↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
澄斬姫 ―神殺しの男に背負わされた、復讐の妖刀―  作者: 白杜深月
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/130

第七章 奇跡と謎(第一話)

 その日の夕刻――。

 朝比奈家では、紗世と龍之介が、清志郎の帰りを待っていた。

 龍之介は、部屋の障子を開け、空模様を気にしていた。


「雨が酷くなってきたのう」


 龍之介は台所までいき、夕飯の準備をしている紗世に声を掛けた。


「紗世さん、清志郎は日暮れまでには帰ると言っていたのじゃが……」


 紗世は手を止め、龍之介の方を振り返る。


「ええ。普段なら、そろそろ帰る頃なんですけど。こ、こんな大雨だから、どこかで雨宿りでもしてるのかも」


「……だと良いのじゃが」


 二人の間に、重い沈黙が落ちる。


「あー……何か儂も手伝うことはないかのう?」


「では、お膳を運んでもらってもいいですか? 夕飯、出来上がったので。私は、清ちゃんの着替えを準備してきます。きっと、ずぶ濡れで帰って来るだろうから」


 紗世はそう言って、わずかに笑った。雨が降ろうと雪が降ろうと、いつもの清志郎であれば、とっくに家へ戻っている刻限なのだろう。


「もう少し待っても、帰って来んようなら、探しに行くかのう」


 龍之介は、清志郎の部屋へ向かう紗世に聞こえないように呟いた。

 

◇

 

 日が沈み、あたりはすっかり夜の帳に包まれた。雨は止んだというのに、清志郎は帰って来ない。

 せっかく温めた夕飯が冷えるからと、仕方なしに夕飯を食べ始めた紗世と龍之介だったが、一向に箸が進まない。

 

「紗世さん、さすがに遅すぎんか?」


「そう……ですね……何かあったのかしら? でも、清ちゃんに限って……山道は慣れてるし」


 そう言いながらも、紗世の箸は先ほどから止まったままだった。清志郎の帰りが、こんなに遅いのは初めてだ。何か買い物を頼んだとき以外は、寄り道もせず、真っ直ぐ家に帰る質なのも知っている。


「朝、出掛けるときに、清志郎が言ってたんじゃ。あそこは、鼻持ちならない坊ちゃん道場だと。儂も連れていってくれと頼んだのじゃが、断られた。何か不安要素があったのやも……揉めたのかもしれんな」


「清ちゃんが、そんなことを? 実は、私も行ったことがないんです。あそこだけは、いつも絶対に連れて行ってくれなかったの」

 

「なに、誠か? 紗世さん、儂がその道場へ行ってみよう。道順を教えてくれぬか?」


「でも、もう真っ暗よ。いくら高坂さんでも、一人じゃ危ないわ。父を一人に出来ないし……誰かに頼んでみようかしら」


「心配無用じゃ。儂はずっと一人で旅をしておった。闇夜の山道も、慣れておる」


 夜の山道も危険だが、剣嶺館に部外者の龍之介を向かわせて良いのだろうか。紗世は迷った。

 しかし、共に生活を送る中で、龍之介が信頼に足る人物であることを、紗世も実感し始めていた。清志郎もそう思ったからこそ、自分と道善を任せて出掛けたのだろう。


「わかったわ。お願いします、高坂さん」


 紗世は、提灯とともに一通の書状を龍之介に持たせた。そこには、彼が朝比奈道場からの使いである旨が記されていた。


「高坂さんも、気をつけてくださいね。清ちゃんを、よろしくお願いします」


「うむ、できるだけ早う戻ってくるよ」


 紗世にそう言い残すと、龍之介は彼女から教わった道を急ぎ足で進んだ。


◇


 冷たい夜風が、龍之介の頬を撫でる。山道には、人の気配はまったくなく、しんと静まり返っていた。

 龍之介は、小さな灯りで周囲を用心深く照らしながら、山道を進んだ。

 だが、清志郎の姿を見つけることはできず、そのまま剣嶺館のある金那町(かななちょう)に到着してしまった。

 

(清志郎……まだ道場におるのじゃろうな?)


 龍之介は、道すがら出会った人々や、まだ灯りのついた居酒屋で、剣嶺館の詳細な場所を聞き出した。


(ほほう、良家のお坊ちゃんが通うというだけのことはある。立派な門構えよのう)


 ようやく剣嶺館にたどり着いた龍之介は、その門を叩いた。


◇


「ああ、朝比奈道場の榊先生ですか? 道場の稽古は、とうに終わっておりますので、お帰りになったと存じますが」


 出て来たのは、下働きの男だった。


「いや、それが、帰っておらんのじゃよ。師範はおられるかの?」


「旦那様ですか。もう、お眠りになったのではないかと……」


 年寄りの村瀬は、就寝するのが早かった。男は、すでに休んでいる主人を起こすことに躊躇しているようだった。


「そこを何とか、取り次いでいただけんかの」


 龍之介の大きな声が聞こえたのか、家から村瀬が出て来た。


「どうしたのじゃ、何かあったのか?」


「ああ、旦那様。実は……」


 男が仔細を説明しようとすると、龍之介が割って入った。


「儂は、朝比奈道場からの使いの者で、高坂龍之介と申す」


 龍之介は、紗世が書いてくれた書状を村瀬に手渡しながら説明した。


「榊清志郎は、まだ、こちらにおらぬじゃろうか。いつもなら、とうに家に戻っておるところ、いつまで待っても戻って来ぬゆえ、探しに来たのでござる」


 それを聞いて、村瀬は驚く。


「なに、まだ戻っておらぬと! それはおかしい。稽古はとうに終わり、すぐに帰られましたぞ」


「……何か、道場で変わったようなことは?」


 龍之介は、当たり障りのないように、さり気なく探りを入れた。


「いえいえ。特に何事もなく。榊殿も具合が悪い様子もなく、いつもどおりでしたぞ」


「さ、左様か……」


 村瀬にこう言われては、龍之介としても、これ以上食い下がるわけにはいかない。どうしたものかと、思案する。


「いや、ご心配はごもっとも。儂も榊殿のことは、子供の時分より知っておる。遅くまでふらつき、心配を掛けさせるようなことはせんはずじゃ」


「子供の時分から?」


「ああ、昔から道善に連れられて、出稽古によく来ておった。儂かて心配じゃ。すぐに人を出そう」


 村瀬は下働きの男に、近在に住む門下生へ声を掛けて回るよう命じた。それからしばらくして、五人の若い門下生が提灯を手に集まってきた。

 清志郎の話から剣嶺館に良い印象はなかったが、この村瀬という男はまともなようだ。駆けつけた若者たちも、清志郎を本気で心配している様子だった。どうやら清志郎が嫌っているのは、良家のお坊っちゃん連中だけらしい。

 龍之介は、五人の門下生と共に清志郎の捜索に出た。


◇


「この山道を歩いて来たのじゃ。しかし、清志郎には出くわさんかった」


「そうですね。千凪村へは、この山道を通るしかないはずです」


 若い門下生たちは、龍之介の言葉に頷いた。


「一本道だよな? どこかに分岐点とかあったか?」

「いや、俺は何度か千凪村へ行ったことがあるが、ずっと一本道だぞ」

「だよな」

「ああ、近道などもないはずだ」


 提灯で周囲を照らし、何か手掛かりはないかと目を凝らしながら、歩みを進める。


「神隠しとか?」

「馬鹿か、お前! そんなの信じてんのかよ」

「馬鹿とは何だ! 急に人が消えるって言ったら、それくらいしか……」


 彼らは絶えず、思い思いのことを口にする。それは暗い夜道での不安を、かき消すためかもしれない。


「ここらで、賊が出るなどの話はあるか?」


 龍之介が尋ねると、門下生たちは顔を見合わせ首を傾げた。どうやら、そういう話はないようだ。


「賊が出たとしても、町や村の付近では襲わないでしょう。道半ば辺りでは?」


「そうじゃな。何かあったとしても、もう少し先じゃろうのう。もし、道から外れたような形跡があれば、すぐに教えてくれんか」


「はい、もちろんです」


 清志郎が生きていたとして、帰って来ないのは、動けない状態だからに違いない。足をくじいたなどの、ちょっとした怪我であれば、提灯の灯りを見て声を掛けてきたはずだ。

 それがなかったということは――底知れぬ不安が、龍之介の胸をじわじわと侵食していった。


◇


 その頃、紗世は一人、清志郎と龍之介の帰りを待ちわびていた。


(遅いわ。高坂さん、剣嶺館まで行っちゃったのかしら。途中で清ちゃんと出くわしたのなら、もう戻ってきてるはず……どうしよう……)


 紗世は、道善の病状を考え、知らせないつもりだった。けれども、一人で不安を抱えていることにも、もう耐えられなかった。居ても立っても居られず、道善の部屋へと足を向けた。


「父上、遅くに申し訳ございません。入ってもよろしいでしょうか? 父上!」


 道善はすでに眠っていると思っていたが、意外にもすぐに返事が返ってきた。


「紗世、構わぬ。入りなさい」


「父上っ」


 紗世は、道善の枕元へと真っ赤な目をして駆け寄る。


「清ちゃんが……清ちゃんが、帰って来ないんです! 高坂さんに探しに行ってもらったけど、二人とも帰って来なくてっ……」


 そこまで言うと、紗世の瞳から堪えていた涙が溢れ出した。


「紗世。清志郎がこの刻限になっても、戻らぬとあれば、確かに何かあったのやもしれぬ。だが、まだ、どうかなったと決まったわけではあるまい」


 泣き崩れた紗世の頭を道善は、そっと撫でた。


「で、でも……っ、うっううっ……」


「清志郎は、あれでなかなかにしぶとい奴だ。そう簡単に死んだりせぬよ」


「そう、ですけどっ……ちっ、父上っ……父上も……」


「紗世?」


「父上も、ちゃんとお薬飲んでよ! お粥だって、もっと食べてよ! 私、毎日作ってるのに! わ、私、わかってるんだから……お姉ちゃんが死んじゃってからよ、父上がおかしくなったのは! 父上は……私のことが嫌いなの⁉ お姉ちゃんの代わりに、私が死ねばよかった?」


 紗世は一気にまくし立てた。まさか紗世がそのように思っていたとは知らず、道善は目を見開いた。

 

「紗世……」


 抑え込み続けてきた紗世の感情は、ついに限界を迎え、道善の目の前で決壊したのだ。


「す、すまぬ、紗世……そんなことはない。断じてない! 違うのだ……」


 道善は必死に誤解を解こうとしたが、彼女はそれを振り切って、自分の部屋へ駆け戻った。

《2026/09/27 第一回修正》

第六章の血の山道と同じく、ここは旧作がショボすぎて、こんなの説明してるだけじゃん!絶対修正しなければぁー!と思い悩んでいた箇所です。

旧)

清志郎帰らない→龍之介出発→死体→刀→紗世泣く

新)

清志郎帰らない→龍之介出発→剣嶺館へ確認→村瀬との関係→門下生たちが動く→捜索開始→一方、家では紗世が限界を迎える→道善との親子問題が噴出

......と、構成から変えてみました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。