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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
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5.臨戦態勢―12


 霧島雅が一四人に加わるまで、恭介は霧島雅を睨んだままだった。そして何度かバリアを叩いた。霧島雅が連中に混じってやっと、恭介は数歩下がってバリアの全体像を見た。

 練習場の後部を入口からの全部と隔てるように天井にまで綺麗に張られた。薄く青みのかかった物理的な何かで作られたバリア。それが、超能力によるモノだという事はハッキリと分かった。

 霧島雅が混じる一五人が超能力者だという事も明白だった。恐らくはその中の誰かの超能力が、このバリアを生み出しているのだろう、とすぐに気付いた。

 霧島雅はこのバリアが物理的にだけでなく、超能力の干渉も許さないと言った。そのせいなのか、バリアの遥か先、練習場の中央辺りで固まっている一五人は、動く様子を見せなかった。まるで、何かが来るのを、起こるのを待っているかのように、だ。

 場の雰囲気は異様だった。バリアの中に押し込められたNPCのメンバーも干渉出来ない事を分かってしまっているようで、それぞれがそれぞれの落ち着く形でその場に留まっていた。恭介があれやこれやと考えている内に琴が話を訊いて回っていたようで、琴と桃が皆より数歩前に出ていた恭介の下に駆け寄ってきた。

 琴が言う。

「タイミングが最悪だね。幹部格の人間は見る限り、私しかいない。他の人間は任務で出てるんだって」

 続けて、桃も言う。

「あと、流さん。確かに日本本部内にいるらしいんだけど、ここには来てないんだって」

「……本当に最悪のタイミングだな」

 と、恭介が呟いたと同時だった。

 バリアが、消滅した。そして、聞きなれた声が練習場に響いた。


「全員、動くな」


 その声の主は、練習場の入口にいた。全員がその視線の方向を見た。そこにいたのは、流と、一人の男。正確に言えば、流と、流に銃を頭に突きつけられた男だった。

「セツナ!」

 一五人の中から、声が上がった。霧島雅の声だったようだ。どうやら男の名はセツナというらしい、と恭介達が察した。流によってとらわれている男は、忌々しげに表情を歪めているが、何もしない。何も、出来ない。

 バリアが消えた。だが、誰も行動出来ていない。

 それが、『流の超能力』であるからだ。

 NPCには零落希華、液体窒素と呼ばれる最強の戦力がいる。だが、その最強の戦力でさえ流には叶わない。何故か。簡単な話だ。『流の超能力が全ての超能力を上回っている』からだ。

 流の超能力の名は『封印』。全ての超能力の発動を許さない、最強の超能力である。

 流はニコニコしながら、セツナの頭に銃を突きつけたまま、一五人の下へと到達した。そして、セツナを解放し、一五人の中に押し込むように突き飛ばした。

 銃は連中に向けたまま、さて、と、と流が言う。

「もう分かっているとは思うが、俺の超能力『封印』によってお前らは今、超能力を使えない。ま、それは内のメンバーも一緒だけどな。ははは」

 そして、

「目的は訊いた。零落希美だってな」

 流が言うと、その言葉に反応した人間がいた。当然、霧島雅だった。彼女は数歩前に出て、叫ぶように言った。

「そうだ! 私の前に零落希美を連れてこい! 今すぐ殺してやる」

 動くな、とセツナが彼女の肩を抑えたが、霧島雅はいきりたっていた。だが、セツナによって、霧島雅はなんとか踏みとどまった。踏みとどまらなければ、流によって殺されていただろうが。

 霧島雅が落ち着くのを待って、流が言う。

「どうして零落希美がNPC日本支部(ここ)にいるって分かったのかは知らんが、そこまで知ってて、何故知らないんだ。彼女の状態を?」

 会話の内容が、恭介達には理解できていなかった。ただ唯一理解出来ていたのは、幹部格である琴だけだった。が、彼女は説明しようとはしなかった。そもそも、説明している暇なんてない。

 流の言葉に、ジェネシス幹部格の連中は全員頭上に「?」と浮かべていた。何を言われているのか分かっていないようだ。

 そんな連中の様子を見て、流は嘆息し、そして、説明してやった。

「零落希美はどうやっても今、殺せない状態にある。俺がいなければな」

 この場にはNPCのまだ真実を知らないメンバーもいる。だから、濁した。核心を付けば、パニックに陥ってしまう可能性もあるのだから。

 流のその目を見て、ジェネシス幹部の連中はその言葉に含まれる真実までは探れなかったが、殺せない、という事実だけは認めた様だ。霧島雅が忌々しげな表情でくそ、と呟いているのを見れば、明白だった。

 沈黙が一瞬訪れたが、その沈黙は流の声で消し飛ばされた。

「で、お前ら、零落希美に対する目的が果たせなくなった今、ここに留まる理由はあんのか? この場にいる全員が超能力を使えない。銃を持っている俺が一番有利だ。それに、この場にはNPCとして格闘訓練を積んだ人間が四○ぐらいかな、いるんだ。勝てると思ってるわけがないよな?」

 流が笑った。それは、油断している訳ではない。自信の現れでもない。どんな状況でも、流は笑って見せる。そういう男だ。彼は、神威業火と一対一で対峙しても、こうやって笑って見せるだろう。

 流の言葉に対して、応えたのはセツナだった。その様子を見て、その男が幹部格のリーダーだということが皆に伝わった。

「我々の目的が、ただ唯一だと思っているなら違う。ついで、ではないが、できたら十分な成果だ、という事情もある」

 その言葉に、そのセツナの表情に、流の笑顔が断ち切られた。

 長い間。長い長い間。遠い昔、遠い昔から、保険を掛けていたのが、神威業火だった。

 神威業火は郁坂流がどんな人間か、知っている。また逆も然り。故に、流が味方を疑うとは思わなかった。だから業火はいつか使う時が来るかもしれない、とNPCに、流の味方に自分の仲間を潜ませて置いた。

「銃を置いてください、流さん」

 声が、聞こえた。そして、光景が見えた。男が、恭介の後頭部に銃を突きつけているその光景が。

 男は、誰もが知っている人間だった。須佐義明すさよしあき。飛行能力の持ち主である。

 恭介は振り返ることが出来ない。そして、周りの人間も動けなかった。琴が恐ろしい程の表情で須佐を睨んでいるが、それでも、動けはしない。しなかった。

「ッ、須佐……」

 流が銃口を床に降ろし、悲しげな表情を見せた。まさか、仲間から裏切ち者が出るとは思っていなかったのだろう。もとより、須佐は最初からジェネシスサイドの人間だが。

「銃を捨ててください、って言ってるんです」

 銃口をずい、と恭介の後頭部に押し付けて、須佐はもう一度言った。その静かな脅しは、練習場に響いた。そして、

「ダメだ! 親父!」

 恭介は叫ぶが、流は、その手を離し、銃を下ろした。

 銃が床に落ちる乾いた音が響いた。

「蹴って渡せ」

 須佐の言葉に従い、流は足元に落ちた銃を蹴り、床を滑らせてセツナの足元に到達させた。セツナがそれを拾った所で、流が、

「やはり、避けられない運命なのか」

 と呟いたが、誰にも聞こえてはいなかったようだ。

 銃を拾ったセツナが銃口を流に向けた事で、須佐が恭介を脅す必要がなくなり、須佐はジェネシス幹部格の人間達の下に向かった。だが、

「お前はもう必要ない。長い間NPCにいすぎたんだ。情でも抱いていたら面倒だからな」

 そう言ったセツナが、振り返りもせずに放った弾丸に額を打ち抜かれ、一五人の下に混じる事はなく、動けないNPCメンバーとジェネシス幹部の間辺りで、床に落ちた。

 突然の出来事に数名は悲鳴を上げたが、それもすぐに収まった。悲鳴をあげている場合等ではないからだ。琴だって、解放されたばかりの恭介に駆け寄って大丈夫の一言でも掛けたかった。だが、状況が状況だけに我慢していた。

「さて、形勢逆転だ。郁坂流。俺達のもう一つの目標。分かるか?」

 セツナが銃口を流へと戻し、静かに問うた。

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