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澄斬姫 ―神殺しの男に背負わされた、復讐の妖刀―  作者: 白杜深月
第一部

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第四章 歓迎会の夜(第二話)

 片付けを終えた紗世と鈴は、布団を並べて敷き始めた。


「紗世の部屋に泊まるの久しぶりね。子供の頃はもっとお泊まりしてたのに。なんだか懐かしいわ」


「ふふっ、そうね。夜更けまでおしゃべりして、早く寝なさいって父や母に叱られたわね。あの頃は……よかった。幸せだった」


 幼かった紗世は、ずっとこんな日々が続くと信じて疑わなかった。


「紗世……」

 

 紗世は手を止めて、うつむいてしまったが、鈴の視線に気づき、慌てて気を取り直した。


「ご、ごめんなさい。しんみりしちゃったわね。昼間、散々慰めてもらったのに、私ったら」


「ううん。私も、あの頃がよかったわ。紗世のお母様には、本当によくしていただいて……道善先生もお元気で。紗凪さんも遊んでくれて。それが、今みたいになるなんて。私だって思わなかったわ」


 しばしの沈黙の後、二人はまた手を動かしだした。布団を敷き終わり、灯りを消し、布団に入る。


「紗世、私たちずっと友達よ。紗世は今、辛いんだから頼ってくれていいの。私の両親も紗世のことを、とても心配してるわ。清志郎先生もいらっしゃるし、紗世は決して一人じゃないのよ。忘れないで」


 鈴は、紗世の親友として、精一杯の言葉を贈った。

 

「本当にありがとう、鈴。鈴が居てくれて良かった。貴方みたいな友達がいるんだもの。私は今でも幸せ者よ」


 その言葉は、ちゃんと届いたようだ。暗い部屋の中でも、紗世が微笑んでいるのが、鈴には伝わった。


「紗世ったら。大袈裟よ」


 二人は向き合って、くすくすと笑い合った。


「今日は色々あったわね。疲れたでしょう、紗世」


「そうね。高坂さんが道場に乗り込んできたときは、どうなることかと思ったわ。清ちゃんが勝ってくれたから、よかったものの」


 もし、清志郎が負けていたらと思うと、紗世はぞっとした。子供たちの前だったのだ。噂はあっという間に村中に広まっただろう。


「あれって、本気だったのかしら?」


「え?」


「ほら、高坂さんたら『もし儂が勝ったら、紗世を貰い受ける!』みたいなこと、言ってたじゃない」


「ああ、あれね。今となっては、本気だったとは思えないわね。だって、わりといい人じゃない?」


 二人は、歓迎会のときの龍之介を思い浮かべた。酒が入っても、龍之介は悪酔いしなかった。

 紗世と鈴のことを、これまで見たこともないほどの別嬪だと持ち上げた。

 もちろん、お世辞が入っているのは、紗世も鈴もわかっていたが、褒められて悪い気はしない。

 二人には、龍之介が人との距離を縮めることに長けているように思えた。


「ええ、最初の印象と全然違うわね。あんなに強面なのに怖くないっていうか、話しやすいというか不思議な人よね?」


「不思議な人……確かにね。その妖術に、私たちもかかってしまったのかしら?」


「ふふっ、清志郎先生も、もう打ち解けてたみたいじゃない。下の名前で呼び合ったりして」


「そうね。けれど、私にはまだ、清ちゃんが高坂さんに振り回されているように見えるわ」


「紗世には、そういうことまでわかるのね」


「その……なんとなくよ」


「……ねぇ、紗世……」


「なぁに?」


「さ、紗世は……清志郎先生のこと……お慕いしているの?」


 鈴はありったけの勇気を振り絞って、紗世に問いかけた。


「あ、えっと……す、鈴に茶屋で話そうと思っていたの。……私、そう……みたい」


「や、やっぱり! そうよね。友達だもの、見てればわかるわ」


「けどね、彼の気持ちが、私にはよくわからないの。もし、私を娶ってくれたとしても、それは……父への義理や、道場存続のためでは? と思ってしまうの。歳だって離れているし。私が十六で、清ちゃんは二十五よ。元々は、お姉ちゃんと結婚するはずだったしね」


「紗世、考えすぎよ。貴方は、紗凪さんの代わりじゃないの。今、清志郎先生の隣であんなふうに笑い合えるのは、他の誰でもない。貴方だけなのよ。誰が見たって、今の二人は本当にお似合いなんだから。自信を持って」


「鈴……ありがとう。ねぇ、鈴は、誰か気になる相手はいないの? まだ、鈴からそんな話、聞いたことないわよね。教えてよ」


「わ、私!? 私は、その……いるけど……何とも思われていないのが、わかるから……」


「え? 私の知らない方? どんな感じの方なの?」


「そうね……ちょっと、清志郎先生に似てるかな」


「清ちゃんに?」


「うん。あ、でも、この村の人じゃないわ」


「ふぅん。鈴は、その方のお気持ちを、直接確かめたわけではないのでしょう?」


「まぁ……そう、なんだけど……」


「なら、まだ、諦める必要なんてないわよ」


「う、うん」


「あっ、初めて聞いたばかりなのに、わかったようなことを言ってごめんね」


「ううん。私に意気地がないだけなのよ」


「私にできることがあったら、言ってね」


「ありがとう……」


 その後、鈴が沈黙してしまったので、紗世は話を切り上げることにした。


「そろそろ寝ようか、鈴」


「うん、眠くなってきたね。おやすみ、紗世」


「おやすみ、鈴」


 おやすみの挨拶を交わしたのに、鈴はしばらく目を閉じたまま、眠れずにいた。

 心臓の奥が重い。

 また、本心を言えなかった――いや、言わなかったのだ。紗世との友情のために。そして、自分のためにも。


(言えるわけない……言えないよ……)

 

 叶わない恋に傷つくことは、わかりきっている。それでも、彼と会話できたとき、笑顔を向けてくれたとき、必死に固めた決心は脆くも崩れそうになる。

 隣の布団から、もそもそと衣擦れの音がした。紗世が布団から抜け出したようだ。

 鈴は慌てて寝たふりをし、胸の奥のざわつきを必死に押し殺そうとした。紗世の足音は、夜の静寂の中へ吸い込まれるように遠ざかっていった。


◇


 ぎしっ……ぎしっ……とゆっくり近づいてくる足音で、清志郎は目を覚ました。聞いたことのある足音だ。すぐさま起き上がり、着崩れた浴衣を正す。その足音は、清志郎の部屋の前で止まった。

 障子の向こうに誰がいるのか、見当はついた。なかなか入って来ないので、清志郎は声をかけた。


「どうぞ、お入りください。紗世さん」


 障子が音もなくすうっと開き、闇の中に紗世の姿が浮かび上がった。表情までは見えなかったが、その肩は小さく震えていた。紗世は部屋へ入ると、背後の障子を静かに閉めた。


「眠れないんですか?」


 声を押し殺して泣いている紗世に、清志郎は歩み寄り、静かに言葉を紡いだ。


「もう二人だけだから……泣くの、我慢しなくてもいいんですよ」


 紗世は、清志郎の胸に手をつき、堰を切ったように泣き出した。そんな彼女を、清志郎はためらいながらも、そっと両腕で包み込んだ。


「どうして? どうして、みんな死んでしまうの? 私っ……私が、何か悪いことをしたから?」


「そんなこと、あるわけないじゃないですか。絶対に、あり得ません。紗世さんのせいなんかじゃない。お願いですから、そんなふうに思わないで……」


 清志郎は紗世の頭を優しく撫でてやりながら、静かに、しかし、力強く言った。


「でも、みんな私の周りからいなくなってしまう。もし……もし、清ちゃんまでいなくなったら……私、本当にひとりぼっちよ!」


「紗世さん……」


 紗世の張り裂けそうな胸の内が、清志郎に痛いほど伝わってきた。


「大丈夫……大丈夫だから。俺は絶対、死んだりしない。紗世さんを、ひとりぼっちになんてしない。約束しますから!」


 紗世を包み込んでいた腕に、思わず力が入った。


「本当に? 本当にいなくならない?」


 紗世は、涙で濡れた顔を上げて、清志郎に問いかけた。


「俺、紗世さんとの約束、破ったことあります?」


 紗世は、首を横に振った。


「ね、そうでしょう。それに俺、丈夫なだけが取り柄ですから。……だから、信じて……紗世さん」


「っ、うん……」


 紗世は泣き声を必死に堪え、消え入りそうな声で小さく頷いた。

 春になったとはいえ、まだ夜は肌寒い。紗世の体は、すっかり冷えてしまっていた。

 紗世が成長してからは、同じ部屋で眠ることもなくなった。だが、まだ泣き止まない彼女を、このまま放っておくわけにはいかない。今晩だけは、幼い頃のように甘えさせてあげてもいいだろう――そう思って、紗世に声をかけた。


「ほら、こんなに体が冷えてしまってる。風邪をひいてしまいますよ。布団に入って」


 紗世は促されるままに、清志郎の布団に入った。

 清志郎は、押し入れから冬物の着物を取り出した。それを掛け布団代わりにし、畳の上で紗世の隣に添い寝する形で横になった。


「それでは、風邪をひいてしまうわ」


「平気ですって」


「でも……」


「昔は、よく一緒に寝ましたよね。覚えてます?」


「うん、覚えてる。懐かしいわね」


 紗世は、恥ずかしそうに答えた。「幽霊が怖い」「寂しい」などと言っては、よく紗凪と清志郎を困らせたものだった。


「紗世さんたら、『手を握っていて。絶対に離さないで』なんて言ってましたね」


「……そ、そう……ね……」


 清志郎は微笑みながら、そっと手を伸ばしてきた。青年になった清志郎の姿に、まだ、少年だった頃の彼の姿が重なった。それに応えるように、紗世も、おずおずと手を差し出した。

 二人の手が繋がったとき、ようやく紗世は泣き止んだ。


「朝まで、こうしてていい?」


「俺は、そのつもりですが?」


 しばらくすると落ち着いたのか、紗世がすぅすぅと寝息を立て始めたので、清志郎も眠ることにした。

 ふと人の気配を感じたが、隣の部屋にいる龍之介だろう。溜まっていた疲れのせいで瞼は重く、確かめに行く気力もない。

 しかし、足音を忍ばせ、わずかに開けた障子の隙間から二人を見つめている者は、確かにいた。


「羨ましいよ、紗世……」


 それは、心の底から湧き上がる感情に必死で耐える者の、小さく震える声だった。

《2026/08/05 第一回修正》

文章を整えました。

話の内容は、ほぼ変わっておりませんが――会話が長いので、宗真のことについて女子たちが話す箇所をバッサリと切り取ってやりました! 

٩(。˃ ᵕ ˂ )وイェーィ♪ 宗真ざまぁ!(嘘嘘)


すまない宗真。キミのことは好きなんだよ。

それに、次の章ですぐ出てくるじゃないか、安心して待ってておくれ♡♡♡


前からなんですけど、持病を抱えてるんで、ボチボチやってきました。

ところが最近、特に調子悪くて……_( _´ω`)_

今週の初めに家族付き添ってもらい、病院に行きました。

結果がわかるのは、一週間後だそうです。

そういうわけで、改稿ペースが遅れております。

( TДT)メンゴー!


なんでもいいんですぅ。

どんな形でもいいんで、応援していただくと、チーンと塞ぎこんだ私の心が、希望を見出せそうな気がします。

私は、たかだか執筆二年目の超ド素人ですよ。

なんの気兼ねもなく、絡んでくださいませ。

(反応ないときは、半分○んでるときです。お許しを)


次話も読んでください!

(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾お願いします*•.¸¸♡




《2026/08/07 第二回修正》

一箇所のみ修正しました。後半、清志郎が眠りにつくところです。

(旧)隣室の龍之介だろう。

     ↓

(新)隣の部屋にいる龍之介だろう。


「隣室」という言葉自体は昔からあるそうで、まったくの間違いではないらしいです。

江戸時代にも存在していて、当時の文献でも見られる表現ではあるそうです。

でも、清志郎が言葉にするには違和感が拭えず、修正しました。

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