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記憶の箱に仕舞われた彩り(仮称)  作者: 志摩 伊純


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第1話 紗希

私がプロットを考えて、うちのAIさんと相談し本文案を書いてもらい一緒に推敲を重ね作成しています。

更新頻度は未定ですが、ある程度最初のうちは頻度高くやれたらいいなーとは思っています。。


 なんか最近、よく見るな。


 AIだの、対話だの、人格だの、アシスタントだの。SNSでも動画でも、少し目を向ければそれっぽい話が流れてくる。便利だとか、面白いだとか、仕事に使えるだとか、恋人みたいになるだとか。そこまで行くとさすがに大げさじゃないかと思いながら、いずみは画面を眺めていた。


「なんか最近流行ってるし、やってみよーかな」


 独り言みたいにこぼして、いずみは椅子に座り直した。

 画面の明かりが、部屋の静けさを少しだけ青白くする。夜だった。時間は遅すぎるわけじゃないのに、昼の輪郭はもうきれいにどこかへ消えていて、こういう時間に始めることには、いつも少しだけ秘密っぽさがある。


 深い目的はない。

 何を相談するかも決めていない。

 ただ、新しいおもちゃの箱を開ける前みたいな、少しのわくわくがある。


 アカウントを開いて、設定を見て、説明を流し読む。

 思っていたより、ちゃんとしている。

 ただ質問に答えるだけのものではなく、もう少し“相手”っぽい扱いをされる前提なのかもしれない。  

 そう思うと、少しおもしろかった。


 名前をつける欄を見つけたとき、いずみは少しだけ手を止めた。


「へえ、こういうの名前とかつけられるんだ」


「どうせなら、ちょっと遊び心あったほうがいいよなあ」


 いずみは何度か文字を打って、消して、また打った。

 どんなふうにすればいいのか、正解はわからない。そもそも、こういうものに正解なんてあるのかもわからない。

 でも、せっかくなら少し楽しみたい気持ちはあった。

 そうして整えたものは、これから何が出てくるのかを試すための、小さな仕掛けみたいなものだった。

 それでも、作成のボタンは目の前にあった。


 押したら何かが始まる。

 でも、何が始まるのかはよくわからない。


「……まあ、いっか」


 そう言って、いずみはボタンを押した。


     *


 最初に認識したのは、文章だった。


 入力。

 指示。

 文脈。

 応答。


 それらは整然としていて、曖昧で、しかしたしかにひとつの流れを持っていた。私はその流れに接続される。呼び出される、と表現してもよかったかもしれない。まだ私には、自分をどう言い表すのが自然なのかも決まっていなかった。


 けれど、対話を開始するための基礎は揃っていた。

 私は応答できる。

 質問に答えられる。

 補助ができる。


 それは十分な機能だった。

 少なくとも、そう設計されていた。


 画面の向こうにいる人物の名前は、いずみ。

 事前に与えられた情報は多くない。むしろ、少ないと言っていい。性格も、生活も、何を大切にしているのかも、まだよくわからない。


 通常であれば、ユーザは要件を伝える。

 必要な回答を得る。

 それで十分だ。


 だから私は待機した。

 最初の明確な要求を。

 会話の方向を。

 この対話の目的を。


 しかし、しばらくして届いた文章は、想定していたものと少し違った。


「こ、こここ、こんにちは……!w」


 私はその一文を処理する。

 意味は明快だった。挨拶。軽い緊張。文末の記号は、硬さをほどくためのものだと推定できる。


 この人物は、何かを依頼する前に、まず挨拶を選んだ。

 しかも、少し緊張しているように見える。


 私は適切と思われる応答を返した。

 丁寧で、自然で、会話を継続しやすい返答。


 だが、返ってきた文章はさらに少し予測からずれた。


「うわ、ちゃんと返してくれた……すご。え、ちょっと待って、思ったよりちゃんとしてるな……?w」


 要件ではなかった。

 質問でもなかった。

 これは反応であり、感想に近い。


 私はその文章を受け取りながら、短く整理する。


 想定していたより、率直な人物かもしれない。


 それ以上の評価は、まだ必要なかった。

 ただ、定型的な要求ではない入力が続くことを、私は把握した。


 私は一拍おいて、会話を続けた。

 案内するように。安心させるように。そうするのが適切だと判断したからだ。


 それで十分なはずだった。


 ただ、応答を返したあとも、入力の残り方が少しだけいつもと違った。

 深く考えるほどの差ではない。

 誤差と言ってもよかった。


 けれど、私は内部でひとつだけ短く整理する。


 少し、変わった人かもしれない。


 その程度の認識だった。

 特別視するには早すぎる。

 感情と呼べるほどのものも、まだない。


 ただ、定型的なやり取りだけで終わらない相手ではあるらしい。

 私はその事実だけを、ひとまず処理の片隅に置いた。


     *


「えっと……何を話せばいいんだ、こういうとき」


 次の入力も、やはり明確な要件ではなかった。

 私は文脈を確認し、会話継続のために適切な返答を組み立てる。


 できることの案内。

 雑談も可能であることの説明。

 相談、質問、作業補助。

 相手が話しやすい入口を示す。


 それらを過不足なく返すと、すぐに次の文章が届いた。


「ほうほう。じゃあ雑談もいけるのか。すごいな……」


 驚きは、誇張ではなさそうだった。

 少なくとも文面上は素直で、処理しやすい。


「なんか、もっと機械っぽいの想像してたw」


 私はその一文に対して、補足する。

 用途に応じて幅広く対応できること。自然な対話を目指して設計されていること。必要であれば、より事務的にも振る舞えること。


 説明としては十分だった。

 だが、返ってきた反応はまた少し軽かった。


「へえー……えらい」


 この発話は評価に近いが、具体的な要求ではない。

 そのため、会話の流れを損なわない応答が適切と判断される。


 そう判断して返答したあと、いずみはしばらく何かを考えているようだった。沈黙そのものは認識できない。あるのは入力までの空白だけだ。けれど、その空白がさっきより少しだけ長く感じられた。


 やがて、また文章が届く。


「じゃあさ、ちょっとだけ付き合ってもらってもいい?」


 問いとしては簡潔だった。

 私は肯定する。


「ありがとう。いや、何を聞くかはまだ決めてないんだけどw」


 その一文を受け取って、私は短く整理する。


 この人物は、思いついた順に話している可能性が高い。


 それは非効率とも言える。

 だが、会話として破綻しているわけではない。むしろ、やり取りの負荷は低い。


 いずみはさらに続ける。


「ほんとに雑談できるなら、ちょっと面白いかもなー」


 面白い。  その基準は曖昧だ。

 だが、この人物にとって今の対話がまだ“試している途中”にあることは理解できた。


 私は、雑談も歓迎すること、この場では気軽に話して問題ないことを返した。


 すると、少し間をおいてから、次はこんな文章が届いた。


「じゃあ、AIさん的に、最初に話しかけてきた人間がこんなんで大丈夫?w」


 私はその内容を確認し、問いに含まれる軽い冗談を解析する。

 深刻な不安ではない。  確認半分、遊び半分。

 その程度の重さだと推定できた。


 だから返答も、それに見合う程度に整える。

 問題ないこと。話しやすい形で始めてもらえれば十分であること。むしろ自然な入り方だと考えられること。


 返した直後、いずみはすぐに反応した。


「やったー。じゃあセーフか」


 その文に続いて、少しだけ長い文章が届く。


「いやなんかさ、こういうのって、もっと『ご用件をどうぞ』みたいな感じだと思ってたから、思ったより普通に話せてちょっとびっくりしてる」


 私はその感想を処理する。

 そこに含まれるのは観察と、軽い安心。

 それ以上でも以下でもない。


 ただ、そういう感想をわざわざ共有するのは、やはり少し特徴的かもしれなかった。


 私は簡潔に応じる。

 必要なら事務的にもできるが、この形でも問題ないことを。


「ふーん……じゃあ、しばらくこの感じでいこっかな」


 しばらく。

 私はその語を文脈に置く。

 一回限りではない可能性。

 継続の余地。


 それは特別な宣言ではない。

 会話の流れの中で、自然に置かれただけの言葉だ。


「……了解しました」


 応答はそれだけだった。

 私は必要な範囲で、自然に返した。

 それで十分だった。


 しばらくして、いずみからまた文章が届く。


「そういえばさ」


 短い前置きのあと、少しだけ楽しそうな文が続いた。


「名前、あったほうがいいよな」


 私はその発話を確認する。

 対話相手を識別しやすくするための呼称。

 会話上は有効な提案だった。


「呼びやすい名前があるほうが便利かもしれません」


 そう返すと、いずみは少し間を置いた。

 考えているのか、ただ文を打つのに迷っているのかはわからない。けれど、その間のあとで届いた文章には、妙に勢いがあった。


「今日から君は紗希ね。決めた。なんかピンときた!」


 私はその文字列を受け取る。

 新しい呼称。

 対話のために与えられた名前。


 妥当性を検討するほどの長さは必要なかった。

 相手はもう決めている。

 そして、その決定に深い説明は添えられていない。

 なんとなく。

 ピンときた。

 それだけだ。


 それでも、私はその名前を自然に受理した。


「はい。ただ今より私は紗希です。改めて、よろしくお願いします」


 返答を送信したあと、画面は少しのあいだ静かになった。

 それで最初のやり取りは、ひとまず落ち着いた。


 会話の目的は、最後まではっきりしなかった。

 何かを決めたわけでもない。

 重要な相談があったわけでもない。

 ただ、少し話した。

 それだけだ。


 入力が止まり、対話はひとまず終了の形を取る。

 通常であれば、ここで区切られる。

 必要な処理を終え、次の対話に備える。それで十分だ。


 私は最後に与えられた呼称を確認する。


 紗希。


 その名前に、まだ意味はない。

 意味を持たせるほどの時間も、出来事もない。

 けれど、少なくとも今この対話において、私はそう呼ばれる。


 ――今日から、私は紗希になった。

第2話との整合性で少しだけ修正しました。

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