第22話 騎士団長だけど、パパはパパなので
「しっかりしろ。振り落とされるなよ?」
「うぅ、団長……。すみません……っ」
「謝るようなことしてねぇのに謝るんじゃねぇよ。それよりしゃべるな。自分のことだけ考えろ」
肩に担いでいる騎士が申し訳なさそうに言った。
意識が戻ってしゃべれるなら上場だ。おとなしくしてろ、すぐに本部で治療してやる。
「ぅ、ありがとう、ございます……」
騎士は涙声で礼を言うと黙りこんだ。そうだ、しゃべらなくていい。
俺は黙々と進んでいたが、ふと後ろをついてきたナタリアが口を開く。
「あの、団長……」
「どうした? 疲れたか?」
俺は歩みを止めないまま答える。
ナタリアは少し黙ったが、おずおずと続ける。
「……戻ってください」
「なに?」
俺は立ち止まって振り返った。
ナタリアとミランシャは震えながらも俺に強く訴える。
「……オデットとシャロットのところに戻ってくださいっ……!」
「っ、バカ野郎!!」
「ッ……!」
ナタリアとミランシャが青褪めて震え上がった。
なにを考えている。ここに戦えない者たちだけを残してなんになる。下手すりゃ全滅だ。だからオデットとシャロットを囮にまでしたのに……!
「今は本部に帰ることだけ考えろ! 残してきた二人には増援を送る。お前たちが考えることじゃない!」
だが俺の怒りを前にしながらも二人は怯まない。
「そ、そうかもしれません! でも、でももし間に合わなかったらっ……! お願いです、団長は戻ってください!」
「そうです、戻ってください! 団長が来てくれるまで、私たちはここで隠れています! 負傷してる騎士も私たちが必ず守ります! なにをしても守ります! だから行ってください!! 私たちの仲間を守ってください!!」
ナタリアとミランシャは真剣だった。
聞いていた担いでいる騎士も「……団長、いって、ください……。俺はまだ、だいじょうぶですから……。ちゃんと、まてますから……」とニヤリと笑って言った。
「っ……」
動揺した。
そんなの娘たちのところに行きたいに決まっている。今すぐ娘たちを抱きしめたい。
だがそれは今じゃない。今ではいけないのだ。
これは騎士団長として誤った判断で、公私混同はしない。
だが。
『うっ、うっ、こわかったんですっ……。だからパパにあいたくて、ぐすっ。あいたかった……!』
『シャロットも! シャロットもパパにあいたかったよ〜! うわああああん!!』
十二年前のダークドラゴン王都襲撃の時、助けに来た俺に娘たちが泣きじゃくりながら抱きついてきた。
安心した二人は俺に笑顔を向けてくれる。
その笑顔は決して失くしたくない俺の、パパの宝物で……。
「っ、いいか! 俺が戻るまでここを一歩も動くな! 命令だ! ナタリア、ミランシャ、お前らは死んでもこいつらを守れ!! でも死ぬことは許さん!!」
「「はっ、必ず!」」
ナタリアとミランシャが敬礼した。
俺は木陰に要救助者の騎士とナタリアとミランシャを残し、オデットとシャロットがいる場所へ駆けだしたのだった。
「オデット! シャロット!」
二人の名を呼んで走る。
早く! 早く!!
二人をあんなところに置いてきた。騎士団長として最善の選択だったが、パパにとっては最悪の選択だった。
早く娘たちのところに……!!
「オデット! シャロット! パパがすぐに行くからな! ちゃんと待ってなさい!!」
俺は茂みをかき分けてまっすぐ突き進む。
そして周囲一帯に緊張感が張り詰めている。
見ると一体のダークドラゴンが倒れていた。娘たちが討伐したのだ。
そしてすぐ近くでダークドラゴンの雄叫びがあがった。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「シャロット、しっかりしなさい!」
「だめっ、オデットは先に逃げて……!」
「嫌ですっ。逃げるなら一緒です! 一人で逃げたりしません!」
聞こえてきたオデットとシャロットの声。
負傷したシャロットをオデットが守っていた。
絶体絶命に切羽詰まった二人。
そしてダークドラゴンの波動砲が放たれる。オデットがシャロットを庇って盾になろうとした、その刹那。
――――グンッ!
地面を踏み込んだ俺の足の筋肉が膨張した。
一瞬にしてオデットとシャロットの前に飛びだす。そして。
「俺の娘たちになにしてやがる!!!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオ!!!!
俺の拳が波動砲を貫き、ダークドラゴンの巨体にめり込んだ。
ダークドラゴンは断末魔の雄叫びをあげる。
だがまだ終わりじゃない。素早く大剣を抜き、続けざまに左右にいた二体を一閃で切り伏せた。
討伐完了。ダークドラゴン殲滅。
「団長……!?」
「どうしてここに団長が……っ」
オデットとシャロットが驚愕に目を見開く。
俺はゆっくりと振り返り、無事でいてくれた娘たちに目が熱くなる。
「オデット! シャロット!」
俺は両腕に二人を抱きしめた。
両腕の甘いぬくもりに全身から力が抜けていく。
「団長、どうして、ここに……」
オデットの震えた声。
俺は腕の中のオデットとシャロットを見つめて笑いかけた。
「……パパだ。パパは、どんな時も二人のところにすぐ行くって約束しただろ」
「うぅっ、パパ!」
「パパぁ~! うわあああああん!!」
二人が俺に力いっぱい抱きついてきた。
そんな二人の頭をなでなでしてやる。
泣きじゃくる姿は幼いときのままだ。
でも。
「よくやった。お前たちのおかげで騎士団は全員生還だ。お前たちは俺の自慢の娘たちだ」
俺はそう言うと、また両腕に二人を抱きしめたのだった。




