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第43話 闘技場

 そして二日後の大会当日。

 そそり立つ立派な王城の横にある石造りの闘技場で行われ、その広さは直径一三〇m程ある円状の広場。

 広場の一段高くなった周囲には、高さ三mほどの頑丈な壁がある。

 その上に観客席が段状に設けてあり、更に同じ規模で二階席もある。

 観客に配慮した、何処からでも眺望できる形になっている。

 さすがはウイルシアン王国、と言った所か。


 今日は勿論満席で、試合前だというのに興奮しているのだろう、観客からの歓声もあり会場内は湧き上がっていた。

 闘技場内の形成は四ギルドの為に造ってあるようだ。

 東西南北からの入口があり、その横には広い控室も個別に用意されていて、闘技場が見渡せるように窓が設けられている。

 北の控室は今回、北のギルド専用になっており、ロンダとルドルが椅子に座って、つい先ほどまで脳内模擬戦闘をしているような瞑想をしていたが終わっていた。

 そこに、内通路からの扉が開かれ、装備しているラベルトが用紙を持って入って来た。


「大会の出場選手の発表があった。おおよその見当通りだ」


 ロンダは槍を膝斜めに立てかけ磨き始めている。


「ま、そんなもんだろうな」


 ルドルは一本一本、矢に魔法を練り込んでいたが、何か思い立ったように手を止めラベルトに振り返った。


「で? 今回の大会は、他に目新しい奴はいたのか?」


 ラベルトが頷きながら椅子に腰かける。


「西に一組いたよ。それも女二人の冒険者。A級に昇格したばかりのサリアとオリナだ。ワルドッツ三兄弟は当然だけど、その二人は相当強いらしく、西では予選が開催されて苦も無く勝ち上がったらしい。その力量はS級並みと言う噂もあるとか」


 ロンダは槍をテーブルに置き、投げ針に魔法を練り込み始めようとしたが、手を止めラベルトにうつむいていた顔を見上げるように振り返った。


「へぇ。期待の新人か。組み合わせ次第だろうけど、俺の希望ならその有望株と手合せして見たいものだな」


 そしてラベルトが、紙に書かれた試合方法を読む。


 試合方法

 始めに勝ち抜き戦でパーティ戦を行い、勝者が決まった後で個人戦を開催する。

 対戦相手は開幕してから直前に発表される。

 ラベルトが闘技場を見て立ち上がる。


「そろそろ時間だ。行こうか」

「ああ」


 ロンダ、ルドルも立ち上がり直接出られる扉から場内に向かい、紙をテーブルに置いたラベルトが、その後ろを歩く。

 他のギルドからも既に出場選手が闘技場内に出ていた。

 四方から城を対面すると、隣の王城の上部観覧席から国王と側近たちが、豪華な椅子に座り優雅に眺め、見下ろしている。

 その横に立つ貴族風の進行役が、城内に届かんばかりの張りのある声を上げる。


「ただ今より! 対戦大会を執り行う!」


 興奮した観客席から、更に歓声が沸き上がった。

 ロンダ、ルドル、ラベルトは、同じ仕草と言えば同じなのだが、いつものように、三者三様に髪を掻き上げ、余裕の平常心で見渡している。

 西のワルドッツ三兄弟は、さっそく気配遮断を掛け、不可視化の魔法で半透明になって目立たないようにしている。

 もう一組のサリアとオリナは、レイルを探すためなのか興味本位で参加したので歓声に圧倒され、観客席を見上げ見回していた。


「オ、オリナ? す、凄いね」

「う、うん、圧巻だよ。これなら早くレイルも見つけられるかもしれないね」

「そ、そだねー。見つかったらいいね」


 並んでいるサリアの赤い装備とオリナの濃紺の装備も、いい色合いなのか眼を引いているようだ。


 南のゲインナーとミミリタスは、既に戦闘態勢が整っているかのようで、闘気むき出しで他の選手たちに威圧を掛けていた。


「ミミリ。てっぺん取るぞ」

「わかっているわよ。フン」


 やる気満々のように見える二人。


 東のバッカルドたち三人組は、周囲の歓声や他の参加者を気にしないで、向かい合って何やら打合せ中だった。

 三人の集中力が高いのか、場の空気が読めないのかは定かでは無いが。


 各ギルドの状況を見下ろしていた進行役が、頃合い、とばかりに声を発する。


「それでは第一試合を発表する!」


 そう叫んだ時、空から会場の中央に落ちるように降り立つ者がいた。

 いや、一人では無く五人。いや、一人と四体と言った方が正確だろう。

 黒く大きな羽の生えた黒い貴族風の男と、体長三mで顔の無いどす黒く大きい巨人四体が、土煙を上げる中に立っている。

 黒い四体の巨人は咆哮を上げ、各ギルドに向き、威圧を掛けている。

 その中央に立つ身長二mほどの男は、両手を広げ不敵な笑みを浮かべている。


「クフフ、待っていましたよ、この時を。この場においてこの国の強者を倒し、駆逐し、殲滅し、見ている者たちに我が力をお披露目し絶望を与えましょう」


 各ギルドの代表たちは、さすがに肝が据わっていると見え、相手を見据えたまま状況を冷静に見て分析しているようだ。

 見下ろしている進行役の男が狼狽える。


「こ、国王。如何いたしましょうか」


 ウイルシアン国王は、冷静に静かな声で答える。

 ただ、その話し方は何者かに操られているように眼が泳ぎ不自然だった。


「やらせてみては良かろう。勝てるに越した事はない。が、勝つか負けるか、その間に我が国の兵を集結させればよかろう」

「ハッ、畏まりました」


 進行役の男が会場に向き直る。


「ウイルシアン国王の許しが出た! 各代表は現れた戦い魔物に勝利せよ!」


 慌てどよめき、悲鳴が上がって今にも逃げようとしていた観衆が、その一声に、選手たちを応援するように湧き上がった。

 黒い貴族風の男は、こうなることを予測し、知っていたかのように待っていたのだろうか。


「クフフ。では参りましょうか。お前たち皆殺しにしてやりなさい」


 その一声で、四体は四方に散り襲いかかった。

 同時刻で起こった戦いを遡りながらお伝えしよう。


 北のラベルト、ロンダ、ルドルに突進する巨人。距離はまだ五〇mはある。

 三人は焦ることなく、先にルドルが動く。

 弓の弦を大きく引き、巨人に向かって光る魔法の矢を放つと鋭く勢いよく一直線に飛び出すが、巨人は太い腕で簡単に薙ぎ払った。


「よし、掛かった」


 巨人の腕には、隠されるように放たれていたもう一本の矢が突き刺さり、轟音と共に大きく爆ぜた。

 片腕を失う巨人は一瞬躊躇したがそれでも向かって来る。

 一方ロンダとラベルトは、既に動きルドルの攻撃に合わせ左右から切りかかる二人。

 その速さに巨人の一瞬の判断が鈍り、付け込むラベルトは、瞬時にもう一本の腕を力強く切り落とし、槍を構え踏み込んだロンダが、S級ならではの凄まじい連撃で頭から胴体に掛けて貫き一瞬で倒した。

 ラベルトが剣を担ぎ、黒い粒子のような煙になって消えて行く巨人を見る。


「ま、こんなもんだな」


 ロンダも槍を担ぎ髪を掻き上げる。


「フゥ。ルドルの一手が決め手だったな」


 後方のルドルも弓を背中に戻し、片手で髪を掻き上げた。


「三人がかりだからな、勝って当然。他はどうだ?」


 三人が三方を見る。


 西のギルドに向かって突進する巨人。対するはワルドッツ三兄弟――。

 ではなくサリアとオリナ。

 三人の姿は既に消え、不可視化の完全気配遮断を掛けているようだ。


「えー? オリナ、三人がいないよ」

「仕方がないわ、二人で戦うしかないでしょ」

「何よs級のくせに逃げるなんて。サイテーッ」

「今さら何言っているの。サリア、行くよ」

「う、うん」


 二人は剣を構えれば、巨人が勢いを利用し、太い棍棒のような腕を振りかざした。

 当たればただでは済まないほど速く勢いのある腕。

 構えるサリアは至って冷静で、自ずと紋章を光らせ真面に剣で受けた。

 鈍い金属音と共に後方にずり下がったが、本来であれば簡単に吹き飛ばさせるような巨人の怪力を受けきったのは、レイルのお陰なのだろう。


「オリナ! こいつ強いよ!」

「ハァッ! 倒すよ!」


 サリアが受けている巨人が、もう片方の腕を振り上げ、サリアに叩きつけようとしたが、眼にも止まらない速さで動いていたオリナの方が一手速かった。

 オリナの剣が巨人の動体を切り裂く――が、硬かったのか思いのほか浅かった。

 だがしかし、巨人の腕を剣で薙ぎ払ったサリアが、力強く踏み込み切りかかれば一刀両断に巨人の腕を切り飛ばし、息の合ったオリナも、一瞬躊躇した巨人のもう片方の腕を切り落とした。

 巨人はなお、二人に威嚇の咆哮を上げる。

 刹那、巨人の傍で姿の現したワルドッツ三兄弟は狙っていたように、カリストーロが頭、ムルモンダが首、コザルモンが胸を突き刺し倒した。

 断末魔の咆哮と共に黒い煙になって消える巨人を見るカリストーロ。


「フン。百年、はええよ」


 今更ながら、戦っていたサリアとオリナは囮だったようだ。

 サリアは怒ったような呆れたような表情で、剣を三兄弟に向ける。


「ちょっとー。それって酷くない? 私たちは囮だったの?」


 言うや否や聞く耳持たずに気配遮断を掛け、三人はまた消えて行く。

 サリアは剣を振り、不満顔だ。


「もぉー、何それー」


 やり取りを見ていたオリナは冷静に、剣を鞘に納めた。


「いいじゃない、サリア。私達のノルマは終わったのだから」


 サリアも諭されるように剣を鞘に納めた。


「んー、もういいや。所で他の人は倒したのかな」

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