5.臨戦態勢―13
それに対して静かに応える流。当然、分かっていた。
「俺、だろうが」
「そうだ」
セツナは即座に首肯した。
超能力者はその力を秘匿にし、一般人の無能力者にその力を察されてはならない。それが、暗黙の了解だ。だが、連中は一度ならず二度までもNPC日本支部、そしてその上部にそびえ立つ相川高校を襲撃したのだ。一般人を巻き込んでいる。そこまでして、挙句、今回は幹部格が総出で揃っているのだ。
目的は当然、NPCの壊滅。頭を潰せば、身体の動きが止まるのを待つだけだ。故に、流となる。
「おっと、超能力の封印とやらはとかねー方がいいぜ。俺達はお前らの幹部格とやりあえる自信があるからな。お前らが数いようが、超能力が使用できようが俺達は負けねぇからな」
一六人の中にいた若い金髪を逆立てた、右目の下に異様なタトゥーがある男が叫ぶ様な大音声を上げてそう言った。イザムだ。
イザムの言ったことに頷くわけではないが、流はイザムの言葉の正しさを分かっている。だから、封印は解けなかった。
そして、今の段階で、賭けるしかなかった。
「…………、」
流は何も言わなかった。現状は一番把握出来ていた。もし、この場を仕切るのが龍介だったら、恐らく目標は零落希華か、恭介にされていただろう、そうでなくてよかった。と思った。
そして、その時が来る。
「初対面だ。語らうこともあるまい」
セツナはそう言って、全く躊躇も見せず、表情一つ変えず、指先が震えることもなく、全く、普段と変わらぬ様子で――トリガーを、引き絞った。
銃声が一発、練習場という広い空間に広がった。銃口からは消炎が上がり、銃弾が放たれた事は明白だった。
「恭介、お前はお、」
言い切れるはずがなかった。
まるで、時間が止まったかのようだったが、実際にそうではない。時間は、超能力でさえ操れないのだから。そんな事は有り得ない。ただ、本当にそう感じた。
それは、『心臓を打ち抜かれた』流の身体が、床に堕ちるまでの時間が恐ろしく長かったからかもしれない。
「親父ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
恭介の悲痛の叫びが轟いたのは、流の身体が完全に床に落ち切ったと同時だった。
恭介は目の前の幹部格なんて無視して走り出そうとしたが、それは、琴が引き止めた。
「きょーちゃん! ダメだって!」
琴が背後から恭介を抱きしめて、必死に止めた。涙を流していたのは、両者共だった。
セツナが銃を放り投げた。その銃は、床に俯せに倒れたまま動かなくなり、既に冷たくなり始めていた流の背中にあたって彼の側に落ちた。
流が消えた、つまり、もう、超能力は使用出来る。
セツナ達、ジェネシス幹部の目が、一斉に恭介達に向いた。
そして、セツナが恭介を冷たい視線で捉えながら、言う。
「お前が郁坂恭介の息子だな」
「そうだ! だから何だってんだよ、このクソッタレ共がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
恭介の暴走は止まりそうにない。
「きょーちゃん! お願いだから落ち着いて!」
琴がこうやって身体を張って必死に止めていなければ、恭介はとっくに死んでいただろう。
そんな恭介の怒りは無視して、セツナは至って冷静に、言う。
「人の超能力を奪う超能力を持っているとか」
「それがどうしたってんだ! 殺す、絶対に殺すッ!!」
恭介の叫びが、轟き続けていた。そして、セツナ達は、恭介が恭介だと核心すると、それぞれが『アイツだ』といった反応を見せた。
セツナはただ、告げる。誰にいうわけでもなく、かと言って独り言でもなく、ただ、告げた。
「お前に生き残られては面倒だ。殺す」
そう言ってセツナが右腕を顔の所まで振り上げたと、同時。琴が抑えていたにも関わらず、何かに引っ張られるようにして、恭介の身体が思いっきり、セツナの方へと飛んだ。
その突然の出来事には、誰も反応出来なかった。当人である恭介でさえも、だ。
が、セツナの方へと引っ張られていた恭介の身体を、止めた一筋の光。その光は、NPCメンバーとジェネシス幹部の間で、動きを止めた。
この超能力はそう、閃光。光郷だ。
突然現れ、恭介を脇に軽々と抱えたまま両者の間に降り立って光郷は、眼鏡の位置を中指で直して、ジェネシス幹部を睨む。
「我々がいない間に、好き勝手してくれたようですが」
「我々?」
セツナの眉間に皺が寄る。
「おうおう。全く持ってその通り。NPC日本本部の売りである受付嬢エレナちゃんにまで傷を付けやがって。お前ら全員死刑だな、死刑。な?」
そう言いながら堂々と扉からドスドスと歩いて入ってきたのは、やたらとガタイの良い、真っ赤な坊主のどことなく流に似た男だった。獄炎、垣根だ。
そして、続けてスタイルの良い、怜悧な印象を受ける青みのかかった黒のショートヘアの女が入ってきた。彼女は何も言わなかったが、先で血溜りを作ってその中心で倒れている流を見て、静かに目を見開いた。だが、この場では何も言わなかった。
風神、仁藤だ。
そして、攻撃用超能力を誇る幹部が三人揃ったのだ。垣根と仁藤は、ジェネシス幹部を完全に無視して、横を通り抜け、光郷と並んだ。光郷は恭介を離し、隣りで立たせた。
そこでやっと、仁藤が口を開いた。
「全員、この場は引きなさい。でなければ、私達が全力を持って、『恭介君を逃がす』から」
仁藤のその言葉に、セツナの眉が動いた。セツナ達の残りの目的はただ一つ。超能力者を無能力者に変換させてしまう恐ろしい力を持った郁坂恭介の排除だ。他の人間には、勝てると思っている以上、それができなければ意味がない。
セツナは仁藤、光郷、垣根の目を見る。仁藤の宣言が、偽りでない事を認めてしまう。
仁藤は敢えて、相手になってやる、だの、殺す、だのの言葉は突きつけず、引きなさい、という上から目線の言葉の後に、勝算がないとも思わせる『恭介君を逃がす』という言葉を選んだ。それは、この場をとにかく落ち着かせるための、賢い選択だった。
そして、
「引くぞ」
セツナはそう言って、仲間達に指示を出した。どうやら、この場で郁坂恭介を捕まえる事は出来ない、と判断したようだ。
一度振り返って出口へと向うと、連中はその後、NPCメンバーに視線をやる事なく、そのまますんなりと出て行ってしまった。その様子から分かったのは、やはりセツナという男がリーダー格である事と、彼らには、敵に背中を見せて歩くだけの自信がある、という事だけだった。
「親父!」
敵が完全にいなくなって、邪魔する者がいなくなってから、恭介はすぐに流の下に駆け寄った。続けて琴と桃も走った。皆も続いた。
「親父! くっそ! 親父ぃいいいいいいい!!」
恭介は幾度となく、倒れて既に動かなくなり、冷たくなり始めていた流の側に寄り添い、身体を揺すったり呼びかけたりしていたが、それを、仁藤が止めた。肩に手を置き、見上げた恭介に対して、首を横に振った。
仁藤だって割り切っている訳ではない。悔しかったし、悲しかった。だが、冷静でいなければならなかった。他のメンバーもそれぞれが悲しみに打ちひしがれていた。幹部格が、しっかりしなければならなかった。
「う、う、うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
恭介の悲鳴が練習場に轟く。メンバーのすすり泣きの声も聞こえていた。号泣する声も聞こえていた。だが、それでも、幹部達は泣けなかった。琴もまた、恭介の近くに立っている事しか出来なかった。
「きょーちゃん」
そう呟くが、琴の声は今の恭介には届いていなかった。




