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第27話「不安也」

 ソドゴ伯爵領に所在するヴィエナ支部のギルドマスター、ジャック・ドノバンはギルドの自室にて急な来訪者と面会をしていた。その相手とはテロ対策班の現場指揮官であるホーク・トマーソンである。



 「・・・・成程、どおりで極秘任務で行動している筈の君が、堂々と訪ねてくる訳だ・・・それで?私達にどうしろと?」



 ホークは王都を出発する前、ヴィエナ支部のギルドに所属するハンターを束ねるジャックに予め事情を伝えておいた。極秘任務である為に表立った協力は依頼せずに情報の提供だけを依頼していたのだが、ここが今回の任務の正念場であると捉え、ジャックに捜査の進展報告と新たな情報の提供を求めて伺ったのであった。



 「国立劇場襲撃テロの前後10日間のハンターの動向が知りたいのです。最初、私共はストレンジャーが獣人のソロハンターか若しくは獣人のみで構成されたパーティーを中心に絞って捜査していました」


 「ふむ・・・・奴隷解放戦線の元メンバーである可能性が高いと予測していた事までは聞いている」


 「ハイ、それは奴隷解放戦線とストレンジャーに共通する未知の魔法をヒントに当たりを付けていたんですが・・・どうやらそれは勘違いだったようでして、昨日になってそれに漸く気付いてこちらに伺った次第でして」



 ホークはバツが悪そうに頬を掻くと、ジャックはホークの勘違いと云う言葉と、急に面会に来た訳が結びつかず問いただした。



 「それで何故、急に面会を?」


 「ハイ、それは隠れて捜査する必要が無いと確信が持てたからこそお伺いしました」


 「・・・確信?」


 「ハイ、先程お話した通り、私共は元奴隷解放戦線の元メンバーである事を疑っていました・・・ですがそれは有り得ないと云う事に気付きました・・何故ならば、先日のトロールの襲撃の際のストレンジャーの行動が不可解だからです」


 「不可解?理由を聞いても良いかね?」


 「ハイ、ストレンジャーがもし元メンバーであったのなら、人間族が主であるハンター達を助ける為にわざわざ我々に居所が判ってしまう様な危険な真似はしませんよね?キマイラを召喚すればどう考えても先日のテロと結び付く事は明白なのですから・・・・」


 「・・・・成程、確かにそう言われればそうだが、それでもストレンジャーが国防省の呼び掛けに応じないという謎は解けていないと思うのだがね?」


 「それは奴が使う魔法がオリジナルの魔法だからですよ。奴は自分が持つ魔法(オリジナル)の価値を知っているからです」


 「ふむ、一応の説明は着くか・・・だがそれでもストレンジャーがそちら側に着くとは言い切れんのじゃ無いかね?」


 「確かにそうですが、それは彼が逃げ切れればの話です・・・実はもう既に目星は付けてありましてね、この後の調査で裏付けが取れれば今日中にも確保出来るでしょう」



 ジャックは、ホークの自信満々に確保出来ると言う言葉に疑問を持った。何故ならば、相手はキマイラを簡単に捕獲して使役する事が出来る様な相手であり、確保の際にキマイラの召喚を許せば、ヴィエナの街は壊滅的なダメージを受ける事になってしまう。だがそんな事は当然ホークも承知している筈なのだが、目の前の男の顔には一切の迷いが感じられなかった。


 ジャックがホークの顔を訝しんで見ていると、ジャックの内心が解ったのかホークは小さく笑みを浮かべ、疑問に答える。



 「なに、あやつはキマイラを召喚する事は無いでしょう。何故ならば先にこちらから先手を打つからです・・・・」



 ホークはそう言って笑みを浮かべると、懐からビー玉サイズの球を取り出した。



 「・・・・それは?」



 ジャックはその玉を見ても、魔道具の類である事位しか判らず、ホークに問いかける。



 「これは、国防省と魔法省が開発した魔封球です。今までの魔法付与(エンチャント)した道具と何が違うのかと云う具体的な説明は出来ませんが、この魔封球の中には、強力な麻酔効果の魔法が込められています。この球が5個あれば下位のドラゴンであれば昏倒させる事も可能です。人間ならばこの球の3分の一でも十分過ぎる程のお釣りが来ます」


 「そんな物が・・・・」


 「とは言っても、この麻封球は開発途中の段階でしていくつか問題があります。この球は発動に時間が掛かります。それと一旦発動させてしまうと無差別に発動してしまう為に、この球から半径5メートル以上は離れなければならないと云う制約があるのです・・・ですから、予めに発動させおいて対象を有効範囲に誘導しなければなりません」



 当初、ホークは王都を出立する際に対ストレンジャー戦を想定して用意しておいた物であったのだがそれでも不安はあった。何故ならば、キマイラがこの数の麻封球で十分な効果が得られるかどうか判らない事と、仮にストレンジャーと接触が出来た場合、自分達にとって都合の良い場所に誘導出来るかが判らなかったからだ。


 接触した相手が替え玉であったりしてストレンジャーだと確信が持てない以上、迂闊に切り札である麻酔球を使う訳にもいかず、仮に本物であったとしてもキマイラを召喚した後に昏倒させてしまった場合には、キマイラの暴走を止める事が出来なくなってしまう。


 対キマイラ戦として用意をしておいたのだが、開発中の魔道具であった為に量産が出来ておらず、三個しか持ち出す事が出来なかった。


 だがしかし、犯人の目星が付いた事に依って人物像や思想が見えてくれば、行き当たりばったりな作戦では無く、具体的な麻封球の使用を想定した作戦が練れる様になり、作戦成功への目途が着いたのだ。


 

 「では、これで失礼致します。御協力感謝いたします」



 ホークはジャックから資料を受け取るとすぐさま宿へと戻った。部屋には部下に頼んで調べて貰った資料が置いてあり、その資料をペラペラと捲って確認すると満足そうに笑みを浮かべる。


 

 「やはり、私の考えは間違っていなかった訳だ。さて、どうやっておびき寄せるべきか・・・・」



 ホークは街の見取り図を参考にしながら作戦を練り始め、ある程度の作戦の目途が経った頃には、外はすっかりと陽が暮れていたのであった。



 「・・・・決行は明後日だな」



 ホークは窓から見える景色を眺めながら小さく覚悟を決めるのであった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 あくる日の朝、八千代達は森の奥部で数日間の狩りを行う為に西門へと出発していた。八千代達は早朝に宿を後にしたのだが、眠た気な表情をした者は誰一人としておらず、一人一人が楽しみ半分、怖さ半分と云った表情で森へと足を運ぶのであった。



 道無き道を歩みつつ魔物を狩りながらも順調に森を進み、夕方前には中域を抜けて森の奥部へと到達すると、立ち止まって辺りを見回す。ここからは八千代達にとって未知の領域であり、上級の魔物達が蠢く魔窟の始まりでもあった。



 「今日はこの辺で切り上げて明日の朝から探索を開始すっか。薪はもう十分収納してあるしさっさとテント張っちゃってゆっくりしよう」



 これから更に森を進んでから野営の準備をするのは困難だと判断し、テントを張り始める。この日を想定して事前に薪を収集しておいたお陰もあって、大した時間を掛けずに野営の準備が終わる。


 お湯を沸かしてコーヒーを飲んで一息つくと、八千代は見張りの順番や明日の予定を確認する。



 「まだ入り口って言っても、もうここら辺は初めての場所だからあんまり気を抜かない様にね?予定通りに見張りの順番はカミユたん、ミュミュちん、俺の順番でいこうか。取り敢えず明日の狩りは様子見に一匹ずつ相手していって、慣れてきたら次の日にもうちょい進んで本格的に狩りに入ろう」


 「解りましたニャ。それにしても、ニャんか本格的に狩りって感じがしてワクワクしてきましたニャ」


 「今までの景色と大して変わらないのに、いつもと雰囲気が違う様に感じますね・・・不思議です」



 ミュミュは猫族だからなのか、好奇心が旺盛で好戦的な笑みを浮かべており、ミュミュは少し不安気な表情を浮かべながらも、未知の領域に対する心境の変化をどこか楽しんでいる様に見えた。


 奴隷であった頃には思い浮かべる事すら無かった自分達の現在は、好奇心と不安と期待に満ち満ちていた。始めの頃は八千代に頼った戦い方であった為に自分達の事を非力だと感じていたのだが、戦闘に慣れて心にゆとりを持ち始めると、ハンター生活が段々と楽しく感じられる様になっていたのであった。


 本来、危険や労働を嫌う八千代であったが、日毎に活き活きとした表情を浮かべる彼女達を見ている内に自分も狩りを楽しむ様になり始め、これまで現実(リアル)の友達を作ろうとしてこなかった八千代も、今の生活に生き甲斐を見出す様になっていた。


 そのまま夜になると食事や入浴を済ませた八千代達は、予定通りに見張りを付けながら就寝に入り、焚火をしながら夜を過ごす。


 深夜、カミユと見張りを交代すると欠伸をしながら焚火の前に座り、ミュミュが淹れてくれたコーヒーを飲んで眠気を覚ましながら話をしていた。



 「どう?この生活にも慣れてきた?」



 八千代は以前から気になっていた事をミュミュに聞いてみた。ミュミュ達は高い身体能力を持っていたとしても女性であり、まだ十代の少女なのだ。八千代はこの世界の奴隷の常識は知らないし、扱い方も知らない。これまで自分が読んできたラノベの主人公は、平然と奴隷の少女達を戦闘に参加させてきたのを当たり前の様に読んでいたが、実際に自分が使う立場になってみると、怪我をしないか不安で仕方無かったのだ。


 至って普通の一般人である八千代からすれば、少女を危険な魔物と戦わせると云う扱いは良心の呵責があり、それに対して密かに自分の事を恨んでいるかも知れないと思ったのであった。


 八千代はそう言って尋ねるのだが、自分の心境が表情に出ていたのか、ミュミュは八千代の眉間に寄った皺をほぐす様に指を当てると、小さく笑みを浮かべて答え始める。



 「ご主人様は奴隷ニョ私達に優し過ぎますニャ。私もカミユも優しい主人に仕える事が出来て凄く幸せですニャ・・・」



 ミュミュは世辞では無く本心からそう思っていた。八千代は自分達に対して狩りに関係する事以外で命令する事は無かったし、その狩りの時でさえも自分達の身を案じて気を使っていてくれている事を実感していた。


 そうして不安そうな表情をしている八千代の手を優しく握りながら言葉を続ける。



 「これからもよろしくお願いしますニャ、優しいご主人様♡」



 そう言って首を傾けて笑みを浮かべるミュミュであった。

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