食べようかな」


 背中を丸め両手を下に向け、カウンター下の棚から包みを出して上で広げ、嬉しそうな可愛い笑みを浮かべ、サンドウィッチを美味しそうにパクついたのだった。

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