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第21話 ……パパ、つらい(涙)



 どこだ。どこにいる!?

 気配、物音、匂い、神経を集中して違和感を探る。


「救護三班! どこだ! いたら返事をしろ!!」


 俺は地図を思い出しながら地点を予測する。


 救護三班が本部を出たのは二時間前。

 もし戦闘していたらすぐに気づく。そうでないなら、トラブルに巻き込まれて動けなくなっている可能性がある。ならば身を隠せる場所は……。


 俺は岩場や崖のくぼみなど、隠れられる場所を重点的に探し回った。

 そうしていると、少しして大木の根元のくぼみから話し声が聞こえてくる。


「最悪! どうしてよりにもよってあんた達と!」

「お嬢様はお嬢様らしく家に閉じこもってればいいのよ!」


 聞こえてきた声には覚えがあった。

 新人騎士のナタリアとミランシャだ。


「……マジか」


 ただでさえオデットとシャロットは新人騎士たちに遠巻きにされている。

 その中でも特にナタリアとミランシャはオデットとシャロットを毛嫌いしていて、初日の演習訓練でのダメ出しで決定的な亀裂きれつが入ったのだ。


 しかし今はのん気に立ち聞きしている暇はない。

 俺は救護班が隠れている場所に姿をみせた。


「見つけたぞ! みんな無事か!?」

「団長!」

「団長だっ、救助がきたんだ……!」


 隠れていた騎士たちがハッとした顔で俺を振り返る。


 オデットとシャロットは無事だった。今すぐ抱きしめたい。でもぐっとこらえて騎士団長の顔をする。


 くぼみに隠れていたのは救護三班の六名と、要救助者になっていた騎士二名。計八名だった。

 隠れていた騎士たちは俺を見ると安堵あんどの表情になったが、俺は瞬時に極めて悪い状況だと判断する。


 負傷者は要救助者を含めて四名。外傷が酷くて動かすのは困難な状態だ。

 動けるのは新人騎士のオデットとシャロットとナタリアとミランシャ。しかしオデットとシャロットは消耗がひどく、ナタリアとミランシャは負傷して歩行するのがやっとの状態だ。


「なにがあった? 報告しろ」


 俺の命令にオデットが答える。


「はっ、救護三班、要救助者を二名発見して救助したものの、潜んでいたダークドラゴンと戦闘になりました。ダークドラゴンは討伐しましたが、要救助者が四名となりました。帰還をこころみたものの、近辺には他のダークドラゴンが潜んでいるので帰還はできず、ここで救助を待っていました」

「そうか、正しい判断だ。よく救助を待っていた」


 無理に帰還すれば全滅も考えられた。最悪の事態をけた判断だ。

 だが、いつまでもここに隠れていることは出来ない。残りのダークドラゴンは四体になっている。もしその四体にここを襲われれば全滅だ。


「俺が四人(かつ)ぐ。オデットとシャロットは一人ずつかつげ。ナタリアとミランシャはしっかりついてこい。必ず全員で帰るぞ」


 俺の命令にオデットとシャロットがそれぞれ要救助者を背負った。

 俺は両肩に二人ずつかつぐ。

 四人を軽々とかついでみせた俺にナタリアとミランシャは「す、すごい……」と顔を赤らめていた。

 オデットとシャロットは俺の日頃の鍛錬を知っているので特に驚いた様子はない。

 こうして俺たちは司令本部を目指して進みだした。


「気配を消せ。物音をたてるなよ?」


 俺は周囲を警戒しながら歩く。

 負傷したナタリアとミランシャは戦えないのでダークドラゴンと遭遇そうぐうしたら全員帰還が一気に困難になってしまう。

 俺たちは息を殺して慎重に進んでいた。

 だが、劣勢れっせいのダークドラゴンもまた気配に過敏かびんになっている。こういう時に限って……。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「全員()けろ!!」


 ダークドラゴンの雄叫び、同時に強烈な波動砲が放たれた。

 俺たちは咄嗟とっさに避けたものの最悪な状況を悟る。

 四体のダークドラゴンに囲まれていたのだ。


「そ、そんな……、いつの間に……」

「囲まれてる……っ」


 ナタリアとミランシャが青褪あおざめた。


 絶体絶命の危機。

 どうする。どうすれば全員帰還させられる?


 俺は即座に状況を判断する。ここで戦えるのは俺とオデットとシャロットだけ。

 しかしこのまま戦えば要救助者とナタリアとミランシャが巻き込まれるだろう。それは最悪の事態を意味する。


 ならば方法は一つ、おとりだ。


 ここにおとりを残し、要救助者を優先的に逃がす方法しかない。しかし要救助者を一度にかついで運べるのは俺だけ。

 俺がおとりとして残れないなら、その役目は……。


「っ……」


 ……命令したくない! どこの世界に娘たちをおとりにする親がいる!?

 別の方法をっ、別の方法を考えろ! すぐに! はやく!


 それなのに。


「団長、提案があります。団長はナタリアとミランシャとともに要救助者を連れて司令本部に帰還してください。私とシャロットがここに残ってダークドラゴンを食い止めます」


 オデットがまっすぐな面差しで言い放った。

 シャロットも「シャロットは強いので大丈夫です」とオデットの提案に同意する。


 俺は愕然と二人を見た。


 ……そ、それは駄目だ。駄目なんだ。


 待ってなさい。パパがすぐにいい方法を考えてあげるから、だから待ってなさい……っ。


 しかしオデットの意思は変わらない。


「これしか方法はありません。団長、許可を」


 オデットは俺にせまった。

 娘ではなく、騎士の顔で。


 俺は目を閉じ、ゆっくりと開く。


「……わかった。許可する」


 胸が引きかれそうだった。

 俺は今から娘たちをおとりにするのだ。こんなひどい父親は世界中を探したっていない……。


 そんな俺たちのやりとりにナタリアとミランシャが驚愕する。


「ま、待ちなさいよ! なんなのよ! 調子に乗ってんじゃないわよ……!」


 ナタリアがオデットとシャロットに向かって怒鳴った。

 怒りながらも混乱しているようだった。


おとりってどういうことよ! あんた達は団長の娘でしょ!? 私とミランシャを置いてけばいいじゃない!! 偽善者ぎぜんしゃぶってるんじゃないわよ!!」


 声を荒げたナタリアをオデットとシャロットが不思議そうに見つめ返す。


「なにを怒っているんですか? 騎士団は全員生還が不文律。そこに団長の娘とか関係ありません。それに、私とシャロットは新人騎士のなかで一番強いです。首席です。めてるんですか?」

「シャロットも首席!」


 淡々《たんたん》と言ったオデットの隣でシャロットも自信満々に胸を張った。


 ……おいおいおいおい、オデット? シャロット? 今それなのか?

 ナタリアとミランシャだって目を見開いて固まってるだろ。


 思わぬ事態に俺は内心ハラハラしたが、オデットは続けてしまう。


「私はオデット・エインズワース。騎士団に首席合格しました。剣術と魔力には自信があります。作戦立案と作戦指揮も得意です。真面目な性格は長所だと思いますが、ときに短所になることもあるようです。次、シャロット」

「はい! シャロット・エインズワースです! 騎士団に首席合格しました。格闘と攻撃魔法には自信があります! オデットみたいな頭を使うのは苦手だけど、体を動かすのは得意です!」


 ……なぜか始まった自己紹介。


 ナタリアとミランシャは意味がわからず呆然となる。わかるぞ、俺もなにがなんだか……。


 しかしオデットとシャロットも不思議そうにナタリアとミランシャを見た。


「おかしいですね、自分を知ってもらえば仲良くなれるとママが言っていたのに……」

「うん、ママ言ってた。知らないから仲良く出来ないんだって。でも知ってもらえば仲良くできるって」

「バ、バカにしないで……!」


 ナタリアが声をあげた。

 でもオデットとシャロットは不思議そうだ。


「バカにしていません。私は私を知ってもらいたかっただけです」

「シャロットも。そうすれば仲良くできるんだよね」

「こんな時にっ……」


 ナタリアとミランシャが顔を赤くして唇を噛みしめた。言葉が見つからないのだ。

 だが、いつまでもおしゃべりしている時間はない。


「オデット、シャロット、騎士団長として命じる。要救助者の退避完了までダークドラゴンを食い止めろ。だが無理はするな。必ず生きていろ。騎士団は死ぬことを許さない、全員生還だ」

「「はっ」」

「よし」


 俺は頷いてナタリアとミランシャを振り返る。


「オデットとシャロットが食い止めているうちに行くぞ! お前たちは俺が必ず司令本部へ連れ帰る! 急げ!」

「は、はいっ……」


 俺は要救助者を両腕に六人(かつ)いで走りだす。これくらい問題ない。

 ナタリアとミランシャもなんとか俺の後をついてくる。その場に残したオデットとシャロットを時おり振り返りながら。


「振り返るな。今は帰還することだけ考えろ」

「でも……」

「振り返るな」


 背後で娘たちとダークドラゴンの戦闘が始まった。

 でも俺は振り返らない。少しでも早く帰還を目指す。二人の娘がつくった最善の方法を無駄にしたくなかったからだ。





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