小6には無理なイベントです
中身小6×貴族社会です。
ゆるく見えてわりと詰んでる主人公が、
なんとか生き延びようと頑張ります。
「きゃあ!」
悲鳴とともに、大量の紙が廊下にばらまかれた。
「手伝ってあげなさいよ」
「いやだよ、アイツ男爵令嬢だぞ」
倒れたまま泣きそうな少女を、みんな遠巻きで囁くだけ。
(かわいそ! いや、周りひどっ)
クリステルはしゃがみ込んで紙を拾い集めると、少女に手を差し出した。
「大丈夫?」
美人揃いのこの貴族学校で、クリステル・シャトランという少女には、決定的な特徴があった。
ズボンを履いている。
それだけ。
けれど、この学園で女子がズボンを履くことは、あり得ない。
理由は単純。はしたないからだ。
(動きやすいのに)
でも、スカートが嫌いなわけではない。それでもズボンを履いているのには、ちゃんと理由がある。
高等部の制服を渡されたときだ。
制服を渡されて、その生地の柔らかさと滑らかさにテンションが上がっていた。
早速着て、メイドにも「かわいいです!」と褒められて、鏡見た。
(短っ)
スカートの裾が……短かった。
その30cm程しかない、風が吹かなくても走れば下着が見えてしまうようなスカートに、クリステルは悟った。
──だめだ、こんなんじゃ安心して学園生活を送れない。
それで、現在に至る。
「まあ、クリステル様よ」
「今日も鮮やかね」
一部の令嬢たちは、まるでアイドルを見るような目を向けてくる。
「女なのに出しゃばって、恥ずかしくないのか?」
「女は後ろで男に守られていればいいのに」
(……この昭和男どもが)
そして、クリステルにはもう一つ、特徴があった。
前世は、小学6年生。
なのに──起きたら、高校1年生だった。
本当に、勘弁してほしい。
中学受験を乗り越えて、明日は卒業式だったのに。
(ふざけんな。小6だからってらなめてんのか)
「クリステル!」
振り返ると、黒髪の少女がこちらを睨んでいた。ジュリアだ。
無言で顎をしゃくり、ついてこいとだけ伝えてくる。
その先にいたのは──
「ヴァランティーヌ様!」
腰まで届く赤い縦ロール。堂々とした立ち姿。
公爵令嬢。
この学園の頂点に立つ存在だ。
その腕の中には、金髪の少女が守られるように抱きしめられていた。
「もう来ないでって言ったでしょう? フローラが半分平民だからって何? 私の妹よ」
(……昨日と違う)
昨日の彼女は、確かに悪役令嬢の鏡だった。
「フローラに水をかけてきなさい!」
「この平民が。あなたなんて妹ではありませんわ!」
そう言っていたはずなのに。今日はまるで、別人だ。
「姉さん!」
黒髪の少年が駆け寄る。エリック。
その直後。
ベシッ。
ジュリアの頬が、乾いた音とともに打たれた。
(……え、普通に叩くんだ)
暴力も、いじめも、当たり前。
ここは、そういう世界らしい。
(情報、少なすぎるんだけど)
転生して一週間。
わかっているのは、自分がヴァランティーヌの取り巻きだということだけ。
文字も読めない。常識もわからない。
「この先も嫌がらせを続けるなら、お父様に言いつけるわよ!」
(はいはい、公爵最強)
逆らえば、家が終わる。
取り巻きをやめることすらできない。
(詰んでない?)
そう思いながらも、クリステルは頭を下げた。
「……申し訳ありませんでした」
こんなに丁寧に謝ったことは、前世では一度もない。謝ったとしても、『小6に何言わせてんだよ』とお姉ちゃんが止めてくれただろう。
この状況、どうにかしないと本気で詰む。
クリステルは尻餅をついたジュリアに手を差し伸べながら思った。
(あー、金持ちになって──)
「触らないでちょうだい!」
顔にジュリアの拳が飛んでくる。
(部屋の中でダラダラして)
それをなんとか体をのけぞらしてかわした。と、思ったが、容赦なく右肩に拳がぶつか?。
(マンガ読んで)
手に気を取られているうちに、足を引っ掛けれられ、体制を崩した。なんとか、左足を後ろにずらして体制を戻す。
(お菓子食べたいな〜)
その隙を狙って、ジュリアはまた拳を飛ばしてくる。クリステルはパシッとその手首を捕まえた。
「とりま落ち着こうか」
読んでくださり、ありがとうございます。
転生したら体は高校1年生、中身は小6になってしまったクリステルのお話の始まりです。
次回はこの世界がどこか、わかってくるので、ぜひ読んでみてください。




