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第18話 俺は騎士団団長クレイヴ・エインズワース

「これは、なかなか壮観そうかんだな」

「団長、感心してる場合ではありませんっ」

「わかってるよ。あのダークドラゴンはここで必ず始末する。一体も王都には近づかせん」


 もし侵攻をゆるせば王都に十二年前と同じ惨状さんじょうが広がるだろう。


「第一部隊、第二部隊は左右に展開し、片っ端からダークドラゴンを殲滅しろ! 第三部隊は後方援護、及び負傷者の救助! 第四部隊は中央に展開!! 行け!!」

「はっ!」


 各隊隊長に俺の命令がいきわたる。


 俺はちらりと娘たちの配置をたしかめた。二人は第三部隊、後方支援の部隊に配置されていた。


 二人の実力なら前線の配置でもおかしくない。しかし最初の戦闘が終わったばかりで消耗しょうもうおもんぱかっての配置だ。俺は自分の騎士団から死者をだすつもりはなく、その俺の意志は騎士団幹部連中も含めた騎士団共通の原則。だからこれは正当な配置。


 だが。…………俺はダメな奴だな。後方配置でどこか安心している自分がいる。


「団長、司令本部設営が完了しました。お越しください」

「わかった。アイリーン、お前もこっちだ」

「はい」


 俺はアイリーンを連れて司令本部に足を向ける。

 本当ならアイリーンは民間人として避難所に行かせなければならないが、そこに辿りつくまでに安全の保障はない。ここも危険だがここを出るのも危険、ならば俺の目の届くところにいてもらう。


「アイリーン、お前は討伐が完了するまでここにいてくれ。ここから避難させてやることはできない」

「わかっています。私ができることは少ないですがお手伝いさせてください」

「ありがとう。それなら負傷者の治療を頼む。救護テントに行ってくれ」

「わかりました」


 アイリーンはさっそく救護テントに向かってくれた。娘たちが心配で仕方ないだろうに、団長の妻として気丈きじょうに振る舞ってくれる。

 その後ろ姿を見送り、俺は司令本部に入った。

 整列した幹部連中に迎えられる。


「待たせたな。状況を説明しろ」

「はっ」


 俺が定位置に立つと、目の前のテーブルに地図が広げられた。

 補佐官が説明する。


「現在、地上(およ)び上空に多数のダークドラゴン捕捉。その数は五十八体。ダークドラゴンは王都の方角に進行しています。現在、各地点に配置した部隊が進行を食い止めていますが油断のならない状況です。王都に増援を要請しましたが、到着するまで時間がかかるかと」


 ダークドラゴンと騎士の数を考えれば、一時的に進行を食い止めるので手一杯だ。確実な討伐は困難。そうなると時間の問題で突破されるだろう。


 しかし司令官としてその不穏な予測を表情には一切ださない。


「わかった。例の召喚士はどうなっている。召喚士を追っていた騎士は?」

「ダークドラゴン出現前の交戦中との連絡が最後です。救援班からも連絡が途絶えています」

「そうか、巻き込まれた可能性があるな。最後に連絡があった場所は?」

「ここより南の方角です。谷底にて召喚士を包囲したと連絡がありましたが」

「なるほど、そこでなにかあったな」


 今回のダークドラゴン大量出現はほぼ間違いなく召喚士が関わっている。

 召喚士を抑えなければダークドラゴンはさらに数を増やす可能性があった。


「召喚士追跡は俺が行く。ここの指揮は副団長に任せた」


 俺は副団長に対ダークドラゴンの指揮を任せ、召喚士を追うことにした。

 根元を断たねばこの騒動は収まらない。


「承知しました。あとはお任せください」

「ああ、頼んだぜ」


 そう言って俺は司令本部を出た。

 本部の外は負傷した騎士でごった返している。

 救護テントに入りきらなかった軽症者は外で治療され、また前線へと戻っていく。

 まさに戦場さながらの光景が広がっていた。


「アイリーン!」


 俺はアイリーンを見つけて声をかけた。

 アイリーンは負傷した騎士の治療をしていた。

 騎士は俺の姿に起立しようとしたが、「そのままでいい」と制する。

 アイリーンも「大丈夫ですよ」と騎士に優しく声をかけて包帯を巻いた。


「アイリーン、ここの状況は?」

「次から次へと騎士の方々が運び込まれています。前線に戻れる方は戻っていますが、深手を負った方は早く王都の治療院へ運んだほうがいいでしょう」

「そうか。さっさと終わらせねぇとな」

「あなたはどちらへ?」

「俺は召喚士を追う」

「そうですか……。どうかお気をつけて」

「ああ、お前も頼んだぞ」


 そう言ってアイリーンの肩に手を置いた。

 手のひらに感じるぬくもりが愛おしい。

 アイリーンは肩に置かれた俺の手を見つめ、またまっすぐ俺を見た。


「どうか、どうかお気をつけて」


 アイリーンがそっと言葉を繰り返した。

 たった一言だ。でもそこに込められた言葉の深さに俺はたまらなくなる。

 俺はひとつ頷いて、「行ってくる」とアイリーンに背を向けて歩きだした。

 俺は騎士団から決して死者をださない。全員無事に大切な人の元へ帰らせる。それは俺自身も含めてだ。




 俺は山の小道を走っていた。

 頭上ではダークドラゴンが飛び交い、騎士たちが応戦している。

 俺は戦闘の援護をしながらも足は止めずに進み続けた。

 そして少しして目的の谷底へ入ったが、そこに広がっていた光景に息を飲む。


「お前ら……!」


 追跡や救援の騎士たちが倒れていたのだ。

 そのうちの一人に駆け寄って状態をたしかめる。


「……息はある。これは……毒か」


 外傷はないが顔色がどす黒く変色していた。はやく治療しなければ間に合わない。

 俺は鷲を召喚し、救援部隊を呼んだ。


「待ってろ。すぐに救援部隊がくる。治療すれば大丈夫だ」

「……ぅ、だんちょ……。すみま……せん……」


 騎士がうっすらと目を開け、かすれた声で謝ってきた。

 任務失敗を悔いる姿に、バカがとため息をつく。


「お前らは俺に場所を知らせた。任務達成だ。充分だ。あとは回復して戻ってこい」


 俺がそう言うと騎士がかすかに口元をやわらげる。

 でもけわしい顔になって報告をする。


「ダークドラゴンと、アラクネを……召喚したのは、召喚士で、す……」

「やはりそうか」

「お気を、つけください……。召喚士は……ひとりでは……」


 ザワリッ……!


 ふいに一帯の空気が重くなった。

 殺気を隠そうともしないそれ。


 気がつけば周囲は囲まれていて、数は一人、二人、……十人か。


 俺は騎士をゆっくりと地面に置き、やれやれと立ち上がる。


「わざわざ自分から出て来てくれるなんて、手間がはぶけて助かったぜ」


 そう言って背後の召喚士を振り返った。

 フードを目深く被った召喚士が十人。ひとりひとりが凄まじい魔力を持っている。

 真ん中に立っていた召喚士が一歩前に進みでた。

 そして被っていたフードをめくる。



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