第20話「八千代ガールズの事情也」
ヴィエナの街を魔物から守護している西門から森へ入って約1キロ地点、八千代達は修行を兼ねた狩りを行っていた。当初、ある程度の目途が立てばすぐにでも家探しの旅に出ようかと考えていたのであったが、現在住んでいる宿の一室を1年借りる契約をしていた事を思い出し、ならば1年間は修行して頑張ろうと狩りに明け暮れるのであった。
「ニャアッ!」
「良しっ、良いぞ!カミユちん顔を狙うぞ!」
「は、はいっ!」
今、八千代達が相手しているのはゴブリンである。まだ戦い始めて時間は経っておらず、足元には既にゴブリンメイジ1匹を合わせた計5匹のゴブリンが転がっていた。遭遇時、八千代がアイテムボックスに収納していた魔法で5匹を瞬殺し、残り1匹を連携の訓練に充てていた。
八千代が提案した連携の訓練内容は、カミユのボーガンで傷を負わせ、ミュミュが正面から切り付けてゴブリンを釘付けにし、その隙に八千代とカミユの2人の槍でとどめを射す。この訓練を朝から行っており、相手を変えながら5回ほど繰り返していた。
最初こそ怖がって及び腰で戦う2人であったが、4回目ともなると恐怖心は薄れて本来のパフォーマンスを発揮しだしていた。
そして、槍の一撃に沈んだゴブリンの生死を確認すると、八千代が2人の能力の高さに関心しながら討伐部位を採取し始める。
「いや、最初こそビビってたけど全然いけるじゃん。もう、ゴブリン一匹程度なら余裕で倒せるな。今度は2匹同時でやってみるか」
八千代は2人の働きを素直に称賛する。獣人の基礎能力は普通の人間族に比べて高い。ミュミュは反射神経が鋭く動体視力も並外れている為、攻撃が一切当たらなかった。
ミュミュは狐族ではあるが、狐は犬並に鼻が利き持久力も高い為に敵の発見も早く、ここまで全ての敵に対して先制攻撃が出来ていた。また一度遭遇した敵の匂いも記憶するので戦闘前から作戦が立て易く効率が良い。
そんな2人の予想以上の能力に感嘆していた八千代は2人の実力上げる為、尚更張り切っていた。
「この調子だったら、来年までに二つ星へランクアップも夢じゃ無くね?」
「ご主人様のお陰ですニャ」
「そ、そうですご主人様が居るから安心できます」
「いやー、そう?俺そんな凄い?」
美女少女2人に褒められ浮かれる八千代であったのだが、八千代自信もアイテムボックスだけでは無く、ちゃんと槍を使って直接戦闘に参加していた。
当初2人の能力に付いて行けるかどうか不安であったのだが、連携を取る事で八千代自身も余裕が出来、自分の想定よりも良い働きが出来ていた。ずっとアイテムボックスで過ごしてきていた為に槍を使った戦闘は一切してこなかったのだが、ここに来て連携を取って戦う事に面白味を感じる様になっていた。
半ばゲーム感覚が抜けていないのだが、この直接的な戦闘行為に対して恐怖心が薄れていた事は、後の八千代達に大きな意味を持つのであった。
そうして、今後は同時に2匹を相手をする方向で話を決め、30分休憩した後に行動を再開する。それから暫く森の中を徘徊していると突然ミュミュが立ち止まり、魔物が接近している事を報告する。
「ご主人様、何か来ます・・・・数は一匹・・・・嗅いだ事無い匂いです」
カミュの報告を聞いた八千代は、瞬時に指示を出し始める。
「カミユは俺の横でボーガンの準備して魔物が現れたらすぐに射ってくれ、それで射った後はすぐ後ろに隠れて待機、ミュミュはカミユとそのまま後ろに下がって一旦待機な・・・・何の敵か判るまでは前に動くなよ?」
「「はい」ニャ」
そうして2人に指示を出した後、アイテムボックスを展開させて油断する事無く構えていると、遠くの方から葉を揺らし、木を折る音が聞こえ始めるとそれと同時に地響きがしだした。遠目からでもハッキリと分かるぐらい巨大なシルエットが浮かび上がり、その巨大さに驚きつつ冷や汗を掻くも逃げる事はせずに手に持った槍に力を入れる。
そうしてその巨大な魔物が目の前に現れると、改めてその巨大さに驚く。
「で、でけえ!何だこのニワトリ!?」
八千代達の目の前に現れた魔物は高さにして5メートル近くはあるニワトリだった。その時八千代は気付かなかったがその魔物の名はコカトリス、石化のブレスを吐く凶悪な魔物だ。長く鋭い爪を持ち、両の頬には赤い瘤の様な物が垂れ下がっており、巨体の上に意思を感じさせない鳥目がより一層不気味に感じさせられる。
カミユはコカトリスが現れたと同時にボーガンをコカトリスの胸に射出するが、厚い羽毛に阻められ突き刺さらずに地面に落ちる。
「そんな、刺さらない」
「カミユ下がれ!」
呆然としているカミユを手で制した八千代は前に出ると、その瞬間にコカトリスは大きく胸を膨らませて息を吸い、両頬の赤い瘤が瞬時に膨らみきったと同時に煙を吐き出す。
八千代はその吐き出した煙を見た瞬間、瞬時に危険だと判断し、脳内リストから風系魔法のウィンドウボールを選択して大量に放ち、煙を風の質量で押し返して霧散させる事に成功したのだが、その瞬間にもコカトリスは猛然と近付き八千代に嘴で攻撃する。
「うおっ!・・・・危ねえ!・・・ちょっ!!」
コカトリスは2度・3度と八千代を狙って嘴を振るい地面に大きな穴を穿つ、八千代は体制を崩しながらもギリギリで躱してコカトリスの攻撃を凌ぐ。
そしてそんな八千代に構わず再三の攻撃をしようとした瞬間、八千代はアイテムボックスの空間から巨大な水の塊をコカトリスに放つ。放たれた強烈な水魔法は、コカトリスの巨体を宙に浮かせながら猛烈なスピードで吹き飛ばした。
「バキッ!バキッ!バキバキッ!バキッ!ドカァアッ!!」
吹き飛ばされたコカトリスは、何本もの木をへし折りながら飛ばされていき、一際大きな木に轟音を立てぶつかり停止する。ぶつかった衝撃で木の葉が舞い落ちる中、ピクピクと痙攣していたコカトリスはそれ以降動く事は無かった。
「・・・・す、凄い」
「・・・・・・・・」
カミユは八千代から放たれた強烈な魔法を見て思わず呟き、ミュミュは目を白黒させて絶句していた。
八千代がアイテムボックスから放った水魔法は、ブルードラゴンから吸収したウォーターブレスであった。その威力は毎秒約10トン近くもあり、一瞬だけの射出とは言えその威力は凄まじく、コカトリスの巨体は全身の骨が粉々になったのか穴と云う穴から血が溢れ出していた。
「フファハハハハハ!見たか鳥公!この俺の実力を侮るからこうなるのだ!」
八千代は腰に両手を当て、森中に響き渡る様な大きい声で高らかに笑った。やがて満足すると2人を促してコカトリスを回収する。
「良し、肉を切り分けるか・・・・・ん?どしたん?」
八千代が意気揚々と素材を回収しにコカトリスの元へ行こうとするのだが、2人が付いてきていない気配に気付いて振り返ってみると、2人は驚いたまま停止していた。
「ご、ご主人様って・・・な、何者なんですか?あ、あんな凄い魔法見た事無いです・・・もしかしてご主人様ってもの凄い魔法使いなのですか?」
再起動したカミユは興奮していつも以上に口数が増えていた。そしてミュミュはと言うと・・・・
「・・・・・・・」
・・・暫くの間は再起動しなさそうだった。
ミュミュの頬を叩いて強制的に再起動をさせた後、数時間を掛けてコカトリスの素材を回収する。ミュミュは数分間の記憶を無くしたのか目の前の鶏肉に目を輝かさせていた。
漸く解体作業が終わって手に入れたコカトリスの肉の総量は約1トン近くもあり、3人で運べない事もあってアイテムボックスに入れるしか運搬方法が無いのだが、そのままギルドで取り出す事も出来無い為、自分達で消費する事に決めたのだった。
「ほ、ほらっ!鶏肉美味いしさ、皆も好きだろ?確かにちょっと量はあるけどアイテムボックスだったら腐らないしさ・・・・あっ!そうだ今日は鍋にしよう鍋に、ルナちゃんとか誘って皆で喰えばすぐ無くなるっしょ?」
「「・・・・・・」」
八千代の諸事情で大量の鶏肉を消費しなくてはならなくなった八千代ガールズは、暫くの間は鶏肉が続きそうだと考えて気が滅入っていた・・・鶏肉が好物のミュミュとは言っても流石に1tは無いと引いている。
ちなみにハンターは肉屋に勝手に売買する事は出来ない。その身に毒を含んだりする魔物もいる場合もあり、一度ギルドに提出して検査する必要がある。
コカトリスに毒が無いのは周知の事実であるのだが、余計なトラブルと食中毒等といった衛生管理の為、モンスターの肉を捌いたりして売買する為にはフグの様に国家資格を取得しなければならない。
過去、借金に窮したハンターが得体の知れ無いモンスターの肉をドラゴンの肉だと偽って販売して集団食中毒を引き起こした例があった。それ以降、国によって法が敷かれる様になったのだ。
森を後にしたヤチヨーズ一行はコカトリス以外の素材を換金し、その夜にルナ達家族と一緒に鍋をつついた。
お風呂に入ってからまったりとしていた時、ふと八千代は今日の稼いだお金を分割し、2人に渡そうとしたのだが、何故か拒否されてしまった。理由を聞いてみると・・・・
「ご主人様にょお気持ちは嬉しいです。でも受け取れにゃいですにゃ」
「は?何で?」
「お、お金を受け取ったら私達の意味が無いです」
「ん?どう云う事?」
彼女達の話では、奴隷が給与や報酬としてお金を受け取ってしまうと例え奴隷契約を交わしたとしても雇用関係になってしまう。お金に見合った働きをしなければ何かトラブルが発生した場合、放出されるかも知れないので受け取れ無いと言ってきたのだ。
八千代はそんな事は絶対にしないと言って説得しようとしたのだが彼女達は頑なに拒否を続け、渋々八千代は了承する。
彼女達は長年の奴隷生活が身に染みており、万が一にも自分達が手放されない様に八千代にとって都合の良い奴隷で居たかったのだ。彼女達にしてみれば何の技術も無く学も無い人間が一般社会に出たとしても成功する目途は無く、親元に帰る事も出来ない為、このまま理想的な主人である八千代に保護してもらった方が都合が良いと考えていた。
打算的な考えではあるのだが彼女達を責めるのは酷と言える。この世界は男性優位の世界であり、女性が働ける職場は両手で数えれるくらい少ない。彼女達が一般社会に出ても働き口が少なく再度奴隷になる可能性があり、ただ単に奴隷生活から解放されれば良いと云う訳では無いのだ。
そうした社会背景もあって彼女達はお金を受け取らない事を選択した。
結局、必要に応じてお小遣いとして渡す事で話は決着して就寝するのであった。
その夜、八千代は彼女達の取り巻く事情に少し気落ちしたが、彼女達が寝入ったのを確認すると、しっかりとオッパイを堪能してから目を閉じた。




